あの豪邸を買うには547年もかかる!? 欧米での好反応に胸をなでおろしたポン・ジュノ監督が振り返る『パラサイト 半地下の家族』

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ライター:小西未来
あの豪邸を買うには547年もかかる!? 欧米での好反応に胸をなでおろしたポン・ジュノ監督が振り返る『パラサイト 半地下の家族』
『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督© HFPA

※このインタビューはネタバレを含む記述があります。鑑賞前の方はご注意ください。

「急にアイデアが浮かんで、急いでiPadに書き殴ったのを覚えています」

―この物語を思いついた、そもそものきっかけを教えて下さい。

大学生のときに、家庭教師をしていたことがあったんです。豪邸に住む中学生の男子を教えていました。ある日、その少年が自宅の2階にあるプライベートサウナに案内してくれて、それがあまりにも豪華なサウナで圧倒されたんです。家庭教師をやっているときは、赤の他人の私生活をスパイしているような感覚を覚えていました。その経験がインスピレーションのひとつになっていますね。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

―新たな家族が中盤で登場して、急展開するアイデアが秀逸でした。

基本設定が思い浮かんだのは2013年なので、かなり前のことです。2015年に14ページからなる詳細なあらすじを書きました。ですが、当時は2つの家族しか登場しない設定で、3番目の家族はずっとあとになって思いついたものなんです。脚本執筆は2017年の秋から冬にかけて4ヶ月かけて行ったんですが、3組目の家族を思いついたのは3ヶ月が経過したときでした。このアイデアによって、映画の後半ががらりと変わりましたね。車を運転しているときにあのアイデアが浮かんで、急いで車を停めて、iPadにメモを書き殴ったことを覚えています。脚本執筆において、新たなキャラクターを思いつくときほど幸せなことはありませんね、予期しなかった化学反応が起きるから。あれは素晴らしい経験でした。

『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督© HFPA

「現代の貧富の差を言い当てたセリフに気づいて、悲しく複雑な気分になりました」

―コメディやサスペンスを見事に織り交ぜていますね。

ジャンルをミックスするのが上手だとか、映画のなかでトーンを変えるのはなぜですか? と、よく訊かれます。あいにく、その質問にはうまく答えることができません。なぜなら、ぼくにとって同じトーンで映画を2時間維持するのは不可能に近いから。同じ映画のなかに複数のトーンというか、ジャンルを絡めるのはぼくにとっては当然のことです。キャラクターたちの感情をもとにしていますし、感情とはさまざまな要素が複雑に絡みあっているものですから。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

―エンターテインメント作品でありながら、きちんと社会的なメッセージが込められています。

キムの一家が豪邸に潜入するとき、彼らには金持ちになるという野望はありません。ただ単に仕事が欲しかっただけです。彼らはそれぞれ能力があり、頭もいい。ぐうたらしているナマケモノでもない。でも、悲しいことに彼らには仕事がないんです。

これは韓国だけじゃなく、世界中で起きている現実だと思います。この映画のエンディングで、長男が言いますよね、「いつかこの家を父のために買おう」と。でも彼自身、それが不可能であることを知っている。脚本を書いているときに試算してみたんですが、彼の平均年収だと、あの家を購入するのに547年かかるんです(笑)。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

―そんなに!?

だからあの台詞を書いたときに、とても悲しく複雑な気分になりましたね。現代の貧富の差を言い当てていますから。

「貧富の差という題材は普遍的だから、世界各国で良い反応を得ることができた」

―映画監督になろうと思ったきっかけはなんですか?

中学生のときには、映画監督になると心に決めていました。幼いころから映画の大ファンで、見過ぎていたほどです。当時の韓国にはフィルムライブラリーはなくて、もちろんインターネットもDVDもない。だから、ほとんどはテレビ放送やケーブルテレビで観ていました。7~8歳のときにヒッチコック監督の大ファンになって、彼のサスペンスに圧倒されましたね。そして8~9歳のときにアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の『恐怖の報酬』(1953年)を観て、トラウマを受けました。こういった映画に夢中になって、やがて誰が作ったのかを意識するようになり、次第に監督の名前を覚えるようになって、自分も監督になりたいと思うようになったんです。

大学で映画研究会に所属して、名作映画を積極的に見るようになりました。楽しむよりも研究するのが目的でしたね。でも、ぼくが純粋に楽しんでいたのは、幼いときに見ていたジャンル映画なんです。韓国には、在韓米軍兵のためのAFKN(American Forces Korean Network)というチャンネルがあって、毎週金曜日の夜には暴力とセックスだらけの大人向け映画を放送していました。家族が寝室で寝ているとき、ぼくはリビングに残ってテレビにかじりついていました。当時は英語がまるで分からなかったから、勝手に物語を想像しながら見ていましたよ。あとになって、これらの映画をジョン・カーペンターやブライアン・デ・パルマ、サム・ペキンパーが作っていたことを知ります。そういったR指定のジャンル映画を大量に観た経験が蓄積されて、いまでもぼくの血管を流れているんです。

『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督© HFPA

―カンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞をすることは予期していましたか?

実は、カンヌ映画祭でお披露目することに抵抗があったんです。『スノーピアサー』(2013年)や『オクジャ/okja』(2017年)を経て、本作は久々の韓国映画でした。韓国的なディテールやニュアンスをたっぷり詰め込んだからこそ、欧米の観客がどう反応するか興味がある一方で、怖かったんです。でも、カンヌでの上映があって、そのあとシドニーやドイツ、テルライド、トロントと、異なる映画祭で異なる観客に見てもらったんですが、どこでも反応がほとんど同じでした。みんな同じ箇所で笑って、同じ箇所で涙する。その反応を見てほっとしました。貧富の差という題材は、とても普遍的だからだと思います。いま我々が暮らしているのは、ひとつの巨大な資本主義国家です。ぼくらは資本主義によって取り囲まれている。だからこそ、観客の反応は同じなんだと思います。

取材・文:小西未来

『パラサイト 半地下の家族』は2020年1月10日(金)より公開

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『パラサイト 半地下の家族』

過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族だ。

“半地下”の家は、暮らしにくい。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が悪い。Wi-Fiも弱い。水圧が低いからトイレが家の一番高い位置に鎮座している。家族全員、ただただ“普通の暮らし”がしたい。「僕の代わりに家庭教師をしないか?」受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる。“受験のプロ”のギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。

パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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