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A24の極限スリラー『ライトハウス』撮影秘話を監督が語る! ロバート・パティンソン × ウィレム・デフォーがW狂演

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ライター:#松崎健夫
A24の極限スリラー『ライトハウス』撮影秘話を監督が語る! ロバート・パティンソン × ウィレム・デフォーがW狂演
『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

狂演! W・デフォー×R・パティンソン

外界から遮断された孤島の灯台を舞台に、人間の狂気と恐怖の根源に迫る映画『ライトハウス』が2021年7月9日(金)より全国公開となる。ロバート・パティンソンウィレム・デフォーのW主演でありながら、登場人物は全編ほぼ2人という奇抜な設定。

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

この個性的な作品を監督したのは、アニャ・テイラー=ジョイ主演の『ウィッチ』(2015年)で長編映画デビューを果たし、高い評価を受けたロバート・エガース。インタビューでは、映像に対する技術的な選択や手法から、作品の意図を語って頂いた。

『ライトハウス』ロバート・エガース監督

時代の雰囲気を生み出すために選択した撮影機材

『ライトハウス』は、スタンダードサイズ、モノクロという現代の映画ではあまり使われない手法を用いている。スタンダードサイズを用いることで、例えばワンショットに2人を収めた構図の収まりがいいという印象があり、劇中では左右対称のシンメトリーの構図も多用していることを窺わせる。この手法を選択した理由にはどのような点が挙げられるのだろうか。

実は1:1.33よりもさらに狭い、1:1.19という昔の映画の画面サイズなんです。当初は1.33で撮るつもりだったのですが、撮影監督のジェアリン・ブラシュケと「サウンドトラックのある、もっと狭いアスペクト比(画面の縦横比率)でもいいんじゃないか?」と冗談で話していたんです。それでよく考えてみると、閉所恐怖的な感じや、灯台の垂直な高さを感じさせるためには、このアスペクト比が効果的だということが判った。

このアスペクト比は、フリッツ・ラング(※注:1)も使っているんですが、彼の場合は、当時<音>の入った映画を作りたいという理由からだった。それしか選択肢がなかったので、1.19というアスペクト比にせざるを得なかったわけです。ですが、現代ではあまり使われない1.19というアスペクト比を使うことによって、よりタイトな画面ができたことは良かったと思っています。

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

1:1.33というアスペクト比は、かつての家庭用テレビのような縦横が3:4の比率の画面とほぼ同じだと考えると分かり易いだろう。また、「サウンドトラックがある」と説明している点も重要だ。映画のフィルムには、映像を記録するだけでなく、音声を記録する<サウンドトラック>と呼ばれる部分がある。サイレント映画からトーキー映画へと移行する時代、フィルムに音声部分を必要としたことで、映像部分が削られ、画角が狭くなったという経緯がある。

ロバート:このアスペクト比を使うことによって、映像に古い感じが出ています。もちろん、モノクロであることも古く感じる一因です。あと、おっしゃる通り、私はシンメトリーが好きだということもあります。このアスペクト比だとシンメトリーの構図が活かせるんですよ。ちなみに、以前、私が撮った短編『BROTHERS』(原題:2015年)は1.33のアスペクト比だったのですが、前作の『ウィッチ』は1.66(1:1.66)というアスペクト比だったので、より正方形に近い画面でした。どうやら、より四角に近いアスペクト比というものが、私にとっては快適なようです。

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

フリッツ・ラングはドイツ表現主義を代表する映画監督のひとりだが、この映画の持つ陰影にはドイツ表現主義の影響を感じさせる。撮影監督のジェアリン・ブラシュケは、1930年代から1940年代に使われたレンズを使用したと「American Cinematographer」誌のインタビューで語っているが、その時代の機材を使うことで、その時代に撮影された映像と同じような映像が実践できると考えたのではないだろうか。

ロバート:まず、その時代の雰囲気を作りたいと考えました。なので、1930年代のような映画にしたということではなく、その雰囲気を出したかったということです。もし、1931年に作った映画であれば、『ライトハウス』で描いたような自慰や放屁といった表現は(規制があったので)こんなに多く出てきません。それから、使用した特徴のあるレンズやフィルターは、映画が始まった古い時代のものです。実際に、1912年~1918年頃に使われていたレンズを使っています。例えば、ロバート・パティンソン演じるウィンズローが、林業をしていた頃の思い出をフラッシュバックさせる場面などで使いました。

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

『ライトハウス』の映像のルックには“今っぽくない”という特徴がある。例えばそれは、モノクロで撮影されているという点に言及できる。もうひとつは、フィルムで撮影されているという点。近年、フィルムで撮影される作品がハリウッドで増加傾向にあるとはいえ、あくまでもデジタルでの撮影が主流であるというのが現状だ。そんな状況で「モノクロの作品をフィルムで撮る」という手法を選んだ理由はなんだったのだろう。

ロバート:撮影監督のロジャー・ディーキンス(※注:2)とジェアリンが「フィルムで撮ったかどうかということが、観客には判るのか?」という議論をしていたことがあったんです。そのこだわりに疑念があったんですね。今回使用したモノクロのDouble-Xは、1950年代から変わらずユニークなルックを引き出すフィルムです。最初はALEXA(デジタル撮影のカメラ)で、Double-Xの持つ黒やグレーのトーンに近づけようと試みたのですが、難しかった。昔の映画を観ると独特の雰囲気があり、その映像を見ると、その時代に連れて行かれたような感じになりますよね。様々なテストをした結果、私たちの求めていたルックを与えてくれたのが「モノクロの作品をフィルムで撮る」という手法でした。とても楽しかったですよ!

