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第70回ベルリン映画祭、注目4作品! 韓国の名匠の最新作や、正体を隠しナチスと親しくなったユダヤ人の物語ほか

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ライター:#齋藤敦子
第70回ベルリン映画祭、注目4作品! 韓国の名匠の最新作や、正体を隠しナチスと親しくなったユダヤ人の物語ほか
『Delete History(原題)』© Les Films du Worso / No Money Productions

韓国の名匠ホン・サンス監督最新作『走った女(原題)』は期待に違わぬ面白さ!

ケリー・ライカートと並んで私が期待していた映画がホン・サンスの『The Woman Who Ran(原題)』(訳:走った女)で、期待に違わず面白かった。いつものように起承転結のあるストーリーではなく、夫の出張中に女友達を訪ね、彼女らと交わす会話を通して、人間としてのアイデンティティや関係性が浮かび上がってくる。主演はホン・サンスの創作の女神キム・ミニ。

『TheWoman Who ran von(原題)』© Jeonwonsa Film Co. Production

ホン・サンスはヌーヴェルヴァーグの巨匠エリック・ロメールと比較されることが多いが、台本を作らず、撮影当日にその日のダイアローグを俳優に渡して、その場で物語を作っていく手法はロメールよりラディカルで、彼独自のもの。ポン・ジュノを優れた映画監督とすれば、ホン・サンスは優れた映画作家であり、その独特の個性は世界の映画界が認めるところだ。

『走った女』記者会見 (左)主演キム・ミニ、(右)ホン・サンス監督 photo by Atsuko Saito

何度も爆笑した今どきのドタバタコメディ『Delete History(原題)』

アート系の映画が並んだコンペで、異色の映画がネット社会を風刺したベルギーのコメディ『Delete History(原題)』だった。一夜の相手とのセックスを動画に撮られて脅迫されたマリー(ブランシュ・ガルダン)、電話セールスの女性の声に惹かれて勧められるままに買い続けた結果、ローン破産寸前のベルトラン(ドゥニ・ポダリデス)、顧客の評価が1つ星から上がらないのはシステムの不備だというウーバー運転手のクリスティーヌ(コリンヌ・マシエロ)の3人が繰り広げるドタバタ喜劇で、何度も爆笑した。インターネットという謎の媒体に振り回される3人の姿には誰もが共感を持つはず。

『Delete History(原題)』記者会見 (左)主演ブランシュ・ガルダン、(中央)共同監督ギュスタヴ・ケルヴェルン、(右)ブノワ・デレピン photo by Atsuko Saito

監督はテレビのコメディ番組で有名なブノワ・デレピン&ギュスタヴ・ケルヴェルンのコンビ。作家のミシェル・ウエルベックが自殺志望の男役で特別出演している。

廃人男の過去を描く映画にハビエル・バルデム&エル・ファニング

ベルリンでは2017年に前作『The Party(原題)』がコンペで上映された、イギリスの女性監督サリー・ポッターの新作『The Roads Not Taken(原題)』は、精神的にダメージを負った男の人生を、熱烈に愛した妻と別れることになった若き日々(メキシコ)、小説執筆のため家族から逃避した孤独な日々(ギリシャ)、献身的に支えてくれる娘との日々(ニューヨーク)という3つの時制で描いたもの。

一見、廃人然とした男の頭の中では過去が生き生きと蘇っている、というテーマは面白いと思ったが、時制の違いやその交錯が分かりにくく、共感できずに終わってしまった。主演のハビエル・バルデムは相変わらず上手く、エル・ファニングも健気な娘を達者に演じていた。

ユダヤ人が正体を隠し、ナチの将校と友人に?『Persain Lessons(原題)』

ベルリナーレ・スペシャルで上映された映画を面白く見た。題名は『Persian Lessons(原題)』と言い、収容所に送られたユダヤ人が、イラン人と偽ってナチの将校にペルシャ語を教えるというのが大まかなストーリーだ。もちろんペルシャ語などまったく知らない彼は、生き残るために偽のペルシャ語を発明し、それを間違えずに記憶しなければならない。イラン人でないことがいつバレるかという緊迫感の中、ユダヤ人と将校が、レッスンでは教師と生徒として立場が逆転し、やがて友情のようなものが芽生える。

主演は『BPM ビート・パー・ミニット』(2017年)、『天国でまた会おう』(2017年)のナウエル・ペレス・ビスカヤールと、第29回東京国際映画祭で東京グランプリを受賞した『ブルーム・オブ・イエスタデイ』(2016年)、『カット/オフ』(2018年)のラース・アイディンガー。ラストでユダヤ人が作りだした偽ペルシャ語が思いがけない感動を呼ぶ。

取材・文齋藤敦子

第70回ベルリン国際映画祭は2020年3月1日(日)まで開催

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