• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 『007』が日本のマンガ・アニメに与えたとてつもない影響 ~007は男子のディズニーランド~

『007』が日本のマンガ・アニメに与えたとてつもない影響 ~007は男子のディズニーランド~

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#増田弘道
『007』が日本のマンガ・アニメに与えたとてつもない影響 ~007は男子のディズニーランド~
UNITED ARTISTS / Allstar Picture Library / Zeta Image

日本男子(だんし)に刷り込まれた『007』

1960年代に日本で公開された『007』が与えた影響は、今からは計り知れないものがある。特に2年連続で興行収入第1位となった『007/ゴールドフィンガー』(1964年)、『007/サンダーボール作戦』(1965年)、2位となった『007は2度死ぬ』(1967年)の連作の勢いは 、最近の『ハリー・ポッター』シリーズ(2001~2011年)以上のものがあった。その記憶は60年代の日本人の記憶に深く刷り込まれ、その後のマンガやアニメ、さらにドラマや音楽に多大な影響を与えたのである。

あちこちに『007』が

その頃『007』を見ると、大人はスパイになったつもりで映画館を出てくるし、子どもは「スパイはかっこいい、スパイになりたい」(by 押井守 )と真剣に思っていたのである。その影響が如実に出たのが、さいとう・たかをのマンガ「007」。そのまんまである。1963年に小学館の<ボーイズライフ>という雑誌に連載されたマンガ「007」を読んで、教科書に一生懸命ジェームズ・ボンドのキャラを描きまくっていたのは小学生時代の筆者であった。そして、それがその後の「ゴルゴ13」着想の土台となったのは誰もが知るところである。

「00」は「7」で終わらない。石森章太郎時代(1984年までは石森章太郎表記だった)の「サイボーグ009」(1964年~)はもちろん、海外では「0011 ナポレオン・ソロ」(1964~1968年)というスパイが主人公のテレビ番組まで製作された。ルパン三世は、アラン・ドロンと並ぶフランスの人気俳優だったジャン=ポール・ベルモンドがもし007を演じたらこうなるはずと思って考えられたし、名探偵コナンも“殺しのライセンス”を持っていない小学生007で、最近の劇場版における「あり得えんだろ~!」とツッコミを入れたくなる超絶アクションもジェームズ・ボンドの得意技である。

悪の組織と秘密基地

『007』の影響はまだまだある。それは悪の組織と秘密基地。『007』に登場する国際的犯罪組織スペクターや秘密基地は、悪の集団を格段にスケールアップさせた(もちろんマンガ、アニメでの話だが)。それまでは、せいぜい怪人やマッドサイエンティスト、国内犯罪組織、他国のスパイ程度の敵だったのが、スペクター以降は、世界で暗躍する死の商人ブラックゴースト(サイボーグ009)、世界征服を企む謎の国際的秘密組織ショッカー(仮面ライダー)、秘密結社ギャラクター(科学忍者隊ガッチャマン)、そして名探偵コナンの<黒の組織>といったように、現代を先取りしたグローバルで巨大な悪の組織と成長した。

秘密基地もまた然り。1作目『007/ドクター・ノオ』(1962年)から、悪党の隠れ家というには立派過ぎる基地が必ず登場し、それがひとつの売り物にもなっている。特に日本でロケを敢行した『007は二度死ぬ』(1967年)の秘密基地は、なんと阿蘇山(多分)の噴火口の真下の巨大ホールである。一見湖に見える噴火口は実は偽装した開閉式の水圧ドアであり、そこが開いて宇宙船が発射できるという東京ドーム並みの巨大基地である。もちろん、そこからロボットが飛び出しても違和感はなく、それが「マジンガーZ」の地下格納庫へと連なるのは想像に難くない。

音楽にも影を落としていた『007』

『007』は音楽も斬新だった。巨匠ジョン・バリーによるゴージャスなスコアもいいが、何といっても忘れられないのが、モンティ・ノーマンによるボンドのテーマの、あのギターリフである。

一度聴いたら忘れられない、あのクールなギターフレーズを聞いていると想い出してしまうのが、なぜか「ウルトラQ」(1966年)。ギターの印象的なフレーズに、次第にオーケストレーションが被っていくスタイルも同じ。是非聞き比べてみてはいかがか。

もうひとつ、こちらはタイトルからして見え見えの「非常のライセンス」。“殺しのライセンス”の日本的翻案だが、1968年から1973年まで続いた大ヒットアクション番組「キイハンター」の主題歌。007のようなスパイが主人公というのは日本では設定しにくかったため、やむを得ず架空の国際警察特別室を舞台としたアクションドラマとなったが、『二度死ぬ』に出演した丹波哲郎を筆頭に、千葉真一、野際陽子など豪華な俳優陣で視聴率30%以上を獲得した日本版『007』であった。

男子(だんし)のディズニーランド

1960年代に出現した『007』が圧倒的な人気を勝ち得たのは、それが男(の子)の好きなものが全て詰まっていたからだ。そう、まさに男子(だんし)のディズニーランドだったのである。

男子の大好きな車(様々な仕掛けが施されたアストンマーチンDB5)や拳銃(ワルサーPPK)からはじまって、空飛ぶロケットベルト、一人乗りオートジャイロ“リトル・ネリー”、次々と繰り出される最新ガジェット・秘密兵器・武器、世界の国々での冒険(英米の都市はもちろん、オリエント急行、香港、日本、アルプス、ネバダ砂漠、プーケット島、ギリシャのサルデニア島、ベニス、リオデジャネイロ、インド、パキスタン、キューバ、サンクトペテルブルク、モスクワ、アゼルバイジャン、スペイン、マダガスカル、モンテネグロ、ジャマイカ、フロリダ、バミューダなどなど)、秘密基地(巨大豪華クルーザーから油田掘削基地、雪山要塞、巨大タンカー、巨大海上水族館、噴火口ドームなどなど)や火を噴くドラゴン……。

さらには華麗なる音楽のほかに、ディズニーでは許されていない、殺人(殺しのライセンス)、酒(「マティーニはステアーじゃなくてシェイク」)、タバコ、ギャンブル、セックス(ボンドガール)まで、子どもから大人までの男子の好きなものが全部そろっているのだ。

2023年には練馬にハリポタランドができるようだが、誰か『007』ランドも作ってくれないかな、と思ったのは筆者だけか。

文:増田弘道

『007』シリーズはCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年6月より放送
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook