世界一有名なギャング、アル・カポネ
世界で最も有名なギャングといえば、やはりアル・カポネだろう。禁酒法時代のシカゴを牛耳り、名作『暗黒街の顔役』(1932年)のモデルになり、それがアル・パチーノの『スカーフェイス』(1983年)につながった。筆者の世代は『アンタッチャブル』(1987年)でロバート・デ・ニーロが演じたカポネが忘れられない。
そして今、新たなカポネ映画が登場した。タイトルはズバリ『カポネ』。しかし本作は、シカゴでの“暗黒街の顔役”ぶりを描くものではない。
梅毒からの認知症、失禁、やがて妄執に囚われたカポネは……
『アンタッチャブル』でも描かれていたから、カポネが脱税で捕まったことを知っている人は多いかもしれない。だが、その後はどうだろう。カポネは長い服役生活を終えると、フロリダで隠居生活に入った。まだ40代だったが、すでに晩年だった。
若い時に梅毒を患い、その影響で認知症に。“現役”時代さながらに葉巻をふかしてみても、友達の顔が分からなくなってくる。咳き込んだ拍子に失禁。小も大も排泄がままならなくなり、医者はおむつを用意する。
これがあの「聖バレンタインデーの虐殺(※)」を指揮した(とされる)アル・カポネなのか。虚ろな目、しゃがれた声で呻き、過去に振るった暴力の記憶に苦しめられる。誰かが見張っている、自分を殺そうとしているという妄執。離れて暮らす隠し子の存在。映画はカポネの混濁する意識を“主観”として見せ、同時に自由にならない体を突き放して映し出す。
※1929年2月14日にシカゴで起こったギャング同士の凄惨な抗争事件。後にロジャー・コーマン監督が映画化。
あの“いわくつき”アメコミ映画の監督、起死回生なるか!?
やがて起きる悲劇も救いも何もかも、もはやカポネは記憶していないのだろう。もはや金も底をついた。哀しく老いた大物ギャングスターを演じるのはトム・ハーディ。いつものカッコよさは微塵もない。特殊メイクで肉をつけ顔に傷を作り、破天荒な人生に逆襲される男の末路を演じ切る。
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ギャング時代の仲間に扮したマット・ディロン、ドクター役のカイル・マクラクランもいい。監督は傑作『クロニクル』(2012年)のジョシュ・トランク。調べて思い出したが、リブート版『ファンタスティック・フォー』(2015年)も撮っていた。あの作品が大失敗に終わったことを考えれば、本作はリベンジの一作。気合いが入るのも当然か。
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本作にあるのは悪の魅力ではなく、悪の悲しさ。犯罪映画が好きな人間ほど、この映画は“こたえる”だろう。だからこそ画面から目が離せないのだが。
文:橋本宗洋
『カポネ』は2021年2月26日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
『カポネ』
1940年代半ば、長い服役生活を終えたアル・カポネは、フロリダ州の大邸宅で家族や友人たちに囲まれ、静かな隠遁生活を送っていた。かつて“暗黒街の顔役”と恐れられたカリスマ性はすでに失われ、梅毒の影響による認知症を患っている。一方、そんなカポネを今も危険視するFBIのクロフォード捜査官は、彼が仮病を使っていると疑い、隠し財産1000万ドルのありかを探るために執拗な監視活動を行っていた。やがて病状が悪化したカポネは現実と悪夢の狭間で奇行を繰り返し、FBIや担当医師を困惑させ、愛妻のメエも彼の真意をつかめない。はたしてカポネは、本当に身も心も壊れてしまったのか。それとも――。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年2月26日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開