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伝説のフェイク予告から16年、殺人感謝祭ついに開幕!『サンクスギビング』誕生秘話から名匠ボブ・クラークの影響まで徹底解説【前編】

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ライター:#ギンティ小林
伝説のフェイク予告から16年、殺人感謝祭ついに開幕!『サンクスギビング』誕生秘話から名匠ボブ・クラークの影響まで徹底解説【前編】
『サンクスギビング』イーライ・ロス監督
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あるYouTube動画がストーリー考案の糸口に!

この『サンクスギビング』フェイク予告編を作ったことで、ロスとジェフの長年の夢は叶った。しかし、ホラー映画ファンたちはそうではなかった。彼らは『グラインドハウス』公開以来、『サンクスギビング』の映画化を猛烈に願い、「いつになったら映画は完成するんだ!?」とロスに問い続けた。

そんな嬉しいリクエストをしてくれるのならば、いっちょ映画にしますか! と景気よく応えたいロスたちだったが、それには映画を作るための最も基本的な問題をクリアしなければならなかった。ストーリーを考えなければいけないのだ。

僕たちは『サンクスギビング』をホラー映画ファンに満足してもらえる映画にしたかった。でも、フェイク予告編を作った時は、ストーリーを考えずにスラッシャー映画のバカバカしい見せ場ばかり作っていたから、なぜ感謝祭に連続殺人が起きたのか? なぜ殺人鬼がなぜピルグリムの格好をしているのか? を考えていなかったんだ……(笑)。

この問題はロスとジェフを何年もの間、悩ませ続けた。ちなみにフェイク予告編を発表した翌年、『ThanksKilling』(2008年)という七面鳥のクリーチャーが感謝祭に大量殺戮を繰り広げるコメディホラー映画が作られている。

『サンクスギビング』映画化のプロット作りに苦慮した末にロスたちは、ストーリー作りの糸口を見つける。それはYouTubeにアップされた、ブラックフライデーの大型量販店に大勢の人々が押し寄せて暴動状態になる動画だった。

フェイク予告編を撮影した2006年には、こんなことは起きていなかった。感謝祭は、家族全員が夕食のテーブルを囲んで感謝の気持ちを表すものだった。それが感謝祭の直後、深夜0時になった途端、人々は大型量販店に押しかけてセール品を手に入れるために争っている……。

ブラックフライデーの動画を見て、これが連続殺人事件のキッカケ、つまり殺人鬼に人を殺し続ける理由を与えることができるのでは? と思ったんだ。『プロムナイト』(1980年)や他のスラッシャー映画でも物語は、いつも悲劇からはじまる。そして何年か経ち、同じ日が来ると悲劇に関係した人たちが次々と殺されていくんだ!

さらにロスは、こんなアイデアも思いつく。

フェイク予告編版の『サンクスギビング』は、1980年に制作された映画という設定にしたんだ。映画が公開された時、あまりに残酷な内容だったため、すべてのプリントが映画館から回収され廃棄処分になってしまった。現存したのは予告編のフィルムだけ。だから、僕らが作るのは“『サンクスギビング』を2023年にリブートした映画”なんだ。

そうなれば、物語がブラックフライデーからはじまることも辻褄が合う。ロスはジェフと共にストーリーを練った。二人は映画を『スクリーム』(1996年)や『ミュート・ウィットネス』(1995年)のような犯人探しミステリーの要素もあるスラッシャー映画にしようと考案。脚本はジェフが執筆し、フェイク予告編でファンたちが熱狂したシーン――感謝祭パレード中の殺人、トランポリン殺人、人間を食材にした感謝祭ディナー、そして監禁された犠牲者たちと催す恐怖の感謝祭ディナーなど――を盛り込んでいった。

『サンクスギビング』

『暗闇にベルが鳴る』のボブ・クラークに学んだエッセンスを投入

そして完成した『サンクスギビング』は、フェイク予告編のようなグラインドハウス風味あふれる粒子の粗い画質やフィルムの傷はなくなり、現代的な映像スタイルの映画になった。それでも、感謝祭発祥の地であるマサチューセッツ州プリマスを舞台にした映画は、フェイク予告編と同じように不穏な主観映像から幕開けする。これはロスが敬愛する、スラッシャー映画のルーツといわれる『暗闇にベルが鳴る』のオープニングにオマージュを捧げたものだ。

『暗闇にベルが鳴る』の原題は『Black Christmas』で、クリスマスを舞台にしたホリデー・スラッシャー映画でもあり、ロスは本作を監督したボブ・クラークの熱狂的なファン。フェイク予告編版『サンクスギビング』にナレーションを入れたのは、彼が10代の時に観た、ボブ・クラーク製作のホラー映画『ポップコーン』(1991年)のTVスポットの影響だった。彼は『死体と遊ぶな子どもたち』(1972年)の監督としても知られるボブ・クラークについて、こう語っている。

ボブ・クラークは過小評価されているけど、3つのジャンルを監督できる人なんだ。『暗闇にベルが鳴る』でホリデー・スラッシャー映画、『ポーキーズ』(1981年)は青春セックス・コメディ。そしてファミリー向けのホリデー映画の『クリスマス・ストーリー』(1983年)も監督した素晴らしい人だよ!

ロスは『サンクスギビング』にボブ・クラーク作品から学んだエッセンスを注ぎ込んだ。冒頭は『暗闇にベルが鳴る』のように不穏なムードで、家族が集まって平和に過ごす感謝祭のディナー・シーンは『クリスマス・ストーリー』のようなファミリー向けホリデー映画調に、殺人鬼のターゲットとなる高校生たちの学園生活シーンは『ポーキーズ』の高校のシーンを参考にした。

それだけではない。映画の前半で描かれる平和な感謝祭ディナーの出席者の一人に、『暗闇にベルが鳴る』の出演者であるリン・グリフィンを招聘。『暗闇にベルが鳴る』を心酔するロスのオファーを受けたリン・グリフォンは「自分の役は確実に残酷に殺される」と思っていたが、自分の出番は安穏ムード満載のディナー・シーンのみで、おおいに困惑したという。

後編はこちら!👉 <欲に溺れた「ブラックフライデー暴動」が血の惨劇を呼ぶ!イーライ・ロスの激痛スプラッター『サンクスギビング』見どころ究極解説【後編】>

イーライ・ロス監督 『サンクスギビング』

文:ギンティ小林

『サンクスギビング』は2023年12月29日(金)より全国公開

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『サンクスギビング』

「感謝祭(=サンクスギビング)」発祥の地、マサチューセッツ州プリマス。1年に1度の祝祭に沸き立つ人々だったが、突如、ダイナーで働く女性が何者かに惨殺される事件が起こる。

その後も一人、また一人と消えてゆく住民たち。彼らは皆、調理器具を凶器に、感謝祭の食卓に並ぶご馳走に模した残忍なやり口で殺害されていた。

街中が恐怖のどん底に突き落とされるなか、地元の高校の仲良しグループのジェシカたちは、ジョン・カーヴァーを名乗る謎のインスタグラムの投稿にタグ付けされたことに気づく。

そこには豪華な食卓が用意され、自分たちの名札が意味深に配されていた……。

監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス ジェフ・レンデル

出演:パトリック・デンプシー アディソン・レイ
   マイロ・マンハイム ジーナ・ガーション

制作年: 2023