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ニコケイを襲う“存在しない極彩色”の悪夢‼ イライジャ製作×ラヴクラフト原作『カラー・アウト・オブ・スペース ―遭遇―』

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ライター:#市川夕太郎
ニコケイを襲う“存在しない極彩色”の悪夢‼ イライジャ製作×ラヴクラフト原作『カラー・アウト・オブ・スペース ―遭遇―』
『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

クトゥルフ神話の祖、H・P・ラヴクラフトは論考<文学における超自然の恐怖>で「人間の感情の中で、何よりも古く、何よりも強烈なのは恐怖である。その中でも、最も古く、最も強烈なのは未知のものに対する恐怖である」と書いていたわけだが、そんな彼自身がまさしく未知のものに対する恐怖を描き切った作品「宇宙からの色」が映画化!

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

ニコラス・ケイジがH・P・ラヴクラフトの「宇宙からの色」に染まる!

『カラー・アウト・オブ・スペース ―遭遇―』の物語は原作同様非常にシンプルで、舞台は1920年代から現代に改変。人里離れた土地で暮らしていたガードナー家の前庭に謎の隕石らしきものが落下することからスタートし、そこからガードナー家周辺のありとあらゆるものが徐々におかしくなっていく。植物は奇妙な色で咲き乱れ、昆虫は見たこともない不気味な姿になり、動物や人間は精神がおかしくなって、やがて肉体も変容。森に囲まれた「ていねいな暮らし」に崩壊が訪れる……というもの。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

存在、言動、身体……すべてを作品に貢献する狂気のパフォーミング・アーティストであるニコラス・ケイジがガードナー家の父親役ということで、どうしてもニコラス・ケイジのあたふたっぷりに目がいってしまがちだが、本作の見所はなんといっても「宇宙からの色」だ。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

放射能でも未知のウイルスでもなく、触れるものすべてをただ狂わせる「宇宙からの色」は何が何だかわからないもので、原作でも不確かな存在として「色」が一体どんなものなのか曖昧にしか描写されない。これを映画では、明るく鮮やかで毒々しく暴力的な赤紫色“マゼンタ”で表現しているわけだが、これにもちゃんと理由がある。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

かのゲーテが<色彩論>で「見えざる色」と表現したマゼンタという色は、人間の目で見える領域の光=「可視光線」を分解した可視スペクトルには存在しない色。ピンク・フロイドのアルバム『狂気』のジャケットに描かれている光のプリズムにマゼンタはないように、ようするに虹(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)にはない色で、物理学的に対応する光がなく、脳が作りあげた色なんだとか。存在しないのに存在する色。「宇宙からの色」にピッタリじゃないですか。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

ラヴクラフト狂の監督が随所に小ネタを仕込みまくり! 製作はイライジャ・ウッド!!

監督・脚本を務めたのは、動物を人間化する博士の狂気を描くH・G・ウェルズの小説「モロー博士の島」の映画化『D.N.A.』(1996年:別題「D.N.A./ドクターモローの島」)の監督をする予定が、撮影が始まった途端にプロジェクトから追放されてしまったという悲しすぎる過去を持つ男、リチャード・スタンリー。長編監督作は実に28年ぶりとなる。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

大のラヴクラフト・ファンで、本作の企画は20年ほど温めていたらしく、ガードナー家の長女は「ダンウィッチの怪」から拝借したラヴィニアという名があてられ、ネクロノミコン(ラヴクラフト作品に登場する架空の書物)を愛読し、北欧ブラック・メタルを愛するゴス少女! といった具合に、役名やちょっとした小道具に至るまで、随所にラヴクラフト・ネタを散りばめている。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

ちなみにリチャード・スタンリーは『D.N.A.』をはじめやたらとボディがおかしくなるお話に固執していて、長編第1作『ハードウェア』(1990年)では自らボディを修復する殺人ロボを登場させ、脚本だけ手掛けた『スキン・コレクター』(2016年)は皮膚がはがれる謎の病気を描いていた。本作でもそのあたりの趣味の良さは遺憾なく発揮されていて、ラヴクラフトものを多く手掛けているスチュアート・ゴードンの『ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたり』(1985年)や『フロム・ビヨンド』(1986年)などにも通じる、どうかしちゃったドロドロ人体がバッチリ登場している。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

というわけで、誠実かつ大胆、そして見事に「宇宙からの色」を映像化し、数あるラヴクラフト原作ものでもその出来栄えがトップに躍り出た本作だが、その功績は製作を手掛けた会社スペクター・ヴィジョンによるところも大きい。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

スペクター・ヴィジョンは、ジャンル映画フリークとして知られるイライジャ・ウッドが映画監督ダニエル・ノアらと共同設立し、代表作がニコラス・ケイジ主演『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2017年)という、ある意味非常にわかりやすい製作会社。「金は出す。そのかわり監督のやりたいことをとことん追求してもらう」という、商業映画にペッペとツバを吐くスタイルだからこそ、本作のような奇特で純粋なジャンル映画が生まれたのだ。

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

文:市川力夫

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』CS映画専門チャンネルムービープラスで2022年1月ほか放送

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『カラー・アウト・オブ・スペース ―遭遇―』

大都市の喧騒を逃れ、閑静な田舎に移り住んだガードナー家。ネイサンと妻テレサが夢に見た子どもたちとの理想の生活は、前庭への隕石の激突で終わりを告げる。以来、一家は心と体に影響をおよぼす地球外変異体との闘いに明け暮れ、静かな田舎暮らしは極彩色の悪夢へと変わる……。

制作年: 2019
監督:
出演: