アメリカン・ニューシネマの〈第二陣〉とは?古きハリウッドに“先祖返り”した西部劇フォーマットの名作たち
『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』© MCMLXXIII by Metro-Goldwyn-Mayer Inc. All Rights Reserved.
『大いなる勇者』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
『大列車強盗』(1972年)© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
第二陣のニューシネマ西部劇②
『大いなる勇者』(1972年)
『明日に向って撃て!』でトップスター入りをしたロバート・レッドフォードが、同じくキャサリン・ロスを相手役に、かつて赤狩りでハリウッドを追われたエイブラハム・ポロンスキー監督の西部劇『夕陽に向って走れ』(1969年)に出演したあと二作品を挟んで主演したのが、俳優・TV界出身のシドニー・ポラック監督の『大いなる勇者』(1972年)だった。
『大いなる勇者』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
脚本は、後に『デリンジャー』(1973年)、『風とライオン』(1975年)、『ビッグ・ウェンズデー』(1978年)を監督し、『地獄の黙示録』の脚本を書くことになるジョン・ミリアスで、原題が「Jermiah Johnson」であることから判るように、主人公はあくまでもジェレマイア・ジョンソンという一人の男。途中、交易していた友好的インディアンの酋長から娘を妻としてもらい受け、孤児の少年と三人での平和な暮らしを築くものの、好戦的インディアンのクロウ族から、彼らの聖地を通ったために妻と少年を惨殺され、その後は復讐を誓って一人また一人とクロウ族を倒していく。
『大いなる勇者』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
山で独り生きる男の物語だが、途中で同様に独りで山で生きる男と出会ってしばらく一緒にいたりすることもあり、その意味ではバディ・ムービー的な要素もある。しかし、人生の伴侶を得ての暮らしは所詮彼には縁がないことが判明するわけで、その点が本作をダイレクトに受け継いだケヴィン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990年)とは異なり、孤独な男を描いたニューシネマ西部劇という新たなヴァリエーションだった。
第二陣のニューシネマ西部劇③
『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(1973年)
サム・ペキンパー監督、ジェームズ・コバーン、クリス・クリストファーソン主演の『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(1973年)は、邦題が有名なビリー・ザ・キッド寄りであるのに対して、原題は「Pat Garret and Billy the Kid」。つまり主人公はキッドを射殺した保安官パット・ギャレットの方で、保安官と無法者と立場を変えた友人同士の関係を彼の視点から描いている。
『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』© MCMLXXIII by Metro-Goldwyn-Mayer Inc. All Rights Reserved.
因みに、『イージー・ライダー』のフォンダとホッパーの役名はワイアットとビリーで、これは保安官ワイアット・アープと無法者ビリー・ザ・キッドから採られていて、保安官と無法者として知られていようが実は表裏一体の似た者同士ということ。その意味で、本作はニューシネマにおけるバディ同士がその後殺し合うような関係になる、というヴァリエーションとも言える。
『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』© MCMLXXIII by Metro-Goldwyn-Mayer Inc. All Rights Reserved.
キッド役のクリス・クリストファーソンはカントリー歌手で、本作の前に『ラストムービー』(1971年)にゲスト出演、『Cisco Pike』(原題:1972年)で初主演し、本作のあとはサム・ペキンパー作品の常連俳優となる。『ビリー・ザ・キッド』には他にも狂言回し的な役でボブ・ディラン、キッドの恋人役でリタ・クーリッジとミュージシャンが出演していて、ディランは本作のサントラ盤を自身12枚目のスタジオアルバムとしてリリースしていて、彼の大ヒット曲のひとつ「天国への扉」は同アルバムの収録曲だ。
因みに、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024年)で描かれた、ディランのフォークからロックへの転向がフォークソングのファンたちから“裏切り行為”として批判されたのは、同作の7年前の出来事だった。
第二陣のニューシネマ西部劇④
『大列車強盗』(1973年)
さて、1930年代からこの方、正統派西部劇の王者として君臨してきたジョン・ウェイン主演の本作をニューシネマ西部劇と括ることに抵抗のある人もいよう。だが『大列車強盗』(1973年)は古き良き西部劇を換骨奪胎している点で、ある意味この時期の他のニューシネマ西部劇と気脈を通じている。監督はジェームズ・ガーナー主演のコミカル西部劇で知られるバート・ケネディ。
ここでのウェインはあくまでも古い西部劇の価値観のままで、淑女には紳士的に接し、けっして私利私欲には突き動かされず、自らが信じる正義を貫く主人公を演じている。……ラストのどんでん返しまでは。
『大列車強盗』(1972年)© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
そもそも『大列車強盗』という邦題は、1903年にエジソン社が製作した世界最初の劇映画と云われる映画のタイトルと同じ(他にもショーン・コネリーとドナルド・サザーランド主演の1978年の映画もある)。つまり、タイトルもキャストもあまりにも古典的であるがゆえに目くらましをくらうのだが、ヒロインの未亡人役を1960年代的セクシー女優アン=マーガレットが演じている辺りを怪しまなければならない。
『大列車強盗』(1972年)© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
物語は、かつて列車強盗をした男が盗んだ50万ドルをある場所に隠して死に、その未亡人が夫の贖罪の為に鉄道会社にその金を返す決意をする。一方、ウェインはその手助けをすることで鉄道会社から発見者としての恩賞金がもらえる、というシチュエーション。
『大列車強盗』(1972年)© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
未見の方のためにネタバレは自重するが、本当にラストの2分くらいで全てが観客の思い込みであることが判る。また、金を横取りしようと、ウェインとその仲間、未亡人一行を追跡する武装集団がいて、それが始終付きまといながらも一人一人の人格や台詞などは一切なく、不気味な集合体としてのみ描かれるのが、『明日に向って撃て!』と同じ、という辺りがニューシネマ西部劇たるゆえんだ。
『大列車強盗』(1972年)© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
文:谷川建司
『大いなる勇者』『ギャンブラー』『大列車強盗』『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「黄金のベスト・ムービー:西部劇特集」で2025年5月放送