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【戦後78年】戦争と人間と映画 クリント・イーストウッドやサミュエル・フラー監督ほか今こそ観たい名作たち

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ライター:#齋藤敦子
【戦後78年】戦争と人間と映画 クリント・イーストウッドやサミュエル・フラー監督ほか今こそ観たい名作たち
『史上最大の作戦』©2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

戦争と人間と映画

長い間、アメリカは第二次世界大戦を“よい戦争”と呼んできた。ナチスの残虐行為からヨーロッパを解放した、戦う意義のある戦争だったというのがその理由だ。けれども戦後、共産主義との闘いを旗印に何度も他国に出兵するうちに、次第に戦争に対する意識が変わっていった。特にヴェトナムで手痛い失敗をしてからは。

映画も同じで、例えば同じヨーロッパ戦線を描いても、ノルマンディー上陸作戦を描いた1962年の『史上最大の作戦』と、ベルリン侵攻を描いた1977年の『遠すぎた橋』では、視点の置き場所がまったく異なる。ヴェトナム戦争が終結したのは1975年4月のことだった。

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『史上最大の作戦』 ブルーレイ発売中 ¥1,905+税 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン ©2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

サミュエル・フラーの『最前線物語』(1980年)を見ると、“戦争を知りたかったら歩兵に聞け”という言葉を思い出す。独特のヴァイオレンス描写で有名なフラーだが、『最前線物語』に描いた通り、一兵卒として北アフリカからノルマンディー上陸を経てチェコスロバキアまでヨーロッパ戦線を転戦した。

最前線物語(字幕版)

フラーの描写には、目の前で人が死んでいくのを目撃した者にしか描けない残酷さと、死に対する諦念と、死を超えた人間味が漂っていて、本物の迫力がある。特にリー・マーヴィンの演じる古参の鬼軍曹にしみじみとした真実味を感じる。

「太平洋戦争」とは、日本で使われていた「大東亜戦争」を戦後、占領軍が呼び変えた言葉だそう。始まりは1941年12月8日の日本軍によるハワイの真珠湾攻撃で、1945年8月15日に終わる。こちらの戦争も様々な映画が作られていて、真珠湾攻撃だけでも、史実に基づいた『トラ・トラ・トラ!』(1970年)から、戦争メロドラマ『パール・ハーバー』(2001年)、社会派『地上(ここ)より永遠に』(1953年)などなど、沢山ある。

トラ・トラ・トラ! (字幕版)

ページ分割:日米両軍視点で描くイーストウッドの二部作

ジョン・ウー、イーストウッドら巨匠の個性が際立つ『ウィンドトーカーズ』『父親たちの星条旗』

ジョン・ウーの『ウィンドトーカーズ』(2002年)は、文字を持たないアメリカ先住民族ナバホ族の言葉を戦場で暗号として用いたという戦争の裏面史に材をとった作品で、日本軍敗退のきっかけとなった1942年から1943年2月にかけてのガダルカナル島の戦いが舞台だ。

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もちろん見所はジョン・ウーらしい骨太の戦闘場面だが、ナバホ兵の護衛に任命されたエンダース伍長(ニコラス・ケイジ)が彼らに次第に心を開いていくヒューマニズムや、戦争の残酷さもしっかり描かれているところに今の視点がある。

クリント・イーストウッドの『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』(共に2006年)は、太平洋戦争を終結させた1945年2月の硫黄島での激戦を、アメリカ側から(原作はジェームズ・ブラッドリー著:「硫黄島の星条旗」)と日本側から(吉田津由子著:『「玉砕総指揮官」の絵手紙』)、別々の視点で描いた2部作である。

硫黄島からの手紙(字幕版)

日本では渡辺謙が栗林中将を演じ、戦闘そのものを描いた『硫黄島からの手紙』の方が大きくクローズアップされたが、私は『父親たちの星条旗』に込めたイーストウッドの心情に心を打たれる。内容は、硫黄島の摺鉢山に星条旗を立てたジョン・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)ら3人の若い兵士が、勝利の象徴として戦時国債調達の宣伝に使われ、現実とのギャップに翻弄される姿を描いたもの。反戦のメッセージが、声高でなく、さりげなくほのめかされているところが、いかにもイーストウッドである。

マーク・ライデルの『フォー・ザ・ボーイズ』(1991年)は兵士の側からではなく、兵士を慰問する側から戦争を描いた音楽映画。第二次大戦の北アフリカから、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争と、50年にわたって戦地で“兵士たちのために”(フォー・ザ・ボーイズ)慰問ショーを開いてきた歌手ディキシー・レオナルド(ベット・ミドラー)とコメディアンのエディ・スパークス(ジェームズ・カーン)のコンビを主人公にした映画で、プロデューサーも兼ねたベット・ミドラーの迫力の名唱がたっぷり堪能できる。

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監督のマーク・ライデルは『ローズ』(1979年)でもミドラーとコンビを組んだ人なので、見どころ聞かせどころをしっかり押さえていて、特にヴェトナム慰問のときに歌う「イン・マイ・ライフ」が素晴らしい。歌手を主人公にしたバックステージ物でもあるが、妻として、母親として、愛する者を戦場に送らざるを得なかった一人の女性の悲しみを描いた反戦映画ともいえるだろう。

文:齋藤敦子

CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:終戦の日 あの頃の世界」は2023年8~9月放送

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