「私の楽観視はみなさんの悲観視かもしれない」
―本作にはソールが使う椅子(Breakfaster)やベッド(OrchidBed)など奇妙な小道具が出てきます。監督と長年仕事をされているプロダクション・デザイナーを務めるキャロル・スピアさんとは、どのような話をして作業を進めるのでしょうか?
まず私は、ひとつひとつの作品を別個のものと考えています。みなさんは私のフィルモグラフィから紐付けをすると思うんですが、それはそれで悪いことではないですが、私自身はそれぞれ別の作品で、完結しているものだと考えています。そして、私の映画はいろいろな小道具が登場しますが、私自身が過去作品のあれこれを意識して小道具を考えることはないんです。
キャロルさんと仕事をする時は、かなり大勢のチームを編成してもらいます。まずスケッチをしてくれるグラフィックデザイナーを呼んで、どんなルックスのものがいいのか考察し、脚本に書かれた「亀の甲羅のような」「昆虫の殻のような」というところを具体的に詰めていくんですね。そのあたりは形状から手触りまで、細かいディテールをキャロルが私に質問をしてくれます。まるで車やコンピューターを設計しているような感じですね。その後、実際に立体で作ってくれるアーティストと組んで作っていき、最終的に映画に登場したものが出来上がるわけです。
We love Carol Spier! Genius Production Designer/Art director - The Fly, eXisteNz, Pacific Rim, Silent Hill #IWD2016 pic.twitter.com/y9kM83b1WU
— SciFiNow (@SciFiNow) March 8, 2016
「テレビ、PC、タブレット、時計でもいい。それが私の映画の観方です」
―本作の脚本が書かれた1998年から、映画そのものの消費のされ方も変わってきています。監督ご自身は今後の映画の未来をどのように考えていますか?
私は楽観視しています。ただ、私の楽観視はみなさんの悲観視かもしれないですね。私は映画の上映手段は映画館だけではなく、テレビ、PC、タブレット、さまざまであっていいと思っているんです。なぜなら私自身がまったく映画館に行っていないんですよ(笑)。
この前、ベネチア映画祭でスパイク・リーと話していたんですが、そこで彼は「映画館というのは我々にとって教会なんだ。教会は大事にしないといけない」と熱弁したんです。それで私は彼にちょっかいを出しましてね、スマートウォッチを見せて「ほら、スパイク。これは『アラビアのロレンス』だよ。時計の中でもラクダが見えるでしょ?」と冗談でからかったんです。でも、それが僕の映画の観方です。時計でもiPadでもいいのです。
それこそ『スキャナーズ』(1981年)や『ビデオドローム』(1982年)を撮っていた頃から、多くの観客は私の作品をテレビで見ることになるだろうと思っていました。なので、当時からテレビの画面比率(4:3)で観られることを想定して画角を考えていました。今の世界も、その延長線上にあると思っています。
映画館でかかる作品がスーパーヒーローものばかりになっていくかもしれない。それは当然のことかもしれないですし、悲観することではありません。何十年も前から、大多数の人がテレビで映画を観ていますから。真なるシネマを映し出すのは映画館だけではないのです。
取材・文:市川夕太郎
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は2023年8月18日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
そう遠くない未来。人工的な環境に適応するよう進化し続けた人類は、生物学的構造の変容を遂げ、痛みの感覚も消えた。“加速進化症候群”のアーティスト・ソールが体内に生み出す新たな臓器に、パートナーのカプリースがタトゥーを施し摘出するショーは、チケットが完売するほど人気を呼んでいた。しかし政府は、人類の誤った進化と暴走を監視するため“臓器登録所”を設立。特にソールには強い関心を持っていた。そんな彼のもとに、生前プラスチックを食べていたという遺体が持ち込まれる...。
監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン レア・セドゥ クリステン・スチュワート
制作年: | 2023 |
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2023年8月18日(金)より新宿バルト9ほか全国公開