• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 伝説のフェイク予告から16年、殺人感謝祭ついに開幕!『サンクスギビング』誕生秘話から名匠ボブ・クラークの影響まで徹底解説【前編】

伝説のフェイク予告から16年、殺人感謝祭ついに開幕!『サンクスギビング』誕生秘話から名匠ボブ・クラークの影響まで徹底解説【前編】

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#ギンティ小林
伝説のフェイク予告から16年、殺人感謝祭ついに開幕!『サンクスギビング』誕生秘話から名匠ボブ・クラークの影響まで徹底解説【前編】
『サンクスギビング』イーライ・ロス監督
1 2

あの「フェイク予告編」から16年、ついに……

待ってました! フェイク予告編から16年。遂にイーライ・ロス監督作『サンクスギビング』が映画になった。

『サンクスギビング』

嬉しいのはそれだけじゃない。イーライ・ロスといえば、(狂喜するファンもかなりいるが)観客が劇場から途中退場したくなるようなスリリングかつ絶体絶命な状況、(こちらも狂喜するファンもかなりいるが)観た者をドン引きさせる気合の入った人体破壊シーンを豪快に盛り込んだホラー映画を監督させたら、ワン・アンド・オンリーな存在感を発揮する異才。そんな偉大な御方なのに、近年の監督作は『狼よさらば』(1974年)のリブート作『デス・ウィッシュ』(2018年)、子供向けホラー映画『ルイスと不思議の時計』(2018年)と、主戦場から遠ざかっていた。

そんなロスが、イイ意味で「観客を怖がらすためなら1ミリも遠慮しない」姿勢で監督していただけるのは、『グリーン・インフェルノ』(2013年)以来、10年ぶり。まあ、みんなが大好きな聖人キアヌ・リーヴスが、僕の口からはとても言えないような悲惨な目に遭い続ける『ノック・ノック』(2015年)もホラー映画を超える恐怖度だったが。

本作の原点であるフェイク予告編版『サンクスギビング』は2007年、ロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノが、70~80年代のB級映画に敬意を表して監督した2本立て興行『グラインドハウス』の『プラネット・テラー』と『デス・プルーフ』の間に挟まれるフェイク予告編として制作された。そもそも、なぜイーライ・ロスはフェイク予告編『サンクスギビング』を制作したのか?

なぜ「感謝祭」をテーマにしたスラッシャー映画が存在しないのか?

子供の頃からゴリゴリのホラー映画ファンだったロスは、幼馴染みのジェフ・レンデルとホラー映画を観まくった。

僕たちは80年代初頭、ホリデー・スラッシャー映画の黄金時代に育ったんだ。

そう語るロスは、『暗闇にベルが鳴る』(1974年)、『ハロウィン』(1978年)、『血のバレンタイン』(1981年)、『エイプリル・フール』(1986年)、『狙われた夜/血に染まる大晦日のロックパーティ』(1980年)、『悪魔のサンタクロース/惨殺の斧』(1984年)などのホリデー・スラッシャー映画を、ジェフ・レンデルと共に楽しんだ。そんな彼らだが、12歳の頃からある不満を抱きはじめた。サンクスギビング(感謝祭)をテーマにしたスラッシャー映画が存在しないのである。

ただ「感謝祭」といわれても、日本では多くの方がTBSの特番「オールスター感謝祭」を思い浮かべてしまうぐらい馴染みのない祝日なので、ここで軽く説明します。

1960年、イギリスから米マサチューセッツ州のプリマス植民地に移住した清教徒たちの、最初の収穫を記念する行事であると一般的に言われている。アメリカでは毎年11月の第4木曜日、カナダでは毎年10月の第2月曜日に開催され、その日の晩は、家族で七面鳥の丸焼きやマッシュポテト、コーンブレッドなどの感謝祭メニューを食べるのが定例。ちなみに日本でもお馴染みになったブラックフライデーは、もともとアメリカで感謝祭の翌日に行われるセールとしてはじまっている。

感謝祭発祥の地であるマサチューセッツ州で育ち、毎年のように感謝祭を祝う二人にとっては、感謝祭を題材にしたホリデー・スラッシャー映画が作られないことが不満だった。

ハロウィンが過ぎると、その年の残りはクリスマス映画とファミリー映画ばかりになってしまう……。ユダヤ人の僕にとってクリスマス映画はあまり重要ではない。新作のホラー映画を観るためには、翌年の1月か2月まで待たなければいけない。僕たちは12歳の頃から、ホラー映画が公開されない11月を感謝祭のスラッシャー映画で埋めたかった。

だからロスは2007年、『グラインドハウス』のためにフェイク予告編を作る依頼が来た時、1ミリも迷うことなく『サンクスギビング』を監督した。フェイク予告編の脚本は、少年時代からロスと友情を育み、彼の監督作『キャビン・フィーバー』(2002年)にも出演したジェフ・レンデルと共に執筆した。彼は共同脚本だけでなく殺人鬼ピルグリム(巡礼者)役でも出演している。

イーライ・ロス監督&脚本・製作ジェフ・レンデル 『サンクスギビング』

フェイク予告編の中には、感謝祭パレード中の着ぐるみマスコットキャラの生首切断、人間を食材にした感謝祭ディナーの定番メニューが並ぶディナー・シーンなど、彼らが子どもの頃から空想し続けた“夢の殺人感謝祭ムービー”の見せ場を再現しただけでなく、トランポリンを堪能中のチアガールがハードコアに破廉恥な状態で殺される等の80年代スラッシャー映画のパロディも盛り込んだ。

フェイク予告編を監督したのは楽しかった。スラッシャー映画の見せ場だけを撮影すれば良くて、脚本を書く必要がなかったから(笑)。

次ページ:ストーリー考案の糸口となった「あるYouTube動画」とは?
1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『サンクスギビング』

「感謝祭(=サンクスギビング)」発祥の地、マサチューセッツ州プリマス。1年に1度の祝祭に沸き立つ人々だったが、突如、ダイナーで働く女性が何者かに惨殺される事件が起こる。

その後も一人、また一人と消えてゆく住民たち。彼らは皆、調理器具を凶器に、感謝祭の食卓に並ぶご馳走に模した残忍なやり口で殺害されていた。

街中が恐怖のどん底に突き落とされるなか、地元の高校の仲良しグループのジェシカたちは、ジョン・カーヴァーを名乗る謎のインスタグラムの投稿にタグ付けされたことに気づく。

そこには豪華な食卓が用意され、自分たちの名札が意味深に配されていた……。

監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス ジェフ・レンデル

出演:パトリック・デンプシー アディソン・レイ
   マイロ・マンハイム ジーナ・ガーション

制作年: 2023