シャーリーズ・セロンら絶賛! カンヌ2冠『燃ゆる女の肖像』 18世紀フランス貴族社会に生きる女たちのロマンティックなラブストーリー

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ライター:野中モモ
シャーリーズ・セロンら絶賛! カンヌ2冠『燃ゆる女の肖像』 18世紀フランス貴族社会に生きる女たちのロマンティックなラブストーリー
『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

カンヌ2冠の話題作ついに日本公開!

2019年の第72回カンヌ国際映画祭にて脚本賞とクィア・パルム賞に輝いたのをはじめ、世界中の映画祭で話題をさらった『燃ゆる女の肖像』が、ようやく日本でも公開される運びとなった。18世紀後半のフランス、荒々しい自然が美しいブルターニュ地方の島で画家の女性と貴族の令嬢が出会い、静かに激しい恋が生まれる。「男たちの世界」から切り離された環境下で共に過ごす限られた時間、女と女の濃密な視線の交わりが非常にスリリングな作品だ。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

この映画の時代設定は1770年とされている。史実としてこの19年後にはフランス革命が起こり、王政が倒されることになるわけだが、市民社会の本格的な到来は遥か遠く、とりわけ女性の人権や自由意志はまだまだ軽んじられていた時代だ。主人公のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は結婚するつもりのない画家の女性だが、彼女がそうした生きかたを選ぶことができるのは、父親が画家として名を成していたから、つまり生まれによるところが大きかったに違いない。

この時代、芸術の訓練と評価を司る権威だった王立絵画彫刻アカデミーは女性を締め出していた。とはいえ、家族の手ほどきで技術を身につけ、工房の一員として働いたり男性の名前で作品を発表したりする女性の芸術家たちが存在していたことを示す記録も残っている。「18世紀で最も有名な女性画家」といわれるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの場合、画家の父親と画商の夫の導きでヴェルサイユ宮殿の社交界に入り込み、ルイ16世の即位に伴って1774年にフランス王妃となったマリー・アントワネットと親交を結んだことで、例外的に彼女自身が名声を獲得することができた。その末に、アカデミーがヴィジェ=ルブランとアデライド・ラビーユ=ギアールを初の女性会員として迎えたのが1783年のことだ。マリアンヌはこうした時代背景を踏まえて考案された架空の人物である。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

マリアンヌは、ある貴婦人(ヴァレリア・ゴリノ)から、娘のエロイーズ(アデル・エネル)の縁談に必要な肖像画を描くよう依頼され、ブルターニュ地方の島へと向かう。エロイーズは修道院に入っていたのだが、最近、母が召使いたちと暮らす屋敷に呼び戻されたばかり。父は既に亡く、母は生活のために娘をとある “ミラノの紳士” と結婚させようとしている。しかし、エロイーズ自身は結婚を望んでおらず、以前やってきた男性画家には顔を見せすらしなかったのだという。そこでマリアンヌに課された職務は、画家ということを隠してエロイーズに近づき、密かに肖像画を完成させること。散歩の道連れとして呼ばれたというていでエロイーズと共に過ごし、観察し、絵の制作をすすめるマリアンヌ。秘密を抱えたままふたりの距離は次第に縮まっていく。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

これは劇場で観たい! ドラマチックな映像表現と仏の手練たちが手がける上質サウンド

打ち寄せる波や風に揺れる草、暗闇に燃える炎にアップで捉えられる人物の表情など、全編を通して映像がたいへん美しく、映画館での上映で真価が発揮される作品ではないかと思う。セリーヌ・シアマ監督は、プリプロダクションの段階でデジタルと35mmフィルムの両方を試した結果、肌の質感の表現を重視してデジタル撮影を選んだとインタビューで語っている。撮影はクレア・マトン。高解像度のシャープな感触だが、落ち着いた色調が保たれて目に優しく、自然を背景にしたドラマチックな構図も絵になるかっこよさだ。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

また、音響もメリハリが効いていて聴き応えがあり、映画館で観るのと家庭用の再生装置で観るのとでまったく違う体験になりそうだ。劇伴は使わずに小さな生活音を拾い、ここぞというところで作中の人物たちが奏でる音楽に大きな意味を持たせている。今後、ヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調RV315「夏」は、この映画と結びつけられてますますたくさんの人々の感情を揺さぶることになるのだろう。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

映画の後半、マリアンヌとエロイーズは召使いのソフィ(ルアナ・バイラミ)とも打ち解け、語り合い、くつろいだ時間を過ごす。3人が揃って出掛けた村人たちの集会で歌われる「La Jeune Fille en Feu」は、これまでもシアマと組んできたフレンチ・エレクトロニカ/ヒップホップ・シーンの重要人物パラ・ワンと、クラシックとジャズのバックグラウンドを持つ作曲家・演奏家アーサー・シモニーニによる共作。現世の社会的な身分や立場を超えて人々が共に過ごし感応する、神秘的で特別な夜の時間をより印象深いものにしている。

苦みや悲しみを含んだ悲運の恋物語でありながら爽快な印象を胸に残す

ひたすら女性の登場人物に焦点を絞り、男性が後景に引いた『燃ゆる女の肖像』は、映画における伝統的なジェンダーの不均衡を見る者に改めて意識させることになるだろう。娯楽映画が好きな自分は、これまでどれだけたくさんの「男が男を追いかけ、見つめる物語」を眺めてきたのだろうか。たとえばスーパーヒーローとヴィラン。あるいは刑事と犯人。もしくはビジネスやスポーツの好敵手。それに比べて、女が女を見つめ、また見つめ返す姿がスクリーンに映し出される機会は、あまりにも少なくはなかったか。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

そして西欧の視覚文化の歴史をさらに遡れば、もちろん映画の前には写真があり、写真の前には絵画があった。美術史家のリンダ・ノックリンが「なぜ偉大な女性芸術家はいなかったのか?」と題した論考を発表し、西洋美術の世界が女性を排除してきたこと、それが社会構造全体に染み渡る性差別と結びついていることを指摘したのは1971年。それから半世紀近くの時が流れた現在もなお、Googleに「painter and model」と打ち込んで画像検索してみれば、ピカソ、バルテュス、フェルメール、ホッパーなど、上のほうに表示される画像のほとんどは男性の画家と女性のモデルのイメージで占められている。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

こうした歴史的なジェンダーの偏りを認識し、不平等を改めていこうという動きは、近年ますます勢いづいている。それには人類史上かつてない数の人々が日常的に(携帯電話に内蔵された)カメラを持ち歩いて撮影したり、絵を描いたりデザインをしたりして発表できるようになったこと、すなわちイメージを作り出し発信する技術の民主化と個人化が劇的に進んだことも大きく関係しているに違いない。たとえ「大文字の歴史」とか「公的な言論」とかの世界では無視または軽視されていても、女性たちはこれまでずっと懸命に生きてきたし、生きている。

『燃ゆる女の肖像』は、そうした認識が広まり、女性を客体でなく主体として捉えた物語が切実に求められている時代の空気と、作家個人が育んできた興味や資質がうまく結びついた幸福な作品だと言えるだろう。あらかじめ別れが運命づけられている、苦みや悲しみを含んだ恋の物語なのだけれど、狙いを絞って着実に仕事を遂行してみせるカメラの「筆さばき」は、いい意味で乾いていて爽快な印象を胸に残しすらするのだった。

『燃ゆる女の肖像』© Lilies Films.

文:野中モモ

『燃ゆる女の肖像』は2020年12月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか公開

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『燃ゆる女の肖像』

画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。

制作年: 2019
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