一晩「遺体に付き添え」と言われたら……!?『ザ・ヴィジル~夜伽~』は歴史的悲劇とオカルトの異色MIXホラー!!

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ライター:市川力夫
一晩「遺体に付き添え」と言われたら……!?『ザ・ヴィジル~夜伽~』は歴史的悲劇とオカルトの異色MIXホラー!!
『ザ・ヴィジル~夜伽~』© 2019 The Vigil Movie, LLC. All RIGHTS RESERVED.

ユダヤ教“超正統派”の儀式から生まれた異色ホラー!

「ユダヤ教では数千年も昔から、夜伽という通夜の儀式が行われてきた。死者に見張り役が付き添い、聖書を朗唱してその魂を慰め、見えない悪霊から守るのだ。付き添いは家族か友人が務めるのが普通だが、適任者がいない場合は他人を雇い、付き添ってもらう」

という親切丁寧な説明から入る『ザ・ヴィジル~夜伽~』。ユダヤ教の信仰を捨てた若者ヤコブ(デイヴ・デイヴィス)が、そこそこ良い報酬欲しさにホロコーストの生き残りであったという老人の遺体と共に朝まで過ごすというストーリーだ。

『ザ・ヴィジル~夜伽~』© 2019 The Vigil Movie, LLC. All RIGHTS RESERVED.

夜伽って日本の「通夜」と同じ!? と思って調べてみると日本にも「夜伽」はあって、厳密には通夜終了後に葬儀の朝まで共に過ごす習慣らしく、日本語の辞書でも「夜伽」については「通夜に死者のかたわらで夜どおし起きて過ごすこと」と出てくる。現代日本では簡略化されている古の儀式とは言え、ユダヤ教の夜伽にはなんとなく親近感も湧く。……と思ったら本作で描かれるユダヤ教は、ユダヤ教の中でもハイパー厳格かつ伝統的な超正統派だった。

厳格な宗教コミュニティを離脱した主人公に襲いかかる“夜伽”の恐怖

その超正統派とはユダヤ教の宗派の一部で、私たち日本人からするとかなりユニークなもの。例えば男性の格好は、もみあげとあごひげをとことん伸ばし、黒い帽子に黒いコートで黒いズボンという大変慎みのある格好。ガイ・リッチーの『スナッチ』(2000年)の冒頭、この格好でダイヤモンド強盗をしていたベニチオ・デル・トロを覚えている人もいるだろう。女性のほうもまったく露出のない格好で、「髪を見せるのはふしだら」ということで頭髪を剃って地味目なカツラをつけていたりする。

ほかにも厳しい戒律は多々あって、子供を増やすため避妊は禁止だし、未婚の男女は連れ添って歩くのがダメ。インターネットやテレビさえも禁止な場合もあるという。彼らは主にイスラエルに多いが米ニューヨークにもコミュニティがあり、本作はそのニューヨーク・ブルックリンの超正統派居住区を舞台にしている。

映画の冒頭は、超正統派という生き方を捨てた者たちが世俗的な生活に順応するための組織<フット・ステップ>での会合が描かれる。彼らは、それまでなかった異性間のコミュニケーションへの戸惑いを語り、スマホ操作に手こずっていたりする。それからほどなくしてヤコブは「夜伽」をすることになるのだが、とりあえず朝まで他人の家でぼーっと過ごすだけ。家の中には未亡人となった認知症の老婆がいるが、夜深いので大人しくしている。なので慣れないスマホをイジイジし、検索するのは「女性とのコミュニケーションの仕方」。まるで中学生男子を見ているかのような微笑ましさだが、そんなほっこりタイムは早々に終了。突如、謎の異音がどこからか鳴り響き、照明器具は気味悪く明滅、そしてヤコブ自身にも異変が起き始める……。

『ザ・ヴィジル~夜伽~』© 2019 The Vigil Movie, LLC. All RIGHTS RESERVED.

自身もラビの学校に通い医学研究者でもあった異色監督の丁寧な仕事が光る

ユダヤ教をモチーフにしたホラー映画といえば『ポゼッション』(2012年)がある。ユダヤ民話に伝わる邪悪な存在「ディビューク」が封じ込められているという箱をめぐるお話で、実話を基にしたという触れ込みだった。

『ポゼッション』で描かれたユダヤ教の悪魔払いというのも珍しかったが、本作ではユダヤの超正統派なのでより一歩踏み込んでいる感があるし、後半でヤコブ自身の差別からくるトラウマと遺体である老人が体験したホロコーストの悪夢がシンクロする場面のおかげで、本作の恐怖と哀しみは普遍的なものとなっている。『ジェイコブス・ラダー』(1990年)なんかが好きな人はグッとくるものがあるはずだ。

監督であるキース・トーマスは本作が長編初監督作。ユダヤ教のラビの学校に通い教育の修士号もとった人で、その後、医学を学んで10年間ほど小児喘息やアルツハイマー病の人々の介護施設で臨床研究をしていたとか。本作を撮るにあたり、いま現在のユダヤ人コミュニティをリサーチするため、主演俳優、プロデューサー、プロダクション・デザイナー、撮影監督を引き連れてユダヤ教徒のコミュニティに取材に行ったりもしているらしく、その丁寧さは映画の細部にはっきりと現れている。(※同監督の次回作はスティーヴン・キング原作『炎の少女チャーリー』[1984年]のリメイク。ザック・エフロン主演)。

ちなみに超正統派についてはNetflixのドラマ『アンオーソドックス』(2020年)やドキュメンタリー『ワン・オブ・アス』(2017年)に詳しく、事前に観ておけば本作がわりとすんなり入ってくるはずなのでおすすめ。

文:市川力夫

『ザ・ヴィジル~夜伽~』は2020年10月30日(金)より「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2020」で上映

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『ザ・ヴィジル~夜伽~』

ユダヤ教の信仰を捨てた若者ヤコブは、死人の棺を一晩見守るというユダヤ教の慣例にある役割を謝礼目当てで引き受ける。しかし認知症を患う未亡人は何かにひどく怯えており、ヤコブもまた恐るべき存在と対峙していることに気づく。

制作年: 2019
監督:
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