自由を失う香港の今とシンクロ…! ドニー・イェン&アンディ・ラウ初共演の香港ノワールの王道をゆく『追龍』

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ライター:斉藤博昭
自由を失う香港の今とシンクロ…!  ドニー・イェン&アンディ・ラウ初共演の香港ノワールの王道をゆく『追龍』
『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

香港映画のお家芸! 2020年に繋がる“対立”構図は偶然か!?

建物の屋根ギリギリという近さで、街なかの上空を飛んでくる飛行機。まさに「巣窟」という言葉がふさわしい九龍城……。前者は1998年に啓徳(カイタック)空港が閉港し、後者は1993~1994年に取り壊され、香港のおなじみの光景は消失した。この『追龍』は、1960年に始まる物語。手の届きそうな巨大な飛行機や、九龍城のスラム街のような内部が再現され、思い切りノスタルジーをくすぐる。それだけで妙に胸が熱くなる一作である。ドニー・イェン演じるン・サイホウが九龍城の内部を歩く様子を長回しで撮るシーンが、この「城」の、今は失われた蠱惑的な魅力を伝えてくれる。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

1960年の香港は、イギリスの統治下。この『追龍』でも、主人公の2人、黒社会で頭角を現していくン・サイホウと、香港警察のリー・ロックにとって、共通の敵となるのは英国人警司である。実質の統治者に対して、本来は結託するはずのなかった2人が不思議な絆を育む構図なのだが(そこが物語のメインではないにしろ)、どう考えても2020年の香港の状況を重ねずにはいられない。国家安全維持法を成立させた中国政府と、それに反発し、抗議する香港市民。60年の時を超えてシンクロしてしまうのだ。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

しかし、この『追龍』は2017年の製作。たしかに2014年、いわゆる「雨傘運動」として反中デモ、反政府デモが行われて、香港と支配者の複雑な対立関係がクローズアップされていたので、『追龍』の作り手たちにも現在の状況につなげる意図は無意識にでもあったはず。それでも2020年の今、こうして日本で公開されるのは偶然だろうが、絶好のタイミングだと感じる。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

そんな風に、古き佳き香港へのノスタルジーと、見え隠れする社会への皮肉も感じるものの、基本は香港映画の王道、お家芸でもある、男たちの濃厚かつ複雑な絆を軸にした犯罪ドラマだ。その「軸」は最後の最後までブレることはない。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

若返りぶりがスゴい! 時代の変化を印象づけるドニー&アンディの名演に拍手

ドニー・イェンとアンディ・ラウ。この2人が初共演というのもちょっと意外だが、1960年代を中心にその後の激動の運命も描かれるので、まさしく「彼らを観るスター映画」である。今作は2017年の作品なので、撮影時期を考えると、主演2人の年齢は50代前半から中盤。しかし冒頭の1960年のシーンで現れる彼らの姿を一言で表現すれば、「若すぎる!」。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

もちろん2人とも、実年齢にふさわしくないほど若々しい素顔の持ち主なのだが、それにしても時代をさかのぼったかのように錯覚してしまう。メイクアップを駆使しているのだろうが、とくにアンディのみずみずしさは異常事態ではないか!? 表面的な若さだけでなく、アンディは姿勢や動き方で、野心満々の若き警察官を体現。さすがである。一方のドニーは、ウィッグにやや違和感があるものの(それはそれで観ていて微笑ましい)、驚異のジャンプ力を披露しての蹴りなど、アクションスターの現役感をバリバリに誇示。日本では2020年7月3日に公開された『イップ・マン 完結』(2019年)で見せる達人の域の詠春拳とは違い、暴発気味のムチャクチャな動きも披露してくれるのが、ファンにはうれしい限り。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

さらに驚くのは、5年後のシーンになると、ドニー、アンディともに、黒社会の酸いも甘いも経験した「余裕」を漂わせ、一気に貫禄をつけて登場してくるところ。こうした変化を表現している点からも、今作が「スター映画」であることを実感する。しかも後半のドニーは特殊メイクで、ほぼ別人と化して現れるなど、長い歳月を感じさせる演出は、この『追龍』の大きな楽しみだろう。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

香港ノワールの粋(すい)を集めた豪快作! そして同国の未来に想いを馳せる……

数百人が大乱闘を繰り広げるシーンは、マンガのような豪快なノリだし、場面の転換にアース・ウインド・アンド・ファイアーなどR&Bが流れる効果(これはドニーのアイデアだとか)で、生々しさを極める男たちのドラマがクールに転化する。やけに“カッコいい映画”を観ている感覚をおぼえるのも、今作の持ち味だ。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

このあたり、『男たちの挽歌』(1986年)の時代の泥臭さと、『インファナル・アフェア』(2002年)の時代のスタイリッシュ感がブレンドされた印象で、香港ノワールの粋(すい)を集めたようであり、逆にこうした映画が今後どれだけ作られるのか、ラストシーンとともに香港の未来への絶望感がにじみ、切ない気持ちに襲われる。

「生死は運命が決める。富は天が決める」――劇中で何度か繰り返されるこの言葉は、主人公たちの運命を表現しているだけでなく、香港映画の未来も象徴しているようでもあるが、こうした作品を「もっと観せてくれ」と日本からも熱いエールを贈り続けたい。

『追龍』© 2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

文:斉藤博昭

Presented by 株式会社インターフィルム

『追龍』は2020年7月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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『追龍』

1960年、中国・潮州から仕事を求めて香港にやってきたホーたちは、やくざ同士の争いの助っ人に参加して警察に逮捕されるが、それを助けたのはホーの腕力に注目した香港警察のロックだった。恩義を感じたホーは、麻薬の売買で黒社会の大物となっていき、窮地に陥ったロックを助けるなど、2人は次第に友情で結ばれていくが……。

制作年: 2017
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
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