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綾野剛 主演『ホムンクルス』 漫画原作の実写表現とトラウマ描写の難しさを清水崇監督が語る!

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ライター:#SYO
綾野剛 主演『ホムンクルス』 漫画原作の実写表現とトラウマ描写の難しさを清水崇監督が語る!
『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

Jホラーの旗手・清水崇が映画『ホムンクルス』を語る!

人気漫画家・山本英夫の「ホムンクルス」が実写映画化される。このニュースは、漫画好きにとっては痺れるものだったのではないか。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

しかも、『ヤクザと家族 The Family』(2021年)などますます絶好調の綾野剛が主演を務め、山本とも親交のある清水崇監督と組むという。劇中音楽・メインテーマを担当するのは、King Gnuの常田大希が率いる音楽集団、millennium parade。メンバーの並びだけでもスタイリッシュな映画が期待できる。その“予感”通り、いやそれをはるかに超え、『ホムンクルス』(2021年4月2日公開)はルックも中身も、斬新な作品となった。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

記憶も感情もなくし、車上生活を送る名越進(綾野剛)。彼はある日、怪しげな研修医・伊藤学(成田凌)からある申し出を受ける。それは、頭蓋骨に穴を空ける「トレパネーション」と呼ばれる手術だった。ためらいつつも承諾した名越は、手術後に「他人の深層心理が視覚化されて見える」体質に。一体自分の身に、何が起こったのか?

今回は、清水監督に単独インタビューを敢行。新たな挑戦となった本作の舞台裏を存分に語ってもらった。

清水崇監督

綾野剛くんが立っていれば、人間の芝居はいける

―清水監督の作品で、メインキャラクターが男性ふたりというのは珍しいですよね。

そうですね、なにぶんホラーが多いもので。ホラーだと男性メインってなかなか難しいんですよ。男性が観ても女性が観ても、男性キャラクターが怖がっていても「自分で何とかしろよ」っていう気持ちが働いちゃうんです(笑)。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

“スクリームクイーン”という言葉があるくらい、怯える主人公像は女性のほうが合っているんですよね。これは世界共通で、海外のメジャースタジオのプロデューサーと話していても、男女関係なく「主人公は女性がいい」と言うんです。これは……今、日本で何かと取り沙汰されるジェンダー蔑視に当たらないのか? とも受け取れかねませんが……しかも、どっちに対して?(笑)

そういう意味では『ホムンクルス』はホラーじゃないにせよ男性メインだし、主人公も年齢的にはおじさんだし、どれくらいの人が興味を抱いてくれるのか最初は不安でした。商業映画は正直、内容度外視で入り口の見え方次第で興行が大きく変わりますし、テーマ的には男女無関係なのですが、入り口がそこだったから「大丈夫かな?」とは、ちょっと思っていましたね。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

―清水監督の中で「漫画の実写化」については、どう受け止めていたのでしょう?

2010年にWOWOWで『SOIL ソイル』という漫画原作のドラマをやったのですが、視聴率こそ伸びなかったけど今でも自信作です。今回はそれ以来になりますね。興味を抱いたと同時に、やはり難しさも感じました。ただ「ホムンクルス」に関していえば、デフォルメされた作品とは違って写実的なので、そういう意味では実写にしやすいとは思いました。しかしそのぶん、漫画では緻密に描ける“におい”をどう実写にするか……。感覚の表現は難しいなと感じましたね。

実写にするとしたら、異形のホムンクルスに関してはCGや合成になるのですが、そこにリアリティをもたらすことができなければ、その先にある作品のテーマを描けない。「信じられない」となってしまったら終わりだな、とは考えていました。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

―いまお話しいただいた「目に見えないものを見る」という本作特有の難しさに関しては、現場でどう作っていきましたか?

その辺りは、綾野剛くんが様々な役をこなしてきているし、ちゃんとその役を生きている感じをもたらせられる俳優なんですよね。呼吸なんかも役に合わせて変えてきますから。だから、綾野くんがそこに立って「俺には見えている」と信じてくれれば、人間の芝居はいけるという確信がありました。

むしろ僕やCG・造形スタッフが、現場にはない「名越が見ているもの」を綾野くんや観ている人を説得させられる仕上がりに持っていかないといけない、というプレッシャーのほうがありましたね。VFXをどこまでのクオリティにまで持っていけるのか、これはプロデューサー陣も僕も、最も懸念していたところでした。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

リアリティを担保する「汚し」と「余白」

―たとえば、内野聖陽さんのホムンクルスがロボットのおもちゃとして現れるシーンなど、造形の“汚れ具合”が的確だったので、入り込んで観ることができました。

質感は相当、細かくチェックしましたね。映画における特撮の“汚れ”の処理は、60年代までだと「スマートで綺麗なものがカッコいい」という認識があったように思います。それを崩したのが、『2001年宇宙の旅』(1968年)や『スター・ウォーズ』(1977年)。SFXやVFXの作り物やCGは絵空事のフィクションの世界だけど、そこにリアリティをもたらすために、日常の延長線上にあるような汚れや焦げ跡が、作品や見る人の感覚に対していかに大事かを証明しましたよね。それこそ『スター・ウォーズ』が子供だましではなく、大人も巻き込んで大ヒットした要因のひとつだと感じています。

そこから何十年も経って、もともと見えない「心の闇」を描くときに、万が一笑われちゃうようなものだと、観客にこの内容を信じてもらえなくなってしまう。安心して没入できるものにするために、いまおっしゃったような汚れ、質感はこだわるべきところでした。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

あとは、日常のなんでもないやり取りやしぐさをちゃんと描かないと、そうしたフィクショナルな部分にいけないという思いがあります。大人になるほど現実に汚染されてロマンを失い、「こんなことあるわけないよね」と言いがちになる。自分もその歳になってしまいましたが、子供の頃から思っていた所謂“つまらない大人”です。……でも、皆そうなっていく。

『ホムンクルス』はいつもやっているようなホラーではないぶん、観てくれる層の幅が増えてくれるんじゃないかと期待していますし、僕のような中高年層の大人たちにこそ納得してもらえるものを作りたいと思っていました。

その意味では、メインキャストの中で最年長の内野さんが「台本だと俺、ロボットになるけど大丈夫かな……と心配していたけど、完成した作品を観て『こんな崇高ことをやろうとしてる映画だったのか!』とわかった」と感激してくださったことが嬉しかったです。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

―内野さんが演じられたヤクザの組長は、悲劇性を纏っているため観客の心情ともリンクしやすいですし、トラウマが人生にどう影響を与えるのかが明快に示されていました。

トラウマって、みんなが大なり小なり抱えているものでありながら、他人から見たら「たかだかそんなことで悩んでいるの?」と思ってしまうようなことでもありますよね。人間ってそういうものだと思うし、だからこそ伊藤(成田凌)のホムンクルスが判明するシーンは、原作や初期の台本とは味付けを変えました。

初期の台本だと、彼が抱えている闇がいかに大きいかを劇的に見せるプランだったのですが、何度も観直しているうちに、映画的な派手なダイナミズムなんて必要ないんじゃないかと思うようになったんです。だって個々人のトラウマって、他者から見たらピンと来ないことも多いから。リアリティを追求していくほど、大仰さは消えていきましたね。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

そもそも、同じものを見ていても抱く感覚は人それぞれ違うのに、映画という表現媒体そのものが、どうしても共通認識の枠組みを設けて「これはこういうことだよね」と描かないとならないじゃないですか。ただ、こと本作においては、そのやり方では成立しないと思ったんです。ホムンクルスは個々人の深層心理が具現化したものだからこそ、「わからない」部分があるほうが真実味がある。

―ある種、観方を押し付けないというか、余白を作るような感覚でしょうか。

そうですね。そのためセリフにおいても、説明的になりすぎないように相当悩みました。全部言っちゃうとカッコ悪いし、でも伝わらないといけないですから。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

―そうした「余白」と「説明」のバランスで想起したのは、清水監督のキャリアのきっかけを作った人物でもある黒沢清監督と、脚本家・監督の高橋洋さんです。

ああ、なるほど。確かにおふたりとも「説明」をあまり行わないタイプではありますね。影響を受けている部分があるかもしれないですね。

高橋さんの監督作品を拝見していて、すごいことをしようとしているけれど、これだと観客には伝わりづらいかも、と思うことはあります。ご本人の理念的な部分を多少なりとも存じている自分にはしっかり伝わってくるんですが(笑)。ただ、何も説明してくれないからこその“強さ”は、すごくありますよね。

黒沢監督が生み出す、淡々と人が動くのを切り取るだけで何かが世界をなしてくる感じは独特なものがあって、真似しようとしてもなかなかできない。ヨーロッパで人気が高いのも納得できます。一般的な日本人には難解に感じたりもするのでしょうね。いち映画ファンとして、カッコいいなぁと思っています。僕は、もっとエンタメ寄りの嗜好ですから。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

みんなが能動的に意見を出し合う現場だった

―石井杏奈さんが演じた女子高生も、強烈な存在感でした。

彼女に演じてもらった役は、原作だと名越と何度も会ったうえで関係が紡がれていくのですが、映画だと尺の問題でそうはいかない。その結果、彼女や名越の行為が犯罪性を疑われてしまわないように、男女関係なくプロデューサーや周囲に「どう思う?」と聞いてまわって作っていきましたね。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

―入念に周囲の意見を取り入れながら試行錯誤をしていったのですね。

そうですね。男性・女性といっても一括りじゃないから、「女性が観たら拒否反応を起こす」と決めつけてしまうのも違いますしね。ひとりの女性のプロデューサーが「NO」と言っても、別の女性のプロデューサーが「面白い」ということもありますし、もちろん男性も然り。本当に人によって受け取り方は異なります。

その意味ではジェンダーや性差はほんの一部の境界であって、「いやいや、そういったことだけではなくて……」という領域にテーマの本質はあると感じていたので、その上での共感性をエンタメ作品としてどこに置けるのか? 皆が皆、総出で喜んで泣いて拍手して……では済まないし、つまらない。ある種の嫌悪感や偏った感覚も隠さず描かないと辿り着けない鋭利さもエグさも必要でした。

プロデューサー陣と監督の間でも交錯していく中で、みんなの意見をどう取り入れて、監督として多数の人に向けて作るべきか。悩むところは結構ありましたが、男女関係なく人ってやっぱり抱えているものがバラバラなんだと気づけたし、面白かったです。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

―お話を伺っていると、「トラウマ」を題材にとった本作だからこそ、個々人の価値観がより浮き彫りになったのかなと感じました。非常に能動的な現場だったのですね。

みんなが正直な現場でしたね。スタッフの中でも意見が食い違ったり、喧々諤々な感じもありましたが、それってすごく健全なもの作りの場だと思います。綾野くんや成田くんと話していて「いや、俺はこう思う。名越はそうじゃないんじゃないかな」というやり取りが出てくることもありましたし。きっと、「直感」がそれぞれを突き動かしていたんだと思います。

ただ、僕自身は「みんな向かっているところは一緒だ」と思えていました。それを失っちゃうと、現場がばらばらになるんですよ。今回は切磋琢磨できて、楽しかったです。

『ホムンクルス』©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

取材・文:SYO

『ホムンクルス』は2021年4月2日(金)より全国公開

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『ホムンクルス』

一流ホテルとホームレスが溢れる公園の狭間で車上生活を送る名越進。過去の記憶も感情も失い、社会から孤立していた。そこに突然、奇抜なファッションに身を包んだ研修医・伊藤学が目の前に現れる。

「頭蓋骨に穴を空けさせて欲しい」
「あなたじゃなきゃ、ダメなんです」

突然の要求に戸惑う名越だったが、 “生きる理由”を与えるという伊藤の言葉に動かされ第六感が芽生えると言われるその手術<トレパネーション>を受けることに。術後、名越が右目を手で覆い、左目だけで見たのは、人間が異様な姿に変貌した世界だった。その現象を「他人の深層心理が、視覚化されて見えている」と説く伊藤。彼はその異形をホムンクルスと名付けた―。

ホムンクルスと化した人々の心の闇と対峙していく中で、名越の過去が徐々に紐解かれ、自らの失った記憶と向き合うことに。果たして名越が見てしまったものは、真実なのか、脳が作り出した虚像の世界なのか? 取り戻した記憶に隠された衝撃の結末とは!?

制作年: 2021
監督:
出演: