ニコール・キッドマンが汚れた刑事を熱演!『ストレイ・ドッグ』カリン・クサマ監督が語る原動力と“喪失”の記憶

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ライター:SYO
ニコール・キッドマンが汚れた刑事を熱演!『ストレイ・ドッグ』カリン・クサマ監督が語る原動力と“喪失”の記憶
『ストレイ・ドッグ』(左から)カリン・クサマ監督、ニコール・キッドマン、ジュリー・カークウッド撮影監督©2018 30WEST Destroyer, LLC.

N・キッドマン、ゴールデングローブ賞ノミネート! 新鋭監督の創作術とは?

刺激的な作品に出演し続けるオスカー女優、ニコール・キッドマン。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』や『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(共に2017年)など、センセーショナルな映画で輝きを放つ彼女が、これまでとは大きく異なる斬新な役どころにチャレンジした。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

2020年10月23日(金)に日本公開を迎える『ストレイ・ドッグ』で、ニコールは過去の罪に精神を蝕まれた“汚れ役”の刑事を熱演。特殊メイクで、頬がこけ目をぎらつかせた野獣のようなビジュアルに変貌して観客を驚かせたほか、アクの強い狂気を見せつけている。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

LA市警の刑事エリン・ベル(ニコール・キッドマン)のもとに、差出人不明の封筒が届く。それは、彼女の心にいまだ暗い影を落とす17年前の潜入捜査先の主犯が差し向けた、挑戦状だった――。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

主演のニコールとともに、日光が照り付けるアメリカ・ロサンゼルスを舞台にしたハードな復讐劇を作り上げたのは、カリン・クサマ監督。『インビテーション』(2015年)などで注目され、ホラー映画工房ブラムハウスが手掛ける古典映画『ドラキュラ』(1979年、1992年)のリメイクが控える逸材だ。

このたび、クサマ監督へのオンラインインタビューが実現。武骨で骨太な力作は、どのようにして生まれたのか。彼女の創作術に迫る。

『ストレイ・ドッグ』カリン・クサマ監督©2018 30WEST Destroyer, LLC.

ニコール・キッドマンをうならせた特異なキャラクター

―脚本を読んだニコール・キッドマンさんが、出演を熱望したそうですね。どんなところが、彼女の心を射止めたのでしょう?

いままでにやったことのない役で、恥と後悔にまみれた特異なキャラクターであることに、興味を抱いてくれたんです。ニコールと会ったときに、色々と互いのイメージを共有しましたね。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―具体的には、どんなお話をされたのですか?

エリンというキャラクターが、自分の失敗や自己嫌悪といった、ちょっと病的な気持ちとどういう風に戦っているのか、というところですね。ニコールもこういった役柄は初めてだったので、役への入り方をふたりでじっくり話し合って進めていきました。

『ストレイ・ドッグ』(左)カリン・クサマ監督、(右)ニコール・キッドマン©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―あの強烈な演技の裏には、監督との綿密なディスカッションがあったんですね。ニコールさんのメーキャップもすさまじく、ぱっと見だと、本人とわからないぐらいに作り込まれていました。

おっしゃる通り、メーキャップは役柄においても、役作りにおいてもすごく大切なアイテムでした。ニコールはもともと陶器のように透き通った肌をしていますが、エリンはその逆で、肌がひび割れていますよね。この役は心に絶望を抱えていて、壊れたキャラクター。彼女の外見にそういった内面のニュアンスを入れることで、ニコールが肉体から役を作っていけるようにしたのです。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―メーキャップに関して興味深かったのは、いまお話しいただいたような「キャラクターの内面が現れた」部分プラス、現在と過去を見分けるアイテムとして機能していたことです。本作は現在と過去が交錯するつくりになっていますが、ニコールさんの“顔”で現在の出来事か、過去の出来事かが判別できる。

その通り。エリンの外見は、観客が「過去」か「現在」か見分ける支軸になっています。これは最初から想定していたことですね。いまお話しいただいた件については、ニコールともよく話していました。彼女は、エリンの17年前と現在を演じ分けなければならなかったわけです。そういった時間の経過を示すうえでも、メーキャップは重要でしたね。過去編ではメーキャップはほぼ必要なかったから、主に現在のシーンで使用しています。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

型破りな行動の“裏”に、キャラクターの真実がある

―20代をそのまま、違和感なく演じられるニコールさんもすごいですよね(笑)。エリンの内面の造形、つまり性格面についてもお伺いしたいのですが、周囲に敵を作るタイプで、何というか観客に対しても「好かれようとしない」部分が新鮮でした。

たしかに挑戦的な人物ではありますが、そもそもそこが狙いです。最初から、複雑で難しい性格の女性を描きたかったんです。観ている方が、登場人物と一緒に葛藤しながら観ていく、というプロセスを踏めたらと考えていました。私自身が、そういうキャラクターが出てくる映画が好きなのもありますね。

観客の中には彼女を観てフラストレーションを感じたり、わざと自分をないがしろにする、不幸にしていこうとする自暴自棄な部分に対して、「共感できない」と訴えたりする人もいました。ただ、彼女はモラルがない人間ではなく、モラルがあるからこそ葛藤して、ああいう状態になってしまっていると考えています。道徳心や、倫理観の裏返しなんです。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―なるほど、行動の“裏”にこそ、真実があるというか……深いですね。もうひとつお聞きしたかったのが、エリンの型破りな捜査方法です。情報を得るため、相手に性的なサービスを行う姿には驚きました……。

あのシーンはすごく安全な環境で撮影したので、ご安心ください(笑)。エリンというキャラクターは色々な意味で妥協の人生を歩んできていて、過去に自分が犯してしまった罪に、いまだに苦しんでいます。その彼女からしたら、性的なサービスは些末なことなんですよね。彼女は真実に近づくためなら何でもする人物なので、そもそも罪の意識すらないかもしれません。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―おっしゃる通り、推進力がすごいキャラクターでした。とにかく目標に向かって突き進む。

精神は過去に囚われているんだけれど、肉体はノープランで前進し続けるキャラクターですよね。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―エリンのキャラクターを中心にお聞きしてきましたが、ビジュアル面でもご質問させてください。本作はいわゆるフィルム・ノワール的な要素や、ハードボイルドな刑事サスペンスのニュアンスが強いですが、不思議と夜のシーンが少ないですよね。それどころか、白飛びするくらいに日光を強めて描いている。この狙いはなんだったのでしょう?

ご指摘いただいたとおり、『ストレイ・ドッグ』のような話って大抵、画面がすごく暗くて夜のシーンが多いですよね。でもこの映画では、あえて逆のアプローチをとっています。まるでキャラクターを罰するように、厳しく照り付けてくる昼間の日光を描きたかった。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―「罰する」という言葉を聞いて、とても納得しました。この作品のテーマである「過去の清算」と「贖罪」にも通じるものがありますね。

あとは、ロサンゼルスが舞台であることも大きいです。ロサンゼルスに住んでいると、日差しがきつくて、雨が降ってほしい……と思うことがたくさんあるんですね。そういった“ご当地感”を出すためにも、この方法論をとっています。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

「喪失感」が映画制作へと駆り立てる

―クサマ監督が影響を受けてきた作品や、映画監督を教えてください。

本作でいうと、とくに参考にしたのは、まず『タクシードライバー』(1976年)。キャラクターの作り方を学ぶ上では、最適でしたね。あとは、壊れた女性がたくさん出てくるアラン・J・パクラ監督の『コールガール』(1971年)や『パララックス・ビュー』(1974年)、ジョン・カサヴェテス監督の『こわれゆく女』(1974年)、シドニー・ルメット監督の『狼たちの午後』(1975年)など、70年代の映画に映像的な言語を見つけようとしました。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

それ以外の好きな作品だと、脚本がしっかりしていて、ストーリー性が高いものが好きですね。映画監督で尊敬しているのは、様々なジャンルを行き来して作品を作ることができるタイプです。今日だと、デヴィッド・フィンチャー監督や、ジャック・オーディアール監督などですね。

『ストレイ・ドッグ』©2018 30WEST Destroyer, LLC.

―最後に、クサマ監督ご自身が映画を作り続けるモチベーションについて教えてください。

「喪失」ですね。これまでに数多くの喪失を経験してきて最もつらかったのが、私が26歳のときに2歳下の弟が亡くなってしまったことです。そういった意味では、自分の精神の大部分は「悲しみ」が占めていて、喪失というものを糧にして映画を作ってきたように感じますね。

『ストレイ・ドッグ』カリン・クサマ監督©2018 30WEST Destroyer, LLC.

取材・文:SYO

『ストレイ・ドッグ』は2020年10月23日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

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『ストレイ・ドッグ』

ロサンゼルス市警の女性刑事エリンの元に届いた一通の封筒。それは17年前にFBI捜査官クリスと共に犯罪組織への潜入捜査を行った際、逃がした組織のボスから届いた挑戦のメッセージだった。取り返しがつかない過ちを犯し、以来、心に深く刻まれた罪悪感。その過去に決着をつけるため、エリンは砂漠地帯へと車を走らせるが―。

制作年: 2018
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