アカデミー賞ノミネート『ミナリ』 撮影秘話&裏設定をユン・ヨジョンが明かす! あの豪快おばあちゃんの切ない過去とは?

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ライター:SYO
アカデミー賞ノミネート『ミナリ』 撮影秘話&裏設定をユン・ヨジョンが明かす! あの豪快おばあちゃんの切ない過去とは?
『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

話題沸騰!『ミナリ』のユン・ヨジョンにインタビュー

2021年を象徴する注目作が3月19日、ついに日本公開を迎える。大志を抱き、アメリカに移り住んだ家族を描いた『ミナリ』だ。『ムーンライト』(2016年)のA24とプランBエンターテインメントが共同製作を手掛けた本作は、サンダンス映画祭、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞など、数多くの映画祭・映画賞で受賞を重ねている。

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アメリカ南部の田舎町にやってきた、韓国人移民の4人家族。ジェイコブ(スティーヴン・ユァン)とその妻モニカ(ハン・イェリ)、長女のアン(ノエル・ケイト・チョー)と末っ子長男のデビッド(アラン・キム)は、見渡す限り何もない平地で新生活を始める。ジェイコブはこの地に、巨大な農園を作ろうとしていたのだ。

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ただ、心臓に病を抱えるデビッドのために病院の近くで暮らしたいモニカは、家族を顧みないジェイコブに怒り心頭。ジェイコブはジェイコブで、やりたくもない仕事を10年も続けていたことで疲れ果て、いい加減自分の夢を追いたいという気持ちを抱いていた。行き詰った夫婦は、モニカの母親スンジャ(ユン・ヨジョン)を韓国から呼び寄せ、関係の修復と生活の安定を試みる。ただ、面倒を見てもらうはずのデビッドが、スンジャに全く懐かず……。

『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

リー・アイザック・チョン監督が、アメリカンドリームを追う男とその家族を描いた本作は、うまくいかないことも多い人生をリアルに、それでいて優しい目線で描いている。そんな『ミナリ』の主軸のひとつが、デビッドとスンジャの関係だ。ホン・サンスからウォシャウスキー姉妹監督作品まで幅広く活躍する大御所ユン・ヨジョンと、本作で俳優デビューしたアラン・キムの化学反応は、観る者に懐かしくも新鮮な想いを呼び起こす。

今回は、第93回アカデミー賞で助演女優賞にノミネートを果たしたユン・ヨジョンにインタビュー(授賞式は現地時間の2021年4月25日に開催)。奇跡のような本作がどうやって生まれたのか、その舞台裏を教えてもらった。

脚本を読んでいる途中で「出演したい」と伝えた

―本作の本国配給・制作のA24作品は日本でもとても人気で、多くの期待が寄せられています。

A24は、『ムーンライト』や『フェアウェル』(2019年)のスタジオですよね。『ムーンライト』は、『ミナリ』と同じA24とプランBエンターテインメントが製作を手掛けたと聞きました。ただ私、本当にそういった事情に疎くて(苦笑)。何もわかっておらず、単純に脚本を読んで惹かれて、出演を決めたんです。

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―そうだったんですね。ユンさんの心をとらえたのは、どういった部分でしたか?

まず私は、真実味がある物語が好きなんです。本作の脚本を読んだ際に、真実と誠意、真心があると感じました。そして、全てのキャラクターに共感できました。私は学生時代、夫とかれこれ7~8年ほどアメリカに住んでいたのですが、その当時に出会った韓国の人たちを見ているような感覚になりましたね。

成功を夢見て、一生懸命に未来に向かって頑張っている父親、忍耐力を持って子どもたちや夫を守ろうとする母親……。そして、私がアメリカに住んでいた時も、父母が働いているときに子どもの世話をしているおばあちゃんがたくさんいました。子どもたちのリアクションも共感できたし、当時見たアメリカ人家族や、キリスト教を信仰している人たちのことも思い出しました。

