韓国で最も多い「世代別の死因」は?“生きづらい若者たち”描く『ケナは韓国が嫌いで』監督インタビュー
『ケナは韓国が嫌いで』チャン・ゴンジェ監督インタビュー
第28回釜山国際映画祭のオープニング作品にも選出された『ケナは韓国が嫌いで』が3月7日(金)より公開となる。『ひと夏のファンタジア』で知られる韓国の俊英チャン・ゴンジェ監督による、珠玉のヒューマンドラマだ。また同日より、旧作を集めた特集上映「映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で」も開催される。
『ケナは韓国が嫌いで』© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
本作はチャン・ガンミョンのベストセラー小説「韓国が嫌いで」をもとに、ランチすら好きに選べない韓国社会に生きづらさを感じ海外へと向かうケナの心の旅をリアルに描いている。その真摯な眼差しは映画からも、インタビューからも強く感じられた。
チャン・ゴンジェ監督『ケナは韓国が嫌いで』© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
「次の世代に対して私たちは、どのような世の中を残してあげるべきなのか」
――監督は原作のどこに一番惹かれて映画化を決意されたんでしょうか。
原作が出版された当時(2015年)、ケナと私とは別の人間ではありますが、私自身も韓国で暮らすのは本当に大変だな、疲れるな、というふうに思っていたんですね。だから本を読んでケナに共感しましたし、次はこの小説を必ず映画化しよう、と決めました。韓国の社会というのは、全てがやり過ぎなんです。仕事も本当にたくさんするし、お酒もとてもたくさん飲むし、勉強もすごくたくさんするしで、当時は私もそのような感覚を覚えていました。
――監督自身が「韓国が嫌いで」という気持ちになっていたということですか。
はい、その当時はそうだったと思います。
――今はちょっと違うんですか。
そうですね。あれから私も10年という歳月を経験し、その間の韓国の社会を見てきて、私と繋がっているなと思ったんです。韓国という国を考えるにあたって、どのように韓国社会を変えていくのか、そして1人の個人としてどのように生きていくべきなのか、という問いを自らにたくさんするようになりました。以前と同じ部分もありますが、私自身の意識が変わったというか。
『ケナは韓国が嫌いで』© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
――原作と映画ではいくつか違う部分がありますが、それはやっぱり監督の意識の変化が影響しているのですか?
そうですね。映画にそれが反映されていると思います。例えば、結末も原作とは変えていますが、それだけではなく人物に対しても私の心情の変化が反映されています。最も大きな変化は、次の世代に対して私たちはどのような世の中を残してあげるべきなのか。それを悩み、考えるようになったことが大きな違いですね。
――ポジティブな悩みですよね。
はい、そうなればいいと思っています。
『ケナは韓国が嫌いで』© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
「大学で学生に教えているので、彼らの未来を考えないわけにはいきません」
――次の世代のためにと悩むようになったのは、やっぱり監督がお子さんを育てているということが大きいのでしょうか?
はい、それはあると自分でも思います。さらにもう一つ、私は大学で学生に教えているから、というのもありますね。毎日接していて、やはり彼らの未来を考えないわけにはいきませんから。
――映画の中で、ケナをはじめとした若者たちの悩みがすごく繊細にリアルに描かれているのも、やはり教授として接している経験が役立っているんでしょうか?
私のクラスの学生をすべて一般化するわけにはいきませんが、でも若者たちについて考える環境に置かれているのは事実ですね。なぜこの子たちはこうなのだろう、などと日々色々と考えさせられているので。
『ケナは韓国が嫌いで』© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
――チャン監督は『眠れぬ夜』(2012年)や、『ひと夏のファンタジア』(2015年)、『5時から7時までのジュヒ』(2022年)など、今までも女性が主人公の映画を撮っていますが、女性が主人公であっても、かなり自分を投影する部分が多いんでしょうか。
はい、そうだと思います。
――では映画を作るにあたり、あまり性別を意識せずに主人公を設定しているのですか?
いや、そういうわけではないです。自分を投影しているとはいえ、やはり女性を通して表現された場合は違うものになる、と思っています。誤解のないように言えば、男性のキャラクターにした場合というのは、自分自身に対して率直になることが難しいという傾向があると思いますね。
韓国において男性としての教育を受けていると、感情をあまり出さないように、自分について率直に表現しないように育つんです。それもあって男性を主人公にした場合、実は自分の本心が出るキャラクターを作り出すのは難しく感じますね。だから私の映画は女性の主人公が多いのではないかなと思います。
▼特集上映「映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で」は3月7日(金)よりユーロスペースほか全国順次公開(※上映作品『十八才』、『眠れぬ夜』、『ひと夏のファンタジア』、『5時から7時までのジュヒ』)
『ケナは韓国が嫌いで』
ソウル郊外で両親と妹と共に暮らす28歳のケナ(コ・アソン)。大学を卒業後、金融会社に就職し、片道2時間かけて通勤している。学生時代からの恋人ジミョン(キム・ウギョム)は、「自分が就職したら支える」と言うが、そんなジミョンにケナは苛立ちを隠せない。だが、ケナの母は、裕福な家庭で育ったジミョンとの結婚を待ち望んでいた。一方、ケナが家族と暮らす小さな団地は老朽化が進み、再開発が予定されていたが、母は転居先の家の購入費用もケナに頼ろうとしていた。
ソウルの寒すぎる冬、地獄のような通勤、恋人との不透明な未来、仲は良いけれど息が詰まるような家族との日々ーー。ここでは幸せになれないと思ったケナは、ニュージーランドへの移住を決意する。
監督・脚本:チャン・ゴンジェ『ひと夏のファンタジア』
出演:コ・アソン『グエムル-漢江の怪物-』 チュ・ジョンヒョク「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」
キム・ウギョム イ・サンヒ オ・ミンエ パク・スンヒョン
制作年: | 2024 |
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2025年3月7日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開