世界が愛した“あのウサギ”が都会で不良化!?『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』 原作から時代背景までモフモフ解説

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:まつかわゆま
世界が愛した“あのウサギ”が都会で不良化!?『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』 原作から時代背景までモフモフ解説
『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

ちょっとオトナになったピーター、大都会へ!

このフワフワモフモフなウサギたちが3DCGアニメーションだなんて、信じられない。ほっぺもおなかも、短い尻尾も、触ればふんわりほわほわした柔毛に包まれて、ふわふわフェチとしては触りたくってもだえてしまう。それが、3DCGで描かれているなんて……。

と、前作『ピーターラビット』でも思った。が、あれから3年、『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』で、より柔らかさを増したモフモフなピーター一家を見ると、ここだけの話、本物を使っていると白状しちゃいなよ、と言いたくなる。まぁ二本足で立って、しゃべって、スタントマン顔負けのアクションをする本物のウサギなんているわけないのだから、まぎれもなく3DCGアニメなんですけどね。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

1901年に私家版として出版された「ピーターラビット」は、36か国語に翻訳され、2億5千万部も売れている絵本。日本でも10センチちょいの大きさのちいさな絵本がセットになった化粧箱入りで福音館書店から出ているし、私はピーターの絵のついたウェッジウッドの赤ちゃん用食器セットを出産祝いにもらって、今も使っている。

ピーターとその仲間たちの絵は、1866年生まれの作者ビアトリクス・ポターが自ら描いたもの。擬人化されて二本足で立ったり服を着ていたりするけれど、博物学が流行った19世紀末期から20世紀にかけての在野の自然研究者でもあったビアトリクスらしく、動物たちの姿や生態はリアルに精密に描かれている。『アンモナイトの目覚め』(2020年)でも描かれていたように、この時期のイギリスでは中産階級から上流階級に博物学が流行し“アマチュアの学者”が生まれたが、女性は学会に入って論文を自分で発表することは許されなかったという。

ビアトリクスもキノコの研究で優れた論文を書いたものの、それを自分で発表することは許されず、学会では代読してもらったという話もある。ここでもしビアトリクスが学会に受け入れられ学者になっていたら、「ピーターラビット」は誕生しなかったかもしれない。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

絵本「ピーターラビット」を生んだ産業革命とナショナルトラスト運動

博物学の流行にはダーウィンの進化論の発表が関係していると同時に、イギリスで起こった産業革命も関係があるという。進化論は、人間は神が現在の形に最初から作りあげた特別な存在ではなく、動物と同じく進化を経て現在の形や生態になった生物なのであると唱えた。この考え方のおかげで、ピーターラビットのように動物を擬人化して描き、動物に思考や個性を持たせることが可能になったのだ、と言われている。さらに、そこに産業革命によるいくつもの変化が、ピーターラビットの本がイギリス中に広まることを可能にした。

まず、ポター家の家業は産業革命によってイギリスの主産業の一つとなった綿織物の生産である。それでビアトリクスの祖父が大成功し、ポター家は上流中産階級の一員となり、ビアトリクスも知的で裕福な生活をおくることができたのである。また、印刷機の発達により出版業も盛んになり、多くの人が安価に本を手にすることができるようになる。19世紀末になると子どもたちの間に識字教育がいきわたるようになり、子ども向けの出版物が生まれる。産業革命初期は児童労働に従事する子どもも多かったが、1878年の工場法の改正により10歳未満のこどもの労働が禁止されるなど、子どもの保護や教育が進み、子どもの読者が増える。

その一方で大人たちの間では、産業革命による社会の変化を進めたいグループと、その変化によって失われてしまうものを守らなければと考えるグループが生まれてくる。後者であるポター一家は、友人である牧師が進める自然保護運動に加わるようになり、それはビアトリクスが晩年に熱意を傾けた湖水地方の自然を守り動物たちを保護するナショナルトラスト運動へとつながっていく。と、いった具合。

さて、ビアトリクスの「ピーターラビット」は、彼女の家庭教師だった女性の息子、当時5歳の少年への手紙として生まれ、のちに幼児向けの絵本として出版された。19世紀末の5歳は義務教育が始まる年頃なので、読むのも書くのも簡単な英語で描かれ、少ない文字量を絵で補った物語絵本は、子ども自身が自分で読む本として親が与えるには最適なものだったろう。しかも主人公のピーターは、好奇心の塊の、やんちゃで、いたずらで、元気いっぱいで、失敗もたくさんするが愛すべき少年である。まるで僕みたい! なんで僕が考えていることがピーターはわかるんだろう? 僕がやってみたいと思うことをピーターがやってみてくれるんだ! というわけである。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

畑を巡って真剣勝負! ドタバタぶりが楽しかった実写化第1作

そんなピーターが現代のウィンダミアに降臨したのが2018年。3DCGアニメーションで描かれたフワフワモフモフのウサギ少年ピーターが、愛する父をパイにして食べてしまったにっくきマクレガーさんを退治して(!?)、お話は始まる。

マクレガーさん亡きあと、彼の家も畑もピーターと仲間たちの楽園になるぜっ! と喜んだのもつかの間。遺産を相続した遠縁のトーマスがロンドンからやってきて、家を売りに出すべくピーターたちを追い立てる。しかも、ピーターが大好きな画家のビアに、どうもこのトーマスが恋をしてしまったみたいで、ピーターは気が気ではない。どうにかトーマスを追い出してビアとの日々を取り戻し、マクレガーの畑を森の仲間たちの楽園にと、上へ下への大騒動を繰り広げる。

――というのが前作『ピーターラビット』のお話。森の仲間VSトーマスの戦いは、子どもたちの戦争ごっこを描く映画がいつだって大騒ぎでハチャメチャでわくわくしてしまうように、ものすごく、楽しい。ビアを巡る恋のさや当てで、残念ながら人間には負けてしまったウサギのピーターだけれど、ビアが幸せそうなのでいいことにする……という大人の階段を一歩上るところまでが、前作だった。

大都会で父のワイルドな旧友と出会ったピーター、悪の道へ……?

そして今回の『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』。ピーターは少し大人びて、人間でいうなら14~15歳、という感じ。とうとう結婚式を挙げたビアとトーマスと共にマクレガー・ハウスで暮らしている。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

3匹の妹たちや、いとこのベンジャミンには頼れる兄貴分としていいところを見せたいし、大好きなビアを喜ばせたい。家族に恵まれなかったトーマスがピーターたちに対して父親気取りなのは気に食わないけれど、悪い奴ではないとわかったからには敬意を持って対したい……とは思っているのだが、どうもトーマスの方がピーターに対して“やんちゃ坊主”という先入観が抜けない様子。たびたびピーターが面倒を“回避”しようとしているのを、面倒を“起こしている”と見誤り、つらく当たる。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

「パイになった父さんなら、僕がどうしたいのか、わかってくれるのに」と不満と悲しみを抱えるピーターだが、ピーターたちを描いた絵本が大手出版社から発売されることになったビアは舞い上がっていて、ピーターの気持ちなんかかまってくれない。だんだんふてくされてくるピーター。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

そんな折も折、ビアの絵本を出版しようという会社がビア夫妻を大都会グロスターへ招待し、ピーターたちも一緒に行くことになる。けれどそこでピーターが出会ったのは、パイになった父さんの親友だったというバーナバス。長年ストリートでワイルドに暮らしてきた彼は、「もういい子は辞めだ」と思っているピーターを、魅惑的なワルの世界に誘う……。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

ピーターラビットは“妖精物語”の系譜=チャールズ・ディケンズ!?

子どもたちが大きくなるにつれて世界は広がり、ものの考え方の多様性を知り、何より自分は何者なのだろうと悩み始めるときがくる。ピーターはそんな時期を迎えている。イギリス文学に登場する子どもや年若い青年はそんな時期に、社会的には望まれない立場の人物に出会い、翻弄されて社会の裏側を知る。人間の暗い部分を知る。例えば、チャールズ・ディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」や「オリバー・ツイスト」のように。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

子どもの道徳や教養の啓蒙目的で始まったイギリスの児童文学は、やがてファンタジーとリアリズムの2つの方法で花開く。動物がしゃべったり、モンスターが跳梁跋扈したりする世界を描くファンタジーは、古くから伝わる“妖精物語”の系譜を引くと考えられている。“妖精物語”では登場者はその与えられたキャラクターを変化したり成長させたりしない、つまり善悪黒白の記号として登場するのがお約束だった。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

が、20世紀に入って、例えば「指輪物語」のような、より複雑で知的で大人向けのファンタジーは、この枠を大きく超えるようになる。登場人物たちは深い内面を描写され、物語の中で成長していく。もともとが「絵」本である「ピーターラビット」の場合、文章で二次元の絵である彼らを成長させることには限度がある。そこで、3DCGアニメで立体化、血肉のある命を吹き込み、喜怒哀楽し、悩み成長していく登場「人」物に育て上げたわけである。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

かくて、『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』はウサギ版の「オリバー・ツイスト」「デイヴィッド・コパフィールド」となり、ピーターラビットはディケンズと肩を並べることとなったのである。とは、言い過ぎだろうか。

文:まつかわゆま

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』は2021年6月25日(金)より全国公開

『ピーターラビット』は日本テレビ「金曜ロードショー」で2021年6月25日放送

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

湖水地方で優しい画家のビアと暮らす“モフカワ”ウサギのピーター。3年前に隣に引っ越してきた動物嫌いのマグレガーは、ピーターのお父さんをパイにして食べた因縁の一族のひとり。ビアをめぐるピーターとマグレガーの全面抗争も終息し、大好きなビアと大嫌いなマグレガーが遂に結婚。皆で仲良く暮らすはずが父親気取りのマグレガーにピーターは「イタズラするな!」「大人しくしてろ!」と叱られる毎日。そんな生活にもうウンザリのピーターは……。

制作年: 2020
監督:
出演:
声の出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 世界が愛した“あのウサギ”が都会で不良化!?『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』 原作から時代背景までモフモフ解説