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『バーフバリ』デーヴァセーナ姫の甘酸っぱいシーンに秘められた神話的表現とは/クンタラ王国編(2/2)

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ライター:#松岡環
『バーフバリ』デーヴァセーナ姫の甘酸っぱいシーンに秘められた神話的表現とは/クンタラ王国編(2/2)
『バーフバリ 王の凱旋』 ©ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.
『バーフバリ』の下敷きになったインドの古代叙事詩「マハーバーラタ」と共に、いろんな神様のキャラクターやエピソードについて、アジア映画研究者の松岡環さんが解説してくれた。今回は『バーフバリ』の中でファンに人気の高いクンタラ王国の神話的な表現を紐解く。

平和を愛するクンタラ王国はヴィシュヌ神を信仰する

『バーフバリ 王の凱旋』 ©ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

前回の「『バーフバリ』マヒシュマティ王国編」でシヴァ派の話をしたが、ではシヴァ派に比べて、ヴィシュヌ派はどうだろうか。実は、『バーフバリ 王の凱旋』で初めて登場するクンタラ王国が、ヴィシュヌ派の国なのである。『バーフバリ 伝説誕生』でも、女戦士アヴァンティカを始めとするクンタラ王国の末裔たちが登場したが、シヴドゥがアヴァンティカと出会った時点では、クンタラ王国はすでにマヒシュマティ王国によって滅ぼされていた。小国ながら繁栄していたクンタラ王国そのものが登場するのは、『バーフバリ 王の凱旋』冒頭のフラッシュバック・シーンにおいてである。

『バーフバリ』二部作には、それぞれフラッシュバック・シーンが巧みに挿入され、物語を重層的に構築しているが、それだけに『バーフバリ 伝説誕生』ではまだ謎の部分が多い。その謎が解き明かされるのが『バーフバリ 王の凱旋』で、マヒシュマティ王国の王宮広場に鎖でつながれ、悲惨な姿を見せていたデーヴァセーナ妃が、クンタラ国のシーンでは輝くばかりの美しさで活躍する。王座に就く前に諸国を巡っていたアマレンドラは彼女を見初め、同行のカッタッパと共に策略を巡らせてクンタラ国の王宮に滞在するようになるのだが、その時にクリシュナ神を祭るシーンが出てくるのだ。インターナショナル版ではカットされているシーンではあるものの、『バーフバリ 王の凱旋』は完全版がたびたび上映されたので、見た方も多いことだろう。

『バーフバリ 王の凱旋』 ©ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

クリシュナ神は、前述した象神ガネーシャと人気を二分するヒンドゥー教の神様で、ヴィシュヌ神の「アヴァタール(あるいはアヴァターラ)」の1人である。「アヴァタール」は日本語では「化身」や「権現」と訳されるが、ヴィシュヌ神には10の「アヴァタール」がいて、まとめて「ダシャーヴァタール(十化身)」と呼ばれている。なお、「アヴァタール」は、ネット用語「アバター」の語源でもある。

「ダシャーヴァタール」は、
1.マツヤ(魚)
2.クールマ(亀)
3.ヴァラーハ(野猪)
4.ヌリシンハ(人獅子)
5.ヴァーマナ(矮人(こびと))
6.パラシュラーマ(斧を持つラーマ)
7.ラーマ
8.クリシュナ
9.ブッダ
10.カルキ
となっており、中でも7番目のラーマと8番目のクリシュナは人気がある。ラーマは、「マハーバーラタ」と並ぶインドの古代叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公であるラーマ王子のことだ。

クリシュナ神は子供の頃からたくさんの逸話を持つ神様なのだが、長じては超イケメンの若者となる。彼は常に牛飼いの女性たちに囲まれていたほか、人妻であったラーダーを恋人にしていたというプレイボーイで、インド古典舞踊や様々な絵画のモチーフとしても親しまれている。『バーフバリ 王の凱旋』でも、アマレンドラにほのかな恋心を抱いたデーヴァセーナ姫が、クリシュナ神像への語りかけを通して自分の心を伝えているが、それを大木の枝に寝そべって聞くアマレンドラの姿は、蛇(ナーガ)の王アナンタの寝床に寝そべるヴィシュヌ神とも二重写しになり、まるで一幅の絵のようなシーンを作り上げている。

『バーフバリ』シリーズ監督 S・S・ラージャマウリ

このシヴァ派のマヒシュマティ王国VS.ヴィシュヌ派のクンタラ王国という設定に関しては、S・S・ラージャマウリ監督は昨年の来日時にこう語っていた。

「マヒシュマティ王国を最初にデザインした時は、非常に厳格な政治が行われている軍事国家、というイメージでした。そういう国が信仰する神としては、シヴァ神だろうと思ったのです。次にクンタラ国のデザインを考えた時は、そこにはハッピーな人たちが住んでいる、とイメージしました。平和を愛する人々がいる国なので、クリシュナ神がぴったりだと思ったのです。それで、どの部分もそのイメージに沿って作り上げました」

『バーフバリ 王の凱旋』 ©ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

なお、シヴァ派とヴィシュヌ派では、額に付ける印も違ってくる。シヴァ派は額に、三本線を横に引く印を付ける。また『バーフバリ』では、シヴァ神の持つトリシュール(三叉戈)の刃の形を額に描いている登場人物も見かけた。それに対しヴィシュヌ派は、U字の形を眉間に描く。こういった額の印はティラクと呼ばれるが、劇中でどの人がどんな形のティラクを付けているのかを、チェックしてみるのも面白い。

壮大な王国ファンタジーである『バーフバリ』二部作は、細部まで神経が行き届いた現代の神話と言える。種々の宗教的アイコンとも親しみながら、『バーフバリ』の世界に浸ろう。

文:松岡環

バーフバリは踊りと破壊の神!?インド人が胸を高鳴らせたシーンとは/マヒシュマティ王国編(1/2)

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『バーフバリ 王の凱旋』

数奇な運命に導かれた伝説の戦士バーフバリ。祖父、父、息子、3代に渡る、宇宙最強の愛と復讐を描くインド史上最大ヒットの大河アクション超大作。

制作年: 2017
監督:
脚本:
出演: