ソ連市民に、飢餓と嵐、さらにドイツ戦闘機メッサーシュミットが襲い掛かる!『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』

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ライター:大久保義信
ソ連市民に、飢餓と嵐、さらにドイツ戦闘機メッサーシュミットが襲い掛かる!『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』
『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

戦争に翻弄された都市、レニングラード

近年、ロシアでは戦争映画が続々と製作されています。その背景にはプーチン政権の国策(連邦内の結束強化や欧米対抗)もあるようですが、それはさておき。今回<WCC ワンダーナイト・シネマカーニバル2019>で上映される『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』は、第二次世界大戦期の独ソ戦(ソ連呼称「大祖国戦争」)におけるレニングラード攻防戦が題材です。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

皆さん御承知のように、「レニングラード」という都市は現在では「サンクトペテルブルク」となっています。

もともとは1703年に、ピョートル大帝がドイツ(プロイセン)など西欧文化の窓口ともなるロシア帝国の首都として建設したのが始まりです。サンクトペテルブルクとドイツ式の名称なのも、そのためなんですね。大帝の構想通り、この都市は豪奢な宮殿(現在のエルミタージュ美術館とか)と音楽や文学、先進技術に囲まれた首都として200年以上にわたって発展します。

しかし、1914年に第一次世界大戦が勃発するとドイツ式の名称はマズイということで、ロシア式の「ペトログラード」に改名。1917年、共産主義勢力がロマノフ王朝を打倒しソビエト連邦を打ち建てると、指導者レーニンは首都をモスクワに移します。そしてレーニン死去にともない、1924年にペトログラードは「レニングラード」と再改名されるのです。ソ連においてもレニングラードは鉄道や海運の要衝(現在で言う「ハブ」のようなもの)、工業都市として発展し続けます。それがソ連崩壊後の1991年に「サンクトペテルブルク」の名称が復活して現在にいたるのです、ふぅ。

歴史説明が長くなりましたが、こうした経緯を知っていると『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』の舞台背景が見えてくるのではと思います。と言うのも、この映画ではレニングラード攻防戦の経緯はほとんど説明されていません。彼の地の人々にとってレニングラード攻防戦は、「常識の範囲内」だからです。ここでは、バトル・オブ・ブリテンやスターリングラード、真珠湾奇襲に比べると日本人にはあまり知られていない(?)この戦いをザックリ説明したいと思います。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

攻防なんと900日!残虐なヒトラーの計画とは

1941年6月、ソ連に侵攻したドイツ軍がその攻撃軸の1つをレニングラード攻略に向けたのは、前述の通り、陸海交通の要衝を占領する・重工業能力を破壊する、という戦略的価値があったからです。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

1941年8月末にはレニングラード郊外に迫ったドイツ軍ですが、戦力不足により急襲でのレニングラード占領に失敗。するとヒトラーは偏執狂的性格を発揮、包囲下のレニングラードを砲爆撃と餓死・凍死で嬲り殺しにすることを決定。こうして戦略的・軍事的合理性のない、残虐な攻防戦が1944年1月末までの900日にわたって繰り広げられたのです。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』は1941年9月、レニングラードの北東に位置するラドガ湖を渡って1500人の人々を脱出させた「荷船752号」の実話を、士官候補生コースチャと恋人のナースチャの姿を軸に描いたものですが、まさにドイツ軍の包囲環が閉じる直前の脱出劇だったわけです。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

劇中では、メッサーシュミットBf109戦闘機の執拗な銃撃にさらされる「荷船752号」の阿鼻叫喚がクライマックスとなっています。このBf109は当然、CGですが、空気に浮かんで飛ぶ飛行機の微妙な揺れや太陽光線の当たり具合の表現など、素晴らしい出来栄えです。日本やアメリカの映画が戦闘機をCGで描くと(悪い意味での)アニメチックな、重量を感じさせない二次元的な動きになってしまうのに対し、ロシアや欧州のCG描写はリアリティが感じられます。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

凍死か餓死か

さて、この後、ドイツ軍による完全包囲と共に氷点下20℃はザラという極寒の季節が訪れ、燃料と食料供給が最低ラインを割り込んだレニングラード市民に餓死と凍死の恐怖がのしかかります。なにしろ戦火による市民の死者20万人に対し、餓死/凍死者は80~100万人! ヒロインのナースチャの母親が「凍死した」というのは、恐ろしいことに、ごく当たり前のことだったのです。飢えた人々は革靴を食べ、軟膏や膠(にかわ)を食べ、人肉食すら起きています。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

では、児童や特殊技能者やエルミタージュ美術館の文化財が東方に疎開していたそのレニングラードで、飢餓状態の市民は何をしていたのかというと、モスクワ防衛のための武器を作っていたのです。ソ連の独裁者スターリンにとってレニングラードとは、モスクワ防衛戦のための軍需工場でしかなかったわけで、国家総力戦とは、かくも冷酷なものなのです。

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』© AVK LLC, 2019

映画のラストシーンが示すように、レニングラード/サンクトペテルブルクの人々にとって、あの戦いは永遠の記憶なのです。

文:大久保義信

『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』は2019年11月22日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷<WCC ワンダーナイト・シネマカーニバル2019>内「MDGP モースト・デンジャラス・シネマグランプリ2019」にて上映

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セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦

1941年9月、ソ連第2の都市レニングラードは、ドイツ軍に包囲された。激しい攻防戦が続く中、200万の市民には飢餓の危機がせまる。ソ連軍はラドガ湖を夜間に渡り、市民を避難させる作戦を立案。老朽化した荷船752号は1500人の人々を満載し、ドイツ空軍が制圧する水域に出航。その中には、若き士官候補生のコースチャと、その美しい恋人ナースチャの姿もあった。夜明けまでに、対岸にたどり着けるのか? だが不運にも猛烈な嵐が発生し、752号は沈没の危機に。さらに空からは、ドイツのメッサーシュミット戦闘機が襲いかかる......。

制作年: 2019
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