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成田凌と伊藤沙莉はどんな“17歳”だった? Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』インタビュー

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ライター:#関口裕子
成田凌と伊藤沙莉はどんな“17歳”だった? Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』インタビュー
成田凌 伊藤沙莉

「教師とは先に生まれた人のこと」――教師だった私の親は“先生”という呼称に準え、自身をそう定義していた。2022年5月20日(月)からHuluで独占配信されるドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』は、その記憶を蘇らせた。たぶん人が人に教えられることは、先に生まれた分の時間に学んだことだけ。でも、そこにこそ私たちが本当に学ぶべきことがあるのかもしれない。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

高校2年の夏、教室に貼り出された1枚の下着姿の女性のグラビアは、臨時の女性英語教師(田中麗奈)の若き日の写真だった。冷笑、好奇、同情……生徒のさまざまな反応の中、硬直しながらも教師はこう語り出し、キリンジの「エイリアンズ」を流した。「皆さんもこれから10年経ったら、必ず27歳になります。その時に後悔することが、私なんかより一つでも少ないことを私は本気で願っています」と。

本作は17歳と10年後の27歳の彼らを描く。挫けながらも役者になる夢を追う荻野智史役の成田凌、アイドルになる夢に振り回され、荻野となし崩しに同棲する前田ゆか役の伊藤沙莉。同年代の役を演じた2人に話を聞いた。

成田凌 伊藤沙莉

「燃え殻チルドレン」

―『あなたに聴かせたい歌があるんだ』への出演を決められたポイントを教えてください。

成田:タイトルが良く、原作者が燃え殻さん、監督が『東京喰種トーキョーグール』(2017年)の萩原健太郎さんで、キャスト一覧を見て、直感で「素敵な作品になるんだろうな、やってみたい」と思いました。

伊藤:私は『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021年)でお仕事させていただいた燃え殻さんの、とても燃え殻さんらしいお話だったので、面白くなりそうだなと根拠のない自信を持って臨みました(笑)。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

―伊藤さんは『ボクたちはみんな大人になれなかった』、成田さんは朗読劇『湯布院奇行』(2021年)で燃え殻さん原作を演じられていますしね。

成田:自分たちは“燃え殻チルドレン”だと思っています。

伊藤:あはは。そうですね。

―先ほど「燃え殻さんらしさ」とおっしゃっていましたが、そのニュアンスをもう少し詳しく教えていただけますか?

成田:初めてお会いして、いろいろお話を伺った時、「この人は何人分の人生を生きているんだろう?」と思いました。自分目線だけじゃなく、いろいろな視点から物事を見た物語を書く。どういう感覚で人生を歩まれているんだろうと思わせるところが、燃え殻さんの魅力かな。高校生のモヤモヤも、20代のモヤモヤも、ものすごく鮮明に表現されている。高校時代に近い僕も忘れている、細やかだけど感情を揺さぶった記憶が、燃え殻さんの文章を読んでいると蘇ってくるんです。記憶力がすごいのかな。鮮明に記憶し、心に深く刻んだ物事を丁寧に再現しているというか。

伊藤:観察力がエグいんだと思います(笑)。きっとお話を聞くのが好きで、そこから派生して、あの人ならこう考えるだろうとかヒントにするのが上手なんでしょうね。ご本人もおっしゃっていましたけど、普通は当たらないところにスポットライトを当てるところも魅力で、素敵というか、うまいなと思います。物語って一般的には夢が叶うまでのサクセスストーリーを描くじゃないですか。叶わなかった人を描くのはオチも含めて難しいし。でも叶わないところにこそ光を当てて寄り添う。すごいなと思います。

伊藤沙莉

「“大人にならなければ”と思ったことはない、けれど……」

―本作では“27歳”が一つのモチーフになっています。お2人は17歳のとき、10年後をどう想像していました?

成田:10代の頃の僕は20歳を目指して生きていたので、27歳なんて想像もできませんでした。10代からしたら27歳は電車の中で見る仕事帰りのサラリーマン、のようなざっくりとした印象でしたね。

伊藤:私はもっと大人だと思っていました。自分があまりにも変わらなすぎて、いつになったら当時思っていたかっこいい大人……、もうちょっとちゃんとした人になるんだろうと思っていました。10代の時、20代後半のスタッフさんは皆すごく頼れる大人でしたので、こんなに変わらない自分に、なんなら恐怖すら覚えます(笑)。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

―20代に突入すると歳を取るのは早くなり、精神的に大人になる速度は俄然遅くなるような気がします。なりたい大人になるために、もがいた時期はありますか?

成田:いまだモヤモヤ中です。僕の周りには、井浦新さんをはじめ一個一個の出会いを大切にし、懐が深く、愛情深い先輩が多いんです。でも僕は余裕がないのか、人をまだ愛しきれないのか、そこまでできそうもない。20代後半にして、やっと人を尊敬できるようにはなりましたが、その人たちのように生きられるかと言われたらまだ難しい気がします。

伊藤:私は正直、大人にならなければと思ったことはないんです。だからといって子どものままではいられない。いまでも余裕がないので何か起きれば心乱れるし、感情が優先になりがち。でも私は出会いにも、周りの大人にも恵まれているので、その方々の在り方を吸収して取り入れていければいいのかなとは思います。最近は感情ではなく、冷静に話せるように……努めています(笑)。

成田凌

―では10年前の17歳はいかがでしたか?

成田:部活でひたすら走らされていました。それこそ今日のスタイリストさんが高校時代の友人なんですが、毎日一緒に登校していて。駅から帰る途中に必ず「12時間後にはまたここにいるんだな」って、つぶやいていました。

伊藤:あはは。

成田:17歳くらいの時は「美容師になろう」と思っていました。それも自分で決めたわけじゃなく、先生に「どうしたい?」と聞かれた時、隣にいた友人に「俺たち専門学校行きます!」って一緒に手を挙げられていました。免許は取りましたけど、バイト中に事務所のマネージャーに声をかけられてこの世界に入ることになって。こんな10年後なんて想像もしていなかったので、なんだか不思議です。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

伊藤:私は9歳からこの仕事をやらせていただいていたので、17、18歳は、自分は向いているのか、これを職業として続けるのかを考える時期でした。ちょうど事務所を変わるタイミングでもあって、他の事務所に入ることは続けるということだし、そうじゃないなら受験をするとか何か違うものを見つけないといけない。正直、小、中学生の時のほうがオーディションには受かっていて、高校の頃はそれほどではなかったんです。それに、ある方に「学生服を着ている君しか想像つかない」と言われたこともあり、「学生でなくなったら、童顔とはいえできる役がなくなる!?」と恐怖で。そういうことをぐるぐる考えていました。

成田:大人じゃないですか。

伊藤:いやいや、大人じゃないです。

成田:少なくとも「12時間後もここにいるのか〜」とは違いますね。

伊藤:私も12時間後には学校にいましたよ(笑)。あの時はね。

伊藤沙莉

「『エイリアンズ』は安らぐ曲、だけど不穏さも感じさせる」

―そんなお2人は、共演されてみて俳優としてのお互いをどう思われましたか?

成田:すごくフラットな方だし、僕は子どもの頃から観ている方なので、ずっと一緒にやってきたような感覚です。ずっと一緒にいたようにカメラの前に立ち、お芝居ができるのって多分すごいことだと思うんですが、それを感じさせないんですよね。

―その過程は描かれませんが、場面転換すると同棲している設定。それでもスッと恋人同士になれたのもそのせいなのでしょうか?

伊藤:いや。あれはまさかの恋人設定でした。台本を読んでいて驚いたというか(笑)。

成田:びっくりしました(笑)。

伊藤:私は、いろいろな作品を観させていただき、成田さんのお芝居はとても素敵だと思っていたので、「生で芝居が見られる!」という視聴者目線もありつつの共演でした。『ちょっと思い出しただけ』(2022年)の撮影でも一瞬だけお会いしましたけど。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

―燃え殻さんの小説には、音楽が流れているイメージがあります。この作品ではキリンジの「エイリアンズ」がキーになる音楽として使われています。

成田:先ほどお話ししたバイトが古着屋だったんですが、その店では夕方に必ず「エイリアンズ」が流れたんです。ちゃんと聴いたのは今回が初めてでしたけど、名曲ですよね。でもカラオケで歌う曲とかではなく、みんなの生活の中にある曲というイメージ。歌うシーンもあったので、これはちゃんと理解しなきゃいけないと思ったんですが、深すぎてすべてを理解できていない気がします。

伊藤:あはは。

成田:そっと寄り添っていると思いきや、すごく孤独な気分にもさせられる。「エイリアンだけど一緒にいようか」ってある種の諦観みたい。作品の中で最後、4人で歌っていますが、たぶん皆それぞれ別の感情で歌っているんだと思います。でも、どの感情にもフィットする。だから皆の曲足りえるんでしょうね。