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

そして、撮影に関する、ある秘密を教えてくれた。

ロバート:これは、これまで受けたどのインタビューでも話したことがない秘密なんだけど……カモメが出てくるでしょう? あれはALEXAで撮っているんですよ。なぜなら、何度も繰り返し、ずっと撮っていられるから。たぶん、誰にも判らないと思うんだけれど……映像をよく見ると、カモメのお腹のあたりに不自然な影が出ていて。ただ、背景はフィルムで撮り、カモメをグリーンバックの前で撮影することで合成しています。

「鳥は言うことを聞いてくれないので、フィルム代がかさんじゃいますもんね」と返すと、ロバート・エガース監督は笑って同意した。

観客に想像させることで作品に関わらせてゆくということ

『ライトハウス』に対する個人的な印象がある。例えば、知らない街に引っ越して来た時。最初は周囲の状況がよく判らず、目についたものしか見ていないものだ。ところが、だんだんその街に慣れてくると、それまで目につかなかった色んな風景が見えてくる。この映画でクロースアップからワイドショットになった瞬間に訪れる視覚的な印象は、そんな感覚とどこか似ているのである。

ロバート:映画を作る時はいつも、相手に疑問を抱かせたいと考えています。『ライトハウス』には、はっきりした“物語”のようなものがない。同じシーンの繰り返しで、少し加速したり、笑いがあったり、喧嘩をしたり。そういう“物語”が強調されない、想像に任せるような映画があってもいいと私は思っています。

とはいえ、私が関わっている次の作品にはちゃんと“物語”があります。ですが、“物語”がありつつも、すべての答えを与えるという“物語”はあまり好きではない。疑問の余地を残しておきたいのです。そして、疑問の余地を残すことで、観客により作品に関わって欲しいという気持ちがあります。もちろん、人によっては「そんなものは必要ない」という方もいるでしょう。「長時間働いて帰宅した後なんだから、リラックスして簡単に観られるような映画にしてくれよ」という人たちの気持ちもよくわかります。ただ、そういう人には、この映画は向いていないのかもしれません。

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

視覚的要素だけでなく、『ライトハウス』の演出には、フレームの外側を感じさせ、想像させることを意図された音響設計を指摘できる。雨、風、鳥が窓を叩くなど、どこか不協和音を感じさせるような<音>の数々は、実際に人間の耳に聞こえる<音>よりもレベルを上げて誇張されている。

ロバート:確かに音のデザインというのは、<ハイパーリアリスティック>な感じにするよう誇張してはいます。ですが、実際に撮影していた現場では風が強く、数メートル先にいるスタッフの声が聞こえないような状態だったんです。また、映画のためにセットで作った建物以外にも、もともとロケ場所にあった建物もあって、その窓からの隙間風は幽霊の声のような音を出していた。例えば、海辺の旅館などに泊まると、風の音が聞こえる、ということがありますよね。そういう既にその場にあった<音>を、ホラー映画っぽく加工したという音響デザインもあります。また、音楽を多用しているのですが、逆に音楽が無い場面というのもあって、そこでは風の音や波の音が音楽のような効果を生み出しています。

『ライトハウス』©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

ロバート・エガース監督の短編『BROTHER』も、前作『ウィッチ』も、社会と隔絶された辺境をモチーフにしている。登場人物を絞るという設定は、監督の好みなのだろうか。

ロバート:私が好きな映画は、スタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980年)や新藤兼人の『鬼婆』(1964年)、イングマール・ベルイマンの室内劇のような作品。ひとつの場所、ひとつのシチュエーションで、登場人物が内省する、自己探求をする、という“物語”が好きなんですね。もうひとつの理由は、いつも予算がないからということがあります。ですが、次回作では登場人物がたくさん出てくるんですよ。というのも、いつもより予算があるので(笑)。

『ライトハウス』ロバート・エガース監督

取材・文:松崎健夫

※注:1 『メトロポリス』(1926年)や『M』(1931年)を監督したドイツ表現主義を代表する監督のひとり。1930年代にハリウッドに招聘され、フィルムノワールの系譜を導いた。サイレント期からトーキーへの移行時に作品を生み出していったのもポイント。
注:2 『ブレードランナー2049』(2017年)や『1917 命をかけた伝令』(2019年)でアカデミー撮影賞に輝き、陰影に対する表現で名高い現代の映画界を代表する撮影監督。
【出典】「American Cinematographer」 2019 November

『ライトハウス』は2021年7月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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『ライトハウス』

1890年代、ニューイングランドの孤島に2人の灯台守がやって来る。 彼らにはこれから4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。 だが、年かさのベテラン、トーマス・ウェイクと未経験の若者イーフレイム・ウィンズローは、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。 険悪な雰囲気の中、やってきた嵐のせいで2人は島に孤立状態になってしまう。

制作年: 2019
監督:
出演: