世界中の男たちを魅了したコネリー・ボンド!『007』の記念碑的2作『ドクター・ノオ』&『ロシアより愛をこめて』

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ライター:齋藤敦子
世界中の男たちを魅了したコネリー・ボンド!『007』の記念碑的2作『ドクター・ノオ』&『ロシアより愛をこめて』
UNITED ARTISTS / Allstar Picture Library / Zeta Image

日本でも大ヒット! ボンドを真似するお父さん続出!?

『007/ドクター・ノオ』(1962年)は記念すべき『007』シリーズ1作目、『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)は2作目。初公開時の邦題はそれぞれ『007は殺しの番号』、『007/危機一髪』 で、日本でも社会現象になるほど大ヒットした。

殺人が容認されるコード“00”を持つスパイというのが何より新しく、この後のスパイ映画のイメージを塗り替えてしまった。銃や鞄といった持ち物から、食べ物飲み物に至るまで一家言あるキザなスパイは、イアン・フレミングの原作通り。戦中戦後の欠乏時代を生きてきたイギリスの男たちは、“ドライ・マティーニを(ステアでなく)シェイクで”みたいなボンドの蘊蓄に“おしゃれな男の振る舞い方”を学んだとも言われる。日本でもボンドの持つスリムなブリーフ・ケースがアタッシュ・ケースの名で大流行した。

今見ると、シリーズ第1作の『ドクター・ノオ』が娯楽路線、2作目の『ロシアより愛をこめて』がシリアス路線と、のちに袂を分かつ共同プロデューサー、アルバート・ブロッコリとハリー・サルツマンのそれぞれの好みが反映されていて面白い。ちなみにサルツマンのプロデュース作品には『国際諜報局』(1964年)というシリアス路線のスパイ映画の傑作がある。

コネリーの胸毛すらトレンドに!? 常夏のジャマイカで撮影された『ドクター・ノオ』

『ドクター・ノオ』は、カリプソのリズムに乗って“3匹の盲目のネズミ”がキングストンの街角を歩いてくるところから始まる。実は物乞いに扮した殺し屋3人組で、高級クラブから出てきた英国情報部のエージェントを撃ち殺し、走ってきた霊柩車に乗って去る。ジャマイカの明るい太陽とカリプソのリズムが一転、凄惨な殺しに転換する、しゃれたオープニングだ。

ボンドのスクリーン初登場は、ロンドンのメイフェア地区にある高級会員制クラブ“レ・ザンバサドール”のカジノで、妖艶な美女シルヴィア・トレンチを相手に賭けをしているシーンだ(2人がやっているのはフランス語でシュマン・ド・フェールと言うバカラの一種)。このクラブは実在するが、映画に出てくるのは撮影所のセット。もちろんボンドが大勝ちして去っていく。このシーンのボンドの立ち居振る舞いが実にかっこいいのだ。特にチップを両替し、ボーイにチップ(心付け)を渡して出て行く動作が流れるように美しく、男の魅力に溢れている(日本でもショーン・コネリーのおかげで、胸毛がトレンドになった)。

エージェント暗殺の謎を追って舞台がジャマイカに移ると、放射能汚染で両手を失い、金属の義手、眼帯をつけたマッド・サイエンティストのドクター・ノオが登場、アメリカの月ロケット打ち上げを妨害しようとするノオの陰謀をボンドが阻止するというメインの話になる。当時の米ソの宇宙開発競争が下敷きになっているとはいえ、正直に告白すると、アメリカのロケット打ち上げを妨害すると、悪の秘密組織スペクターにどんなメリットがあるのかがよくわからない。マクガフィンにリアリティを求めるのは愚の骨頂とはいえ、ビキニのウルスラ・アンドレスの肉体のリアリティに目を奪われて、いつもこの辺がうやむやのまま見終わってしまうのだ。

その点、シリーズ屈指の名作『ロシアより愛を込めて』は、よりリアルなマクガフィンが登場する。第二次大戦中にドイツが開発した暗号解読器エニグマである。暗号解読に携わった数学者アラン・チューリングを主人公にした『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014年)で一躍注目を浴びた。映画に出てくるタイプライター式の器械を潜水艦などに装備し、無線で受信した暗号化された指令を解読して作戦を遂行した。映画ではエニグマでなく、レクターと呼ばれている。

ここに注目! 2作目『ロシアより愛をこめて』を引き締めた3人の名優を紹介

『ロシアより愛をこめて』は、暗号解読器レクターを手土産にイギリスに亡命するというソ連の諜報員タチアナ・ロマノヴァを護衛する任務を与えられたボンドが、イスタンブールに向かうところから始まる。実は、ロマノヴァの上司にあたるクレッブ大佐は、悪の秘密組織スペクターに寝返っており、ロマノヴァを使って、ドクター・ノオを殺したボンドに復讐するためだった。イスタンブールからオリエント急行に乗車したボンドとロマノヴァに、スペクターの殺し屋グラントの魔手が迫る……。

あまりに有名な名作なので、これ以上、語る必要はないだろう。ここでは映画の格調を高めた3人の名優について少しだけ触れておく。

1人は殺し屋レッドを演じたイギリスの俳優、劇作家、小説家のロバート・ショウ。映画では第39回アカデミー賞で助演男優賞にノミネートされた『わが命つきるとも』のヘンリー八世役と、『スティング』(1973年)のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードに嵌められる親分役が有名だ。『アバランチエクスプレス』(1979年)の撮了直後、51歳の若さで急逝した。

もう1人は、イスタンブールの英国情報部支局長ケリム・ベイを演じたペドロ・アルメンダリス。40年代から50年代にかけてメキシコ映画黄金期を支えた名優で、名匠エミリオ・フェルナンデスと名撮影監督ガブリエル・フィゲロアによる数々の名作に主演した。現在のアルフォンソ・キュアロン、ギレルモ・デル・トロ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ らの活躍は、この時代からの厚い映画的な遺産があってこそ。アルメンダリスは、『ロシアより愛をこめて』に末期癌の宣告を受けながらも出演、撮了後に拳銃自殺した。51歳だった。

3人目はクレッブ大佐を毒々しく演じたロッテ・レーニャ。作曲家クルト・ワイルの妻にして創作の女神、ワイルのオペラの数々に出演した歌姫である(レーニャが活躍した時代の雰囲気は、クリストファー・イシャーウッドの原作をもとにしたミュージカル映画『キャバレー』[1972年]に活写されている)。

レーニャは、ナチスの台頭でアメリカに亡命、ワイルと死別した後は、ワイル作品の上演に尽力し、1981年にニューヨークで死去した。83歳だった。映画初出演はG・W・パブストが監督したドイツ語版の『三文オペラ』(1930年)で、舞台と同じジェニー役を演じた。映画などへの出演は少なく、生涯でわずか10本、『ロシアより愛をこめて』が3本目にあたる。レーニャのことは、映画よりワイルと絡めて語る方が面白いのだが、本欄は『007』がメインなので、この辺にしておこう。

文:齋藤敦子

『007/ドクター・ノオ』『007/ロシアより愛をこめて』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年7月ほか放送

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