腐臭が漂ってきそう⁉ 壁越しに死体と暮らした実在の男『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

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ライター:市川力夫
腐臭が漂ってきそう⁉ 壁越しに死体と暮らした実在の男『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

Netflixオリジナルシリーズ『マインドハンター』(2017年~)をはじめ、アルゼンチン史上最悪のイケメン殺人鬼を描いた『永遠に僕のもの』(2018年)、IQ160の天才殺人鬼を恋人の視点で描いた『テッド・バンディ』(2019年)などなど、このところ実在のシリアル・キラーを描いた作品が量産されている。そんな中で、もっとも邪悪な悪臭を放つのが『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2019年)。1970年から1975年の間に4人の女性を殺害し、アパートに死体の一部を隠していたドイツの連続殺人犯、フリッツ・ホンカの物語だ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

拍子抜けするほどユル~いポンコツ殺人鬼!

壁中にヌードモデルのピンナップが貼られた小汚い屋根裏部屋ではじまる女性の死体処理シーンという、たいへんショッキングな場面で幕をあける本作。交通事故で砕かれ変形した鼻、斜視、広い額、となかなか特徴的な容姿をしているホンカは、人体解体作業の前には酒をあおりタバコを一服し、首を切っている途中で作業を中断し、おもむろにお気に入りのレコードをかけて気合を入れ直す。流れるのは70年代に日本でも大ヒットしたベルギーの歌手アダモの 「ひとつぶの涙」のドイツ語バージョンだ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

そして、息を切らしてようやくバラバラにできた死体は、重い部分を部屋の壁の中に、手足などの軽い部位だけをアパート裏の空き地に投げ散らかす。

せめて埋めりゃいいのに……なんて思っちゃうのだが、ホンカは一事が万事この調子。「連続殺人鬼」という言葉に漂うはずのアグレッシブなものはまるでなく、何をしてもずさんさが際立ち、身なりはいつも汚く、暇さえあれば酒ばっかり飲んでいるアル中。行きつけのバー“ゴールデン・グローブ”で一発ヤリたいがために女性に酒をおごるが、見向きもされず、唯一相手にしてくれるのは行き場のない老娼婦ばかり……。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

一切の装飾を廃したリアルな“隣人”としての粘っこい恐怖!

本作は、そんなホンカの殺人を含めた日常だけを執拗に、淡々と描いていく。そこには恐怖感を煽るような演出も、エモーショナルな盛り上がりも、サスペンスもない。さらには、ホンカの悲惨な生い立ちや、狂気に走る理由が明かされることもなく、事件を追う警察も、ナチスの記憶が生々しいはずの時代背景も混沌とした社会情勢もほとんど描かれない。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

「私にとってフリッツ・ホンカは『羊たちの沈黙』(1991年)のハンニバル ・レクターのような架空のシリアル・キラーではありません。近所に住んでいた実在した人物です」というファティ・アキン監督の言葉通り徹底してホンカだけにスポットを当てた結果、だんだんと嫌悪感を超越し、スクリーンを埋め尽くす腐臭漂うおぞましさから目が離せなくなってしまう、危険な魅力が満載だ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

ちなみに、ホンカを演じたヨナス・ダスラーは若干23歳の俳優。本来は端正な顔立ちをしているのに、毎日特殊メイクに3時間かけてホンカに変身し撮影に挑んだとか。老娼婦を前になかなか勃起せず、ヌードモデルのピンナップを見ながらイチモツを力いっぱいしごく演技には、世界中の俳優たちが嫉妬してるはず!

文:市川力夫

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』は2020年2月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかロードショー

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『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

1970年代、ハンブルク。留年が決定したペトラがカフェでタバコを咥えると、突然、男が火を差し出してきた。男はペトラが去った後も、その後ろ姿をじっと見つめている。

バー<ゴールデン・グローブ>。
カウンターの端にいつもフリッツ・ホンカは座っていた。女に酒を奢ろうと声を掛けても、「不細工すぎて無理」と振られるだけ。注文もせずにひとりでポツンと座る中年女にフリッツが一杯奢ると、そっと横にやってくる。「私はゲルダ。ありがとね」。フリッツとゲルダは店を後にする。

フリッツの部屋。
ゲルダには30歳になる独身の娘がいるらしい。「ぽっちゃりして、可愛い子よ。肉を売っているの」 「面白いな。娘を連れてこい」。ゲルダの娘に会うことを夢想するフリッツ。

バー<ゴールデン・グローブ>。
いつまでたってもゲルダは娘を連れてこない。フリッツは3人で飲んでいる娼婦たちに声をかける。「俺の家に来い。酒ならいくらでもある」。ひたすら酒を飲み続ける女たちは、言われるままにフリッツの家へ入っていく。

ある日、フリッツは車に突き飛ばされる。それを機会に禁酒するフリッツ。夜間警備員の仕事につき、真っ当に生きようと心に誓うのだった……。

制作年: 2019
監督:
脚本:
出演:
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