『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

―ユンさんが実際に現地で経験した物事や出会った人々と、物語がシンクロしたのですね。

リー・アイザック・チョン監督のご両親と私が、大体同じ世代なんです。そういったこともあり、リアリティをすごく感じました。最後まで読む前に、もう「出演します!」とお伝えましたね。

リー・アイザック・チョン 監督『ミナリ』

「見たままの世界」を描いたからこそ、多くの観客に認められた

―非常に興味深く感じるのが、ユンさんがおっしゃったようにリアルで、かつ私的でミニマムなお話である『ミナリ』が、いま国や地域、言語、あるいは世代を問わず世界中で絶賛され、映画賞を総なめしていることです。

私が初めて『ミナリ』の反応を肌で感じたのが、2020年のサンダンス映画祭でした(本作はグランプリと観客賞をダブル受賞)。

作品を観て、アメリカの人たちは泣いたり笑ったりしてくださっていて、その姿を観て「こんなにも共感してくれるんだ」と、とてもびっくりしたことを覚えています。チョン監督は滞在中にも賞賛の声を多数浴びていて、私としても誇らしかったですね。彼は、私にとって息子のような存在ですから。「自分の息子が、ついに監督として認められた!」という気持ちでした。

その後に韓国に戻ったのですが、映画祭での受賞の効果もあり急に注目されたような感じで、私自身もちょっときょとんとしている状況ではあります。ただ、こんな風に誠意を込めて真実の物語を作れば、皆さんに分かってもらえるんだとは感じましたね。

―素敵なお話ですね。ちなみにユンさんは、本作の独自性はどういう部分にあるとお考えですか?

この映画は、チョン監督が当時の自分の姿を投影しつつ、7歳の子どもを通して見た世界を描いています。人種差別や偏見もない子どもが見たままの世界を描いていること、この部分がとても好きです。

そしてチョン監督は、途中でその方向性を変えることなく、常に観客にオープンな姿勢で貫いてくれました。「この映画はこういう意図があります。だからこう見てくださいね」ではなく、見たままの世界を描く。その結果、こんなにも美しい映画になったんだと思うのです。オープンマインドで、「“自分は”こういう風に世界を見ました」と投げかけをする、そのニュアンスが素晴らしかったです。

『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

―なるほど。観客に押し付けないスタンスの美しさですね。

もう1つ思うのは、いまは世界中がパンデミックで、世の中がつらい状況にあるということです。

『ミナリ』は恋愛の話でもなければ、美化された話でもない。でも、このような状況だからこそ、「ありのままの世界を、真実を見せてくれる」映画を求めている人が多いのではないでしょうか。私は評論家ではないので、あくまで個人の考えですが、そのように感じています。

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食事は大事! 予期せぬ“共同生活”の中で培った家族の絆

―『ミナリ』を拝見して、キャストの皆さんが本当の家族にしか見えませんでした。一体どうやって、あの領域にまで到達させたのでしょう?

まず、映画をそのように観てくださってどうもありがとうございます。「本当の家族みたいだったな」という点ですが、私自身はインタビューを重ねる中で当時を振り返り、少しずつ実感していきましたね。というのも、撮影中は大変なことが多く、なかなかそんな風には思えなかったんです(苦笑)。

―そのお話、ぜひ詳しく伺いたいです。

まず、予算が潤沢な商業映画ではなかったので、5週間で撮りきらなければならなかったんです。そのため、スケジュール面でもすごく苦労しながら撮影しまして、終了時には「なんとか任務を完了した……」という感じだったんです。予算を削るために、ハン・イェリさんとも同じ部屋で過ごしていたんですよ。Airbnbを利用して。

―それは驚きです……!