伊藤:私、とにかく無音がダメなので、1日中ジャンル問わずいろいろな音楽を聴いています。「エイリアンズ」は歌声も、歌詞も、尖りがないのが心地よくて、寝る時に流していました。だから反射的に聴くと眠くなるんです(笑)。安らぐというか。面白いのは、それなのに不穏さも感じさせるところ。不思議な曲です。

成田凌

「何かのタイミングで少し角度が変わって、思いもよらないほど遠くに行っていた」

―この作品は、役者になる夢を諦めきれずにもがく荻野智史(成田)、アイドルになりかった前田ゆか(伊藤)をはじめ、小説家志望の片桐晃(藤原季節)、ミュージシャンに区切りをつけラーメン屋を継ごうとする中澤悠斗(上杉柊平)、アイドルのモノマネに活路を見出した島田まさみ(前田敦子)、そして17歳だった彼らに“人は継続された時間の中に生きている”ことを教える元英語教師の望月かおり(田中麗奈)という、アンサンブルで物語を紡いでいきます。群像劇は演じるのが難しいように思うのですが、いかがでしたか?

伊藤:皆に焦点が当たる群像劇の場合、答えが出ないこともありますが、自分の役の役割を考えます。例えば自分の物語が第2話なら、何を見せ、どういう効果を期待してここに2話目の物語を持ってきたのかなど。

成田:全体のバランスは考えます。バランスという意味では、ちょっとヘラヘラしているけど心優しい人間である荻野は、無味無臭でいいかなと思いました。ヘラヘラしている人の話って、たくさん喋っていても意外と入ってこなかったりする。そんなふうに自分の言葉が全然、皆に入っていかない“無”な感じにできたらいいなと思っていました。第2話に前田ゆか(伊藤)、第3話に片桐晃(藤原)、第6話に島田まさみ(前田)という濃い色が置かれているし、山本浩司さんなど先輩たちもバシバシやってくれていたので。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

―田中麗奈さん演じる27歳の先生が、生徒たちにあの言葉を残し、あの態度で向き合えたのは、すごいなと思いました。

伊藤:確かに。いろいろと観念していないと、あそこまで行き着かないように思います。

成田:モデルになった方がいると聞きましたが、何を言い訳するでもなく、黙って「エイリアンズ」を聴かせて去る。すごく格好いいですよね。

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』©HJホールディングス

―そこまで傷つけるつもりのない高校生のちょっとした悪意が、10年にもわたって影響を及ぼします。人生はちょっとした言動で動いていくものでもあると描く、あの感じは秀逸でした。

成田:なんでもそうですが、何かのタイミングで少し角度が変わって、気付いたら思いもよらないすごく遠くに行っていた。人生なんて、そんなことの繰り返しですよね。

伊藤:本当に。大過なくきたはずなのに、自分がした、されたちょっとしたことを、ふいに思い出して、後悔したり、悲しくなったり。自分がされたことを相手が覚えていなかったり、その逆もあったり。人って意外と傷つけ合って生きているのかもと思うことも、支えられているなと感じることもありますね。ちょっとしたことが引き金になるわけですが、それがチャンスになることもある。だから怯えていても仕方ないので、やってみてダメだと思った時に考えようと思っています(笑)。

伊藤沙莉 成田凌

取材・文:関口裕子
撮影:落合由夏

Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』は2020年5月20日(金)よりHuluで独占配信(全8話)

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『あなたに聴かせたい歌があるんだ』

あの時、17歳だった僕らは27歳の大人を冷めた目で見ていた。17歳は、どんな夢も叶うと信じていた無敵で最強の時期だったけれど、時間は誰にでも平等に流れている。僕らはあの時の大人と同じ27歳になった。役者になる夢を諦めきれずにもがく荻野智史(成田凌)、アイドルになりかった前田ゆか(伊藤沙莉)、小説家志望の片桐晃(藤原季節)、売れないバンド⼈生に区切りをつけラーメン屋を継ぐ中澤悠斗(上杉柊平)、⼈気アイドルのモノマネに活路を見出した島田まさみ(前田敦子)、そして17歳だった彼らに27歳という年齢を刻んだ元英語教師の望月かおり(田中麗奈)。27歳だった先⽣と27歳になった生徒たちの運命が10年の歳月を経て再び交わろうとしていた。

監督:萩原健太郎
原作:燃え殻
脚本:藤本匡太 燃え殻 萩原健太郎

テーマ曲:キリンジ「エイリアンズ」(WARNER MUSIC JAPAN)

出演:成田凌 伊藤沙莉_
―――藤原季節 上杉柊平 前田敦子/
―――田中麗奈

制作年: 2022