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盲目のピアニストが殺人を“目撃”?! 予測不能サスペンス『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』

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ライター:#松岡環
盲目のピアニストが殺人を“目撃”?! 予測不能サスペンス『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』
『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

歌って踊るスタイルはもう古い!? 今インドはサスペンス映画が花盛り!

インド映画は2010年頃から大きく変貌し始めた。ソング&ダンスシーンが減り、上映時間が短くなり、そして、各種娯楽要素てんこ盛りスタイルが消えていった。「恋あり、笑いあり、涙あり、アクションあり、スリルとサスペンスあり……」の娯楽要素満載スタイルが少数派に転落したあと、今、最も流行しているのはサスペンス映画だ。特に、日本でも公開された『女神は二度微笑む』(2012年)の成功以降、インドでは「スリラー」とタグ付けされるサスペンス映画が花盛りなのである。

2019年11月15日(金)から公開される『盲目のメロディ』(2018年)も、秀逸なサスペンス映画だ。ただ、アイディアはオリジナルではなく、フランスの短編映画でYouTubeにもアップされている『L’Accordeur(The Piano Tuner/ピアノ調律師)』が元になっている。とはいえ、

①主人公はピアノ弾き
②盲目であるふりをしている
③ある日仕事先の家を訪ねた時、向かいの主婦に目撃される
④その仕事先で、妻に殺害された夫を”目撃”する

という4点を頂いただけで、その上に様々な肉付けがされているのが本作だ。

『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

元ネタを換骨奪胎したインド映画ならではの自由すぎるオリジナル展開!

映画の舞台はインドのプネー。ムンバイから列車だと4時間ほど、高原にあるため気候も快適、大学や研究機関の多い中都市である。そこでアーカーシュ(アーユシュマーン・クラーナー)は、盲目を装うことで自分の芸術性が高まると信じ、毎日ピアノに向かって曲を作っている。ある時、レストラン・オーナーの娘ソフィ(ラーディカー・アープテー)が彼の才能に惚れ込み、店でピアノを弾いて歌ってくれと言い出す。目が不自由な彼の送り迎えは、ソフィ自らがするという。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

レストランの客で往年の人気男優プラモード(アニル・ダワン)はアーカーシュの歌が気に入り、結婚記念日に自宅でのサプライズ演奏を依頼する。妻シミー(タブー)を驚かせるのだ、と言われて当日プラモードの家に行ったアーカーシュだったが、シミーからは「夫は留守よ」と追い返されそうになる。向かいの主婦が顔を覗かせたので、シミーは仕方なくアーカーシュを中に入れるが、そこで彼はプラモードが血まみれで倒れている姿を“目撃”してしまう……。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

と、ここまでは元ネタを踏襲しているのだが、ここから映画はとんでもない方向に転がっていく。そのあたりがインド映画の「サービス精神」遺伝子の面目躍如で、臓器移植にからんだブラックな笑いや、時にはアクションも盛り込みながら、玉突きゲームのように起きる事件が描かれる。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

「サービス精神」の発露は、娯楽要素だけにとどまらない。本作はサスペンス映画にもかからわず、主人公が大いに歌ってしまうのである。ピアノの弾き語り歌手だから当然なのだが、遺体を“目撃”するシーンにも、お葬式シーンにも、そして最後のオチのシーンに至るまで歌が溢れかえる。ほとんどの歌は吹き替えだが、主演のアーユシュマーン・クラーナー自身も1曲歌っている。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

新進俳優にベテラン演技派女優、映画賞多数獲得の実力派監督が集結!

アーユシュマーン・クラーナーは、人工授精の精子提供者に扮した『ドナーはヴィッキー』(2012年)でデビュー。その後、確実にヒット作を積み上げてきた俳優で、特に去年から今年は、本作を始めとして次々とヒットを飛ばしている。また彼は、歌手としてアルバムも何枚か出しており、映画賞授賞式でのパフォーマンスなどにも引っ張りだこだ。出演作品はいずれも大作ではないものの、今、もっとも注目されているスターなのである。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

一方、悪女を演じるタブーは演技派女優の貫禄十分、彼女の前ではアーユシュマーン・クラーナーなど、ほんのひよっこにしか見えない。『その名にちなんで』(2006年)や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)の母親役で日本でも知られているが、本作では彼女の妖しい魅力が全開で、その姿が目に焼き付くことだろう。そしてもう1人、『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018年)のラーディカー・アープテーが、純朴な田舎妻とは180度違う姿を見せてくれている。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

監督は、『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』(2012年)が日本で公開済みのシュリラーム・ラガヴァン。本作でスクリーン賞の監督賞と脚本賞、フィルムフェア賞批評家賞の監督賞、国家映画賞の最優秀ヒンディー語作品賞など、多数の賞を受賞した。本作が最終的に2018年の興行収入第3位を記録したこともあって、インド映画のサスペンス・ブームはまだまだ当分続きそうである。

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』©Eros international all rights reserved

文:松岡環

『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』は2019年11月15日(金)から公開

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『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』

盲目のピアニスト、アーカーシュの誰にも言えない秘密。それは、本当はバッチリ目が見えること。芸術を追及するあまり、才能の向上を目指して盲目を装う彼は、ひょんなことから恋に落ちたソフィの父親の店でピアノ演奏を披露する日々を送っていた。
そんなある日、彼の演奏を絶賛した往年の大スター、プラモードからの演奏依頼を受けて訪ねた豪邸で、プラモードの妻シミーと、その浮気相手がプラモードを殺害したのを目撃してしまう!
死体も犯人も見えないフリで、その場を切り抜けたアーカーシュだったが、通報に駆け込んだ警察の署長こそプラモードを殺した男だった!
さらに災難は続き、盲目を疑ったシミーに毒薬を飲まされ、本当に目が見えなくなり、署長からは命を狙われて、遂には病院送りになってしまう。 追い込まれたアーカーシュは、目の手術費用を稼ぐため、病院で知り合った怪しい医者スワミたちと組んでシミーを誘拐するが、そこには裏切りと騙しあいの大騒動が待っていた!

制作年: 2018
監督:
出演: