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最高賞は誰の手に!? あの日本人監督作品も受賞!! 第70回ベルリン映画祭を総括

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ライター:#齋藤敦子
最高賞は誰の手に!? あの日本人監督作品も受賞!! 第70回ベルリン映画祭を総括
第70回ベルリン国際映画祭 © Erik Weiss / Berlinale 2020

金熊賞はイランのモハマド・ラスロフ監督『そこに悪はない』!

2020年2月29日夜、第70回ベルリン国際映画祭の授賞式が行われ、モハマド・ラスロフの『そこに悪はない』(英題『There is No Evil』)が最高賞である金熊賞を獲得した。

映画は、普段は普通の夫であり父である処刑人、兵役で刑務所に配属され処刑の担当にされそうになる青年、恋人に会うための休暇が欲しくて処刑担当を志願した青年、かつて処刑から逃げ出し隠遁した男、4人のエピソードが描かれる。コメディタッチあり、サスペンス調ありで、こんなに巧みな監督だったのかと驚いた(※ラスロフ監督はイラン政府に身柄を拘束されたため授賞式を欠席)。

『そこに悪はない』(英題『There is No Evil』)金熊賞トロフィーとラスロフ監督の写真 © Alexander Janetzko / Berlinale 2020

審査員大賞の『決して、まれに、時々、いつも』(原題『Never Rarely Sometimes Always』)は、17歳の女子高生が妊娠中絶のために女友達とニューヨークへ旅をする物語。

同年2月のサンダンス映画祭でも受賞済み(U.S. Dramatic Special Jury Award for Vision and Craft)で、いかにもニューヨーク派らしいミニマルでドキュメンタリータッチの作品だった。

審査員大賞『決して、まれに、時々、いつも』(原題『Never Rarely Sometimes Always』) © Sandra Weller / Berlinale 2020

『隠されて』(英題『Hidden Away』/原題『Volevo nascondermi』)は、実在の画家アントニオ・リガブエの生涯を、精神に障害を持ち、養家を転々として辛酸をなめたリガブエが絵に才能を見いだすまでを詩的に描く。

障害を持った天才という難役を演じたエリオ・ジェルマノが男優賞を受賞。

『隠されて』(英題『Hidden Away』/原題『Volevo nascondermi』) © Sandra Weller / Berlinale 2020

女優賞はクリスティアン・ペッツォルトの『ウンディーネ』(原題『Undine』)で、タイトル・ロールの水の精を演じたパウラ・ベーアが受賞した。

『ウンディーネ』(原題『Undine』) © Sandra Weller / Berlinale 2020

脚本賞のディンノチェンツォ兄弟『バッド・テイルズ/Bad Tales(英題)』(原題『Favolacce』)は、一見幸せそうな中流階級の家族の崩壊を描いたもの。

兄弟は“アメリカもビューティー(美人)も出てこない『アメリカン・ビューティー』(1992年)だ”と表現していたが、まさにそんな映画で、結末が衝撃的だった。

『バッド・テイルズ/Bad Tales(英題)』(原題『Favolacce』) © Sandra Weller / Berlinale 2020

想田和弘、諏訪敦彦ら日本人監督も健闘!

今年最も驚きだった作品が、ロシアのユーリ・クルザノフスキー&エカテリーナ・エルテル共同監督の『DAU、ナターシャ』(原題『DAU. Natasha』)だった。

『DAU、ナターシャ』(原題『DAU. Natasha) © Phenomen Film

『DAU』はソ連の天才物理学者レフ・ランダウをモデルに、スターリン時代の秘密研究所をめぐる人間模様を描いた膨大なプロジェクト。『ナターシャ』は研究所の食堂のウェイトレス、ナターシャを主人公に編集した作品で、それでも2時間半ある。ナターシャは食堂で職員や研究者に食事を提供しつつ、自分より若くて可愛い同僚に嫉妬したり、研究者と性的関係を持ったりするが、そんな穏やかな日々が、秘密警察に呼び出されて突然一変する。研究所内部のセットはもちろん、煙草やマッチに至るまで当時を忠実に再現したというのも凄いが、まるでのぞき見しているなリアル感、ソフカラー(ソ連製の二原色カラー)の色調までそっくり再現したユルゲン・ユルゲスのカメラに圧倒された。

日本映画は、フォーラムで上映された想田和弘監督の『精神0』がエキュメニック賞を受賞した。『精神0』は、想田監督の前作『精神』(2008年)の登場人物の一人、山本昌知医師の引退を追ったドキュメンタリーで、老いと夫婦愛がテーマ。

『精神0』© Laboratory X, Inc.

エキュメニック賞とはカトリックとプロテスタントの二つの教会から選ばれた審査員が、人間的、社会的な映画に与える賞。また青少年向けの映画を集めたジェネレーション14プラスで上映された諏訪敦彦監督の『風の電話』にスペシャル・メンションが与えられた。モトーラ世理奈はベルリンの観客にも大人気だった。

取材:文:齋藤敦子

▼受賞結果
コンペティション部門
【金熊賞】『そこに悪はない』(英題『There is No Evil』)監督:モハマド・ラスロフ
【審査員大賞(銀熊賞)】『決して、まれに、時々、いつも』(原題『Never Rarely Sometimes Always』)/監督:イライザ・ヒットマン
【監督賞】ホン・サンス『走った女』(英題『The Woman Who Ran』)
【女優賞】パウラ・ベーア『ウンディーネ』(原題『Undine』)/監督:クリスティアン・ペッツォルト
【男優賞】エリオ・ジェルマノ『隠されて』(英題『Hidden Away』/原題『Volevo nascondermi』)/監督:ジョルジョ・ディリッティ
【脚本賞】ファビオ&ダミアーノ・ディンノチェンツォ兄弟『バッド・テイルズ/Bad Tales(英題)』(原題『Favolacce』)
【芸術貢献賞】ユルゲン・ユルゲス『DAU、ナターシャ』(原題『DAU. Natasha』)の撮影に対して
【70回記念賞】『Delete History(原題)』監督:ブノワ・デレピン&ギュスタヴ・ケルヴェルン

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