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『死神の骨をしゃぶれ』ほかナイス邦題の宝庫! イタリア産“命がけ”ジャンル映画「ユーロクライム」を徹底解説

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ライター:#多田遠志
『死神の骨をしゃぶれ』ほかナイス邦題の宝庫! イタリア産“命がけ”ジャンル映画「ユーロクライム」を徹底解説
『死神の骨をしゃぶれ』©1974 / STUDIOCANAL
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スタントなしで実弾発射!? 出稼ぎハリウッド俳優たちを驚かせた撮影方法

70年代当時のイタリアは治安が悪化し暴力が蔓延、「赤い旅団」などの過激派グループによるテロも多く、政治も混乱していた。治安維持のためマシンガンを持った国家治安警察隊(カラビニエリ)がそこかしこに立っている、そんな時代にユーロクライムは合致していた。

ハリー(『ダーティハリー』)やポパイ(『フレンチ・コネクション』)のような一匹狼が悪や組織、腐敗した権力に立ち向かう――これがイタリアの観客に熱狂的に支持された。今までのジャンル映画が架空の世界を主な舞台にしていたのに対し、ユーロクライムは世相などの実際の要素を入れ込んだ実録路線だったのも特徴だ。

『死神の骨をしゃぶれ』©1974 / STUDIOCANAL

イーストウッドがマカロニウェスタンに出てブレイクしたように、ジョン・カサヴェテス、ユル・ブリンナー、ヘンリー・シルヴァ、テリー・サヴァラスなど、出稼ぎでユーロクライムに進出したハリウッド俳優たちも多数いる。『フレンチ~』に出ていたトニー・ロー・ビアンコ、『ゴッドファーザー』のリチャード・コンテなど、本家の役者もユーロクライムに出演している。そんな彼らを驚かせたのがイタリア独自の撮影方法だ。

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当時のイタリアはTVのチャンネルが少なく誰もが映画館に行っていたので、そのニーズを満たすために映画は早撮りが常だった。予算は足りないしスケジュールにも余裕はないため基本アフレコであり、周囲がうるさくてもセリフをトチっても、そのまま撮影を続行。これはハリウッド出身の役者には衝撃だっただろう。セリフよりも画のインパクトを重視する作りになってくるのだ。

また、ユーロクライムでは役者自身がスタントに任せずに車を運転してカーチェイスをし、ボンネットを飛び移ったり、ビルの上を飛び越えるなどの無茶なスタントをやっていた。これはフランスのジャン・ポール・ベルモンドが『カトマンズの男』(1965年)などで危険なアクションにノンスタントで次々と挑戦していたことが、イタリア映画人のライバル心をかき立てたからではないだろうか。

街中の撮影も基本ゲリラ撮影、チェイスシーンでは本物のパトカーに追われ、事故シーンで本物だと思って救出に来た通行人が映り込んでNG! とかはザラであった。さらに、金のかかる弾着(弾丸が当たった表現をする装置)を省くために銃撃戦では実弾を発射した……など、驚くほど危険きわまりない現場だったことが伺える。

ユーロクライムを支えたスタントコーディネイター、レミー・ジュリアンはのちに『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981年)から、『007』シリーズのスタントに出世する。ユーロクライムは世界一のスタントチームに認められるほどのアクションを繰り広げていたのだ。

荒唐無稽な拷問・残酷シーンの数々は「本当にあった」(※マフィア談)

イタリアと言えば『ゴッドファーザー』などでも知られるように、マフィア発祥の地である。ゆえにナポリのカモッラ、シチリアのコーザノストラなど、リアルな犯罪組織が跋扈する都市で撮影する危険もあった。プロデューサーが誘拐されたり、マフィアの構成員だった役者が撮影中に抗争で死んだり、シャレにならない緊張感のある現場が多く、路上ロケでも地回りにショバ代を請求されたりと、危険の連続であったそうである。

「赤い旅団」による元首相アルド・モーロの誘拐監禁、殺害という悲劇的事件、同時期に台頭してきたネオナチ、深刻な少年犯罪、身代金目当ての富裕層の子ども誘拐……そんな世相で作られたユーロクライムの作品群。次第に暴力描写は過激になり、ジェット機のエンジンに放り込んだり、ボーリングのレーンに縛り付けた男をピンに見立てボーリングの球で拷問など、残酷シーンも見せ場になっていった。処刑前に相手に放尿して侮辱したり、性器を切除するなど、時に荒唐無稽にも思えるものも入っているが、これはマフィアの本場ならではで、本職の拷問のリアリティがノウハウとして入っているため、「結構本当にあった」ものだったそうだ。

『サンゲリア』(1979年)などでイタリアン・ホラーの巨匠となるルチオ・フルチも、『野獣死すべし』(1980年)なるユーロクライムを撮っている。こちらも銃口を口に突っ込んで頭を吹き飛ばしたりと、のちのフルチらしい描写が連発するが、イタホラの残虐描写もユーロクライムの流れにある、と言えるかもしれない。

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このあたりのユーロクライムのワイルドな制作現場については、日本でもリリース/配信されている『ユーロクライム! 70年代イタリア犯罪アクション映画の世界』(2018年)に詳しい。フランコ・ネロなど関係者の証言から、その頃の秘話や熱気が浮き彫りになってくる力作ドキュメンタリーである。また、ブルーレイ版の特典として当時のユーロクライムの予告編が大量に収録されている。これは入門編として最適であるし、超お買い得だ。

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マルセイユとジェノヴァを結ぶ、麻薬密売ルートを追う警部ベッリは、麻薬の売人を捕まえたがその売人を何者かに殺されてしまう。自らの身辺にも危険が及ぶなか、引退したマフィアのボスであるカフィエロを利用し、麻薬ルートを解明する為の捜査を進めるが……。

監督:エンツォ・G・カステラッリ
出演:フランコ・ネロ
   ジェームズ・ホイットモア フェルナンド・レイ

制作年: 1973