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“怒り”の『憎しみ』から“慈しみ”の『URCHIN/アーチン』へ 30年の時を超えて、カンヌが認めた「愛すべき若者たち」のリアル

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ライター:#髙橋直樹
“怒り”の『憎しみ』から“慈しみ”の『URCHIN/アーチン』へ 30年の時を超えて、カンヌが認めた「愛すべき若者たち」のリアル
『憎しみ 4K』© Copyright 1995 - LES PRODUCTIONS LAZENNEC – LE STUDIO CANAL+ - LA SEPT CINEMA-KASSO Inc PRODUCTIONS. © 2009 Le Pacte © Photos : Guy Ferrandis
『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

1993年、フランスで移民の青年が警官に誤射された——
スラムの若者たちに名と顔を与えるための映画『憎しみ』

1993年4月6日パリ18区、煙草を盗んだ容疑で拘留されたコンゴ出身の青年が警官に誤射された。17歳の未来を奪った警察に対する怒りの抗議デモは数日間続いた。

同年8月、仏政府は「パスクア法」を改正、不法滞在者の取締りを厳格化し、警察の権限を大幅に拡大する。さらに国籍取得の制限も強化され、人種間の分断や差別、貧富の差が深刻化し、政権や警察に対する反発は激化の一途をたどった。

『憎しみ 4K』© Copyright 1995 – LES PRODUCTIONS LAZENNEC – LE STUDIO CANAL+ – LA SEPT CINEMA-KASSO Inc PRODUCTIONS. © 2009 Le Pacte © Photos : Guy Ferrandis

1995年、当時27歳のマチュー・カソヴィッツ監督は、悲劇的なこの事件を着想源に『憎しみ』に取り組んだ。「映画を作った理由は、若者たちが死んでいて誰も彼らのことを知らなかったから。観客に彼らを知ってもらいたかった。ニュースの中の若者に、名前と顔を与えるために」と、名もなき若者が直面している現実をモノクロの映像で強烈に突きつけた。初披露された第48回カンヌ国際映画祭での反響は凄まじく、カソヴィッツは《監督賞》を授与された。

『憎しみ 4K』© Copyright 1995 – LES PRODUCTIONS LAZENNEC – LE STUDIO CANAL+ – LA SEPT CINEMA-KASSO Inc PRODUCTIONS. © 2009 Le Pacte © Photos : Guy Ferrandis

『憎しみ』は、ユダヤ系のヴィンツ(ヴァンサン・カッセル)、アラブ系のサイード(サイード・タグマウイ)、アフリカ系でボクサーのユベール(ユベール・グンデ)、バンリューの同じ団地に住む青年たちの1日を描く。3人は警官の暴力で重体となった仲間を見舞いに行くが、けんもほろろに拒絶されてしまう。仕事がなく金もない彼らには特にやることもない。こうして24時間のあてどない彷徨が始まる。

『憎しみ 4K』© Copyright 1995 – LES PRODUCTIONS LAZENNEC – LE STUDIO CANAL+ – LA SEPT CINEMA-KASSO Inc PRODUCTIONS. © 2009 Le Pacte © Photos : Guy Ferrandis

『憎しみ 4K』は10月9日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全國順次公開中

バンリューを舞台に「フランス社会の縮図」を描く作品が続々

『憎しみ』の舞台バンリューは、パリから約30キロ離れた仏社会の縮図とされる郊外の街だ。この後、セリーヌ・シアマ監督が黒人女性の自立を描いた『ガールフッド』(2014年)、ジャック・オディアールがスリランカ内戦を逃れた偽装家族が直面する暴力の連鎖と人間の絆を問いかけた『ディーパンの戦い』(2015年)、両親がマリ出身のラジ・リ監督は『レ・ミゼラブル』(2019年)、『バティモン5 望まれざる者』(2023年)で社会の闇に迫った。また、取り壊しされる団地に居残る少年を軸に、都市の富裕化と郊外に閉じ込められた移民の貧困、社会的孤立を浮き彫りにした『GAGARINE/ガガーリン』(2020年)も忘れがたい。

『レ・ミゼラブル』©SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

注目俳優ハリス・ディキンソン初監督作
『URCHIN/アーチン』がカンヌで2冠

断絶化する社会を予言した『憎しみ』から30年、ロンドンで暮らす若者を描いた『URCHIN/アーチン』が10月23日(金)から劇場公開される。

監督は長編デビューとなるハリス・ディキンソン。パワーバランスが一瞬にしてドン底へとひっくり返る美男モデルを無様に演じた『逆転のトライアングル』(2022年)、女性CEO(ニコール・キッドマン)を手玉に取るインターンとなって挑発した『ベイビーガール』(2024)とキャリアを積み重ね、現在撮影中のサム・メンデスのビートルズ伝記映画ではジョン・レノン役に抜擢された注目の俳優だ。

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

イギリスで労働者階級の人々を真摯に見つめたケン・ローチ、マイク・リー、シェーン・メドウズらの映画が「僕の原点だ」と言うディキンソンは、幼い頃からホームレスの惨状を目の当たりにしていた。形骸化し機能不全に陥った現代政治に疑問を持った彼は、俳優業の傍らでボランティアを始めた。

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

無私の活動を通して「路上生活者や薬物依存に直面する人々が社会制度の隙間に取り残されているのではないか」と考えたディキンソンは、<BBC FILM>の全面的なサポートを得て、地元で暮らすひとりの若者に焦点あてた脚本を書き上げる。核となったのは、「なぜ、彼らは同じ過ちを繰り返してしまうのか」という素朴な疑問だった。

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

本作は第78回カンヌ国際映画祭《ある視点》部門で初上映され、同じ過ちを繰り返してしまうクズ男マイクを演じたフランク・ディレインが《最優秀男優賞》。主観を押しつけないディキンソンの演出が高く評価され、《国際映画批評家連盟賞》の2冠に輝いている。

30年の時を超えて、仏英の2作品が描く“愛すべき若者”たちのリアル

“URCHIN”はウニを指す言葉で、ちょっとトゲがある都会の浮浪児を意味するスラングでもある。薬と酒で逮捕歴もある主人公のマイクは、ホームレスになって5年。ある日、食事を奢るという男を殴り財布と腕時計を盗んでしまう。質屋に駆け込み40ポンドを手にするがあえなくご用に。監視カメラだらけのロンドンでは逃げ切れない。

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

8ヶ月後、退所後のカウンセラーと面談でイーストエンドに住み処を確保し、厨房の仕事にありつく。酒も薬も断って煙草だけで我慢する。瞑想しながらの更生は順調だと思った矢先、殴った男との再会が彼を狂わせる。仕事も手に着かず解雇の憂き目に。お次はゴミ収集でコンビを組んだアンドレア(メーガン・ノーサム)が暮らすキャンピングカーに入り浸り。これで安泰と思った矢先、彼女の仲間から差し出されたドラッグで勢いづいてしまう。街に繰り出し「どうだ、俺って最強!」と思ったところで記憶が飛んだ……。

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

『URCHIN/アーチン』は10月23日(金)より全国公開

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

――カソヴィッツが警察権力への“怒り”を込めて『憎しみ』を撮ったとすれば、ディキンソンは“慈しみ”の眼差しで『URCHIN/アーチン』を演出している。真っ直ぐに睨みをきかせる青年たちの彷徨と、ややもすると目をそらしかねない不器用なマイクのどん詰まりな日常。

両作に共通するのは、現在進行形の今を生きる若者たちの等身大の姿が描かれること。30年の時を超えて、仏英の路上には“愛すべき若者”たちのリアルが息づいている。

文:髙橋直樹

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