「ホテルに滞在するよりも生活の面で便利だろう」ということでそうしたのですが、なかなか特殊ですよね(笑)。ただ、思い出もあって。私にこの映画を紹介してくれた親友が、私が1人でアメリカで撮影に臨むことを心配して、私とイェリさんの部屋に来てご飯を作ってくれたんですよ。それがあんまりおいしくて本当のシェフのようなレベルだったから、みんなが集まってきたんです(笑)。

スティーヴン・ユァンさんもチョン監督も来て、みんなでご飯を食べながら「いままで、それぞれがどんな風に生きてきたのか」、自分の人生の物語を共有したり、その中で台本のことも話したり……。みんなで一緒に過ごしているうちに、だんだんチームワークができていきました。

―まさに“同じ釜の飯を食う”というやつですね。

ただ、アラン・キムくんについては少し心配もありました。というのも、彼は演技の経験もないですし、撮影前に「どんな演技をするんだろう? うまくいくといいけど」とは思っていたんです。ところが、そんなものは杞憂に終わりました。

『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

セリフもしっかり覚えて、ちゃんと準備して現場に来ていましたし、私が発したセリフに対して素直に受け止めて“反応”して、見事な演技を返してくれました。掛け合いのときなどは、本当に「おばあちゃんが苦手だ」というリアクションを見せて、しかもその演技に純粋さがありましたね。

長い間俳優をしていると、どうしてもマンネリに陥りやすくなってしまうといいますか、「こういう演技をすればこうなるだろう」と見通しを立ててしまいがちなのですが、スポンジのように色々なものを吸収して成長していくアランくんを見て、見習うことばかりでした。

年を重ねても、今日という日を生きるのは初めての経験

―ユンさんご自身は、どのようにスンジャというキャラクターを作っていきましたか?

実は、映画の中には出てこないのですが、スンジャにはちょっと悲しい過去があるんです。彼女はシングルマザーで、女手一つでモニカを育ててきました。ただ、働きながらの育児であったために、家でじっくりご飯を作ってあげたり、いわゆる専業主婦的なことだったりをしてあげられなかったという負い目を抱いているんです。

だからこそ、彼女にとってはモニカが人生の全てであり、デビッドは最愛の娘の子どもだから、全財産を投げうってでも守りたいと思っています。彼女は孫に手術を受けさせるために、アメリカにやってきたんです。そうした“裏設定”がありました。

―描かれない彼女の人生を、感じながら演じられたのですね。

そのうえでチョン監督と話し合ったのは、「スンジャは悲しみを背負っているけれども、常に悲しいわけじゃない。孫の面倒を見るためにアメリカに来たけれど、それだけではなく1日を楽しく過ごそうともしている。雰囲気を盛り上げようとする側面もあるのでは」ということです。そうしたディスカッションを重ねて、キャラクターを作っていきました。

『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

―ユンさんは、俳優として50年にわたるキャリアをお持ちです。ご自身は「年を重ねていくこと」について、どうお考えでしょう?

「自然に老いていきたい、美しく年を重ねたい」と皆さん言いますが、私としてはどんな風に生きていったらいいのか、わからないなと思っているんです。

なぜかというと、私は今74歳ですが、74歳の私が“今日という日”を生きるのは初めての経験なわけです。つまり今日は私にとっては初めての日ですから、長く生きてきたとしてもミスもあるでしょうし、後悔もあると思います。そんなことの繰り返しで、今まで生きてきたという風に思っています。

ただ、幸いにも私がステレオタイプに陥らなかったのは、俳優という職業のおかげだと思います。次もまた作品があって、演じる役があるということがモチベーションにもなっていますしね。

取材・文:SYO

『ミナリ』は2021年3月19日(金)より東宝シネマズシャンテほか全国公開

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『ミナリ』

1980年代、農業で成功することを夢みる韓国系移民のジェイコブは、アメリカはアーカンソー州の高原に、家族と共に引っ越してきた。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを見た妻のモニカは、いつまでも心は少年の夫の冒険に危険な匂いを感じるが、しっかり者の長女アンと好奇心旺盛な弟のデビッドは、新しい土地に希望を見つけていく。

まもなく毒舌で破天荒な祖母も加わり、デビッドと一風変わった絆を結ぶ。だが、水が干上がり、作物は売れず、追い詰められた一家に、思いもしない事態が立ち上がる──。

制作年: 2020
監督:
出演:
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