「はたして蝶とサナギは同一の存在なのだろうか?」
―本作には、監督のこれまでのフィルモグラフィーにも通底するテーマである「肉体の変容」が描かれています。映画監督になる前からこういったことへの興味はあったのでしょうか?
私は子どもの頃から動物の営みに興味がありました。とくに“虫”にね。虫はさまざまなステージで変容を遂げていきますよね。一番有名なのは蝶です。卵が毛虫になって、サナギになって、最終的には蝶になる。
そこで私は、アイデンティティについて考えたんです。はたして蝶とサナギは同一の存在なのだろうか? と。これが僕の「肉体の変容」にこだわる原体験です。そういったことが発端になって、地球上に生きる生命体、その生命体の変容に関して興味を持ったんです。
―本作のタイトルは『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』ですが、監督の初期作で同タイトル(邦題『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』[1970年])があります。両作品に繋がりはあるのでしょうか?
繋がりといえば、未来犯罪を描いたもの、というぐらいです。テクノロジーが変わり、人間も進化して文化も変わっていき、はたして犯罪とはなんなのか? 犯罪をどう定義づけるのか? 禁忌は何なのか? ということを考えたのが、いずれの作品もベースになっています。
ただ、改めて観返してみると「様々な関連性があるな」と気づきました。我ながら驚きだったのが、『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』には人間の体の部位が保存されている場面が出てきますが、今作にもそういうシーンがあります。おそらく自分のなかにそういう場面がこびりついているのでしょう。この2つの作品は一緒に上映したら面白いでしょうね。
Crimes of the Future (1970) dir. David Cronenberg https://t.co/1YQVXVZrw0
— cinesthetic. (@TheCinesthetic) August 1, 2022
「ヴィゴとは互いにプロフェッショナルなコラボレーターであり、大切な友人でもある」
―本作でソール役を演じた主演のヴィゴ・モーテンセンについてお聞きしたいのですが、彼とは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005年)から4回目のタッグですね。そして、ヴィゴさんの監督作『フォーリング 50年間の想い出』(2020年)にはクローネンバーグ監督も出演されています。お二人のタッグがずっと続いている理由は何でしょうか?
ヴィゴは、私にとって真のコリーグ(一緒に働く仲間という意味。自分と立場が並列の人、同じポジションや責任のある人を指す)であり、コラボレーターです。彼は文章も書くし、詩人であり、ミュージシャンであり、写真家でもあり、出版社(パーシヴァル・プレス)も立ち上げている。非常に多彩な人ですから、映画の役柄にも深い味わいを持たせてくれる人です。
とても頭が良いので、自分の出番以外についてもあれこれ質問をしてくるタイプの役者なのですが、こういったことを脅威に感じてあまり歓迎しない監督もいます。しかし、私は彼のそういうところが好きだし、大歓迎なんです。いつも大いに刺激を受けています。そして、笑いの感覚が近いところがあって、撮影中だけではなく、こうして映画の宣伝活動をしていく中でも、笑い合うことが多いです。プロフェッショナル同士のコラボレーターというだけでなく、大切な友人でもあるんですよね。
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
そう遠くない未来。人工的な環境に適応するよう進化し続けた人類は、生物学的構造の変容を遂げ、痛みの感覚も消えた。“加速進化症候群”のアーティスト・ソールが体内に生み出す新たな臓器に、パートナーのカプリースがタトゥーを施し摘出するショーは、チケットが完売するほど人気を呼んでいた。しかし政府は、人類の誤った進化と暴走を監視するため“臓器登録所”を設立。特にソールには強い関心を持っていた。そんな彼のもとに、生前プラスチックを食べていたという遺体が持ち込まれる...。
監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン レア・セドゥ クリステン・スチュワート
制作年: | 2023 |
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2023年8月18日(金)より新宿バルト9ほか全国公開