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『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』放送決定!『アバター』の青い異星人に感情移入できたのはなぜ?

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ライター:#杉山すぴ豊
『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』放送決定!『アバター』の青い異星人に感情移入できたのはなぜ?
『アバター』ブルーレイ発売中 /デジタル配信中
©2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

キャメロンはいかにして世紀の大作『アバター』を成功させたのか?

日本でも興収150億円超えという大成功をおさめた『アバター』(2009年)ですが、当時この映画が日本で大ヒットするかどうかで、関係者の意見が分かれていたように記憶しています。というのもジェームズ・キャメロンといえば、映画ファンにとっては“あの『タイタニック』(1997年)の監督”ですが、すでに公開から10年以上たっていました。また、SF映画好きにとっては『ターミネーター』シリーズ(1984年~)や『エイリアン2』(1986年)のイメージが強いですが、これらからも公開から20年弱の時間が過ぎていたのです。

つまり、ジェームズ・キャメロンというブランドの神通力がそろそろ消えかかっていた。さらに『アバター』は地球人の兵士とエイリアンの女性の恋が描かれると伝えられましたが、『ターミネーター』路線のSFバイオレンスを期待するファンにとっては物足りなく、また『タイタニック』好きにとっては壮大なロマンスとはいえ“青い異形のカップル”はレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの代わりにはならなかったのです。

しかし、この流れが変わったのが公開の半年ぐらい前(夏頃)、『アバター』の映像の一部を積極的に見せるというキャラバンが展開されたことでした。いまでこそ“映像を先行で見せる”というプロモーション手法は定着しましたが、当時はやっとYouTubeが市民権を得始めたころだし、iPhoneもまだ発売されたばかりでした。つまり、まだ映画のプロモーションの主流は映画館での予告編かテレビCMだったのです。さらに『アバター』は3D映像が“売り”でした。従って、3Dメガネをかけるという環境で見せるしかなかった。そこで、これを逆手にとって“映画館で特別に誰よりも早く『アバター』の3D映像を体験できる”というイベントに仕立てたのです。

これが話題を呼び、さらに3Dで描かれた『アバター』の世界、衛星パンドラのシーンがあまりに素晴らしかったので、「『アバター』はすごい!」という噂がいっきに広まりました。そして日本の映画会社は大胆な戦略に出ます。“青い異形のカップル”を屋外広告等でメインで押し出すことにより、このキャラに“慣れさせた”のです。ずっと見ていたら、なんだかこの2人が可愛く思えてきた、みたいな意見もいくつか出てきました。こうしたこともあって『アバター』への期待は高まり、また3D映画という目新しさもあって映画は大ヒットしました。

「観るのではない。そこにいるのだ。」キャメロンが生み出した新技術エモーション・キャプチャーとは

この『アバター』のプロモーションの成功は“ジェームズ・キャメロンらしさ”をとてもよく表していると思います。彼は自分の満足いく作品を撮るためにこだわっていることがいくつかあるようですが、中でも<テクノロジー>と<ディテール>というのはとても重要視しています。

まずは<テクノロジー>。この『アバター』を作るために最新の3Dカメラと、当時の資料によると“エモーション・キャプチャー”という技術を開発。前者は、とにかく今まで以上の“奥行”を再現できるカメラだったそうです。『アバター』が3D映画になると聞いた時、僕は昔の3D(立体)映画みたいに、いろいろなものが画面からこっちにとんでくると思っていたのですが、本作はその真逆というか、画面の向こうに“奥行”を作ろうというものでした。見世物的な3Dではなく、バーチャル・リアリティ的3Dといいますか。だから当時のこの映画の宣伝コピーは「観るのではない。そこにいるのだ。」でした。

そしてエモーション・キャプチャーは、その名の通りモーション・キャプチャーの一種ですが、いままでのモーション・キャプチャーは俳優の動きをコンピューターに記録し、それをなぞる形でCGキャラクターを創造していました。しかしキャメロンは「モーション(動き)だけではなくエモーション(感情)まで反映させたい」と考えた。そこで、特別な小さなカメラが装着されたヘッドギアを役者に装着させ、彼らの表情やちょっとした筋肉の動きを記録。つまり、役者の感情やニュアンスそのものもデジタル化したわけですね。この技術でキャラが生み出されたからこそ、観客たちは“青い異形のカップル”に感情移入できたのです。

次に、キャメロンが映画作りにおいて大事にしている<ディテール>。『タイタニック』の時は徹底的にタイタニック号のことを調べ上げ、食器や内装まで完璧に再現したそうです。今回は架空の星パンドラの生態や、住民であるナヴィ族の言語までちゃんと作りあげました。

SF映画という“ウソの世界”を描くからこそ、<テクノロジー>と<ディテール>でその世界を観客に信じ込ませなければならない。これがキャメロン監督のスタンスでありスタイルです。しかし重要なのは、こうした大仕掛けの中で語られるストーリーの基本がラブストーリーだということです。『エイリアン2』は母と娘、『ターミネーター2』は母と息子の愛の物語でしたが、それ以外の『ターミネーター』から『アバター』までは男女のラブ・ストーリーです。そう、ジェームズ・キャメロンは<テクノロジー>と<ディテール>で<愛の物語>を描くクリエーターなのです。

さて、もう一つジェームズ・キャメロンにまつわるキーワードに<海>があります。彼自身、海洋生物学を学び、また長時間のスキューバダイビングや潜水艇に乗っての深海探検にもチャレンジしています。『タイタニック』『アビス』(1989年)は彼の<海>への想いがつまっています。

すでに撮影が終了し、2021年12月16日の全世界公開に向けて準備中の『アバター2』(『3』も2024年12月20日に、さらに『4』『5』も公開予定)の舞台は海と言われています。キャメロンの代表作である『アバター』が、さらにキャメロンらしい映画になって帰ってくるのです。

文:杉山すぴ豊

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月ほか放送

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『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』

S・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、リドリー・スコットら名だたる巨匠たちや、A・シュワルツェネッガー、キアヌ・リーヴスほか人気俳優が出演! 彼らとのインタビューを通して、SFのアイデアがどこから来たのか、そしてどこへ行こうとしているのかを探る。

制作年: 2018
出演: