A24×プランBの話題作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』監督&主演俳優が語る故郷への愛と葛藤

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ライター:BANGER!!! 編集部
A24×プランBの話題作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』監督&主演俳優が語る故郷への愛と葛藤
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

かつての美しさを失いつつあるサンフランシスコへの望郷

アメリカ西海岸に位置するサンフランシスコ。1840年代後半からはじまったゴールドラッシュで大いに発展を遂げ、定番の観光名所ゴールデン・ゲート・ブリッジや路面電車、優雅に佇むヴィクトリアン様式の家々などが印象的な歴史ある街だ。しかし、富裕層が移り住むようになり急速な発展を遂げたことで地価が高騰し、代々そこに暮らしていた多くの人々が行き場所を失いつつある。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』で主人公を実名で演じたジミー・フェイルズも、そうやって故郷を失ってしまった一人だ。本作はジミーの幼馴染でもあるジョー・タルボットが監督し、美しい街の景観とともに、所属するコミュニティの大切さや、自らのアイデンティティを確かめるために自問する一人の男の姿を描いている。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

そんなサンフランシスコを愛してやまない二人に、街に対する想いや作品に込められたメッセージについて、CS映画専門チャンネル ムービープラスの新作映画情報番組「映画館へ行こう」MCの小林麗菜が話を聞いた。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

「いまのサンフランシスコに対しては入り混じった感情があるんだ」

小林:今まで自分の地元や家、居場所について考える機会がなかなかなかったんですが、作品を観させていただいて、あらためて考えさせられました。作品の舞台はお二人が住んでいたサンフランシスコですが、現在のサンフランシスコの苦悶が色濃く描かれていましたね。

ジョー:いまのサンフランシスコに対しては入り混じった感情があるんだ。変わってしまったことに対して怒りもある、でも、守りたくなる気持ちもある。ほかの人が怒っている意見を聞いて、それに対して別の感情を抱くこともある。いろんな感情が混ざっているんだ。そこから、ジミーが電車のなかで女性に言う「愛していないと嫌うことはできない」というセリフができたんだけど、そこで育ったからこそ、愛情はあるけど、昔の愛情が少しずつ薄れてしまっていることに対する喪失感というものも感じているね。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

小林:ジミーさんはいかがですか?

ジミー:やっぱり同じような感情を抱いているよ。子どもの頃に見ていたサンフランシスコとは違うし、いまも激しく切り替わっていっているからね。ただ、昔を思い出させてくれる人もいるし、そういう街の部分も残っているとは思うよ。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

「ダニー・グローヴァーは60年代からサンフランシスコに住み続けて、人々のために戦ってきた」

小林:ブラック・ライブズ・マター運動や、格差問題に対する抗議活動を引き起こしているのは、この映画で描いていることが元凶だと思いますか?

ジミー:低所得層の人たちが追いやられている、そのなかに多くの黒人が含まれているという意味で、現在起きているブラック・ライブズ・マター運動や、格差問題の源になっていると思う。

ジョー:サンフランシスコには黒人を追いやってきた歴史があるんだ。リベラルで革新的な街と言われているけど、それは黒人には適用されていなくて、家を買うのがすごく難しい。60年代の都市開発によって、彼らは住んでいたところから追いやられてしまった。いまでもそれは続いていて、警察や政府に差別を受けていると思う。コフィーを演じたジャマル・トゥルーラヴは、実は犯していない殺人の罪で何年もの間を刑務所で過ごし、その後、無事に無罪を勝ち取ったんだ。出所した直後にアプローチして出演してもらったんだけど、彼は大切な若い頃の数年間を刑務所で過ごす羽目になってしまったんだよ。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

ほかの役者も同じような扱いを受けてきた。ダニー・グローヴァーは60年代から活動家として知られていて、サンフランシスコにずっと住み続けて、サンフランシスコの人々のために戦ってきた人だ。そういう人たちが今回の作品に参加してくれたことによって、街の暗い部分と開発が進んでいる部分の両方を映し出すことができたと思う。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

「影響を受けた監督として最初に思い浮かぶのは、小津安二郎だね」

小林:シンメトリーや色使いなど、画面構成がすごく印象的だったのですが、影響を受けた監督や作品、絵画などはありますか?

ジョー:たくさんあるよ。いろんな作品を追って、観察して、盗みながら学んでいくからね。撮影監督のアダム・ニューポート・ベラや美術のジョナ・トゥシェットとは、作品のトーンについてよく話し合った。影響を受けた監督として最初に思い浮かぶのは、小津安二郎監督だね。ジミーが母親と再会するシーンは小津監督のフレーミングを参考にしたんだ。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

彼が人物を撮るときの構成はとてもユニークで、シーンに特別な質感を与える。親密さを感じると同時に、人物の間に距離が作られるんだ。それに関してはアダムとも多くの議論を重ねたよ。親子だから当然近い関係なんだけど、疎遠で距離もあるからね。シンメトリーの構成を用いると同時に、真正面から撮って互いの目線を合わせないようにしたかった。成功するか分からないしリスクはあったけど、ジミーとティチーナ(・アーノルド)の素晴らしい演技のおかげでうまくいった。お互いの目を見ずにあの演技ができたのは生まれ持った才能がある証しだ。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

ケン・ラッセルやレオス・カラックスなど、どのシーンも誰かしらの影響を受けているよ。特にアキ・カウリスマキのファンなんだ。彼の作品からは1930年代のハリウッド映画への愛情が感じられるし、彼が用いる色合いに毎回惹かれる。今回はジミーが心の奥底から語っていると感じてほしかったから、温かみのある色合いや光が感じられる作品を目指していた。観客には、ジミーの目を通してサンフランシスコやジミーの家を見て、彼と同じように恋に落ちてほしかった。そうすれば失った時にさらにパーソナルに感じられるからね。構成や色使いには、そういった意図があったんだよ。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

「日本に行けないことが残念。映画だけ日本に渡れるなんてズルいよ」

小林:日本の観客にメッセージをお願いします。

ジョー:この映画を作るのに5年かかっているんだけど、その間に短編を作り、それがサンダンス映画祭で上映された。その時に出会ったのが長久允監督だ。彼は英語をあまり話せなかったけど、通訳を通して仲良くなることができた。彼が発表した『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(2018年)も観ていて、実はぼくたちは彼のスタイルにすごく影響を受けているんだ。彼の短編『そうして私たちはプールに金魚を、』(2016年)のなかに、女子高生が携帯電話を上に放り投げてクルクル回って落ちるシーンがあるんだけど、この作品で子供が石を放り上げるシーンは、そこからアイデアを得たんだ。日本で公開されたら、盗んだことがバレてしまうね(笑)。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

ジミー:日本のみんながこの作品に共感してくれたら、すごく嬉しい。日本が生み出すアートはどれも素晴らしいものばかりだから、そのような人々に認められたら感無量だね。

ジョー:日本のみなさんに観てもらえるなんて、まるで夢のようだよ。ジミーとこの映画を作り始めた当時は、自分たちの親やサンフランシスコの知人ぐらいしか観てくれないんじゃないかと思ってたんだ。だから日本のみんなに観てもらえるなんて、言葉で表すことができないくらい感激している。唯一残念なのは、日本に行けないことだね。日本はずっと訪れてみたいと思っていた国だから。映画だけが日本に渡れるなんてズルいよ。映画に嫉妬してしまう。でも、みんなが気に入ってくれることを心から願っているよ。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』ジミー・フェイルズ、ジョー・タルボット監督

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』は2020年10月9日(金)より新宿シネマカリテ、シネクイントほか全国公開

取材:小林麗菜

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『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

サンフランシスコで生まれ育ったジミーは、祖父が建て、かつて家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。変わりゆく街の中にあって、地区の景観とともに観光名所になっていたその家は、ある日現在の家主が手放すことになり売りに出される。

再びこの家を手に入れたいと願い奔走するジミーは、叔母に預けていた家具を取り戻し、いまはあまり良い関係にあるとは言えない父を訪ねて思いを語る。そんなジミーの切実な思いを、友人モントは、いつも静かに支えていた。

いまや都市開発・産業発展によって、“最もお金のかかる街”となったサンフランシスコで、彼は失くしたものを、自分の心の在りどころであるこの家を取り戻すことができるのだろうか。

制作年: 2019
監督:
出演:
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