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完全無欠の伏線回収ドラマ『コントが始まる』 菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介、有村架純、古川琴音の魅力

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ライター:#SYO
完全無欠の伏線回収ドラマ『コントが始まる』 菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介、有村架純、古川琴音の魅力
「コントが始まる」Huluで配信中
©NTV

菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介、有村架純、古川琴音――この5人の並びを見た段階で、観賞意欲がバチバチに高まった方も多いのではないか。土曜ドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)は、1993年生まれの実力派俳優陣を中心に据えた「30歳手前の群像劇」。人生に悩むお笑いトリオとその知人の姉妹、計5人の心模様が描かれていく。

「コントが始まる」Huluで配信中
©NTV

役者ファン&ドラマファン、どちらも満足!

菅田と仲野は学生時代からの旧知の仲であり、菅田、有村、古川は近作だと『花束みたいな恋をした』(2020年)に3人そろって出演。仲野と古川は『泣く子はいねぇが』(2020年)、神木と有村は『フォルトゥナの瞳』(2018年)等々、共演数も多い。菅田・神木・仲野がラジオ番組「菅田将暉のオールナイトニッポン」で語ったところによると、神木と仲野の初共演は『桐島、部活やめるってよ』(2012年)で、菅田が初めて見た芸能人が神木とのこと。神木は芸能事務所のオーディションの宣伝部長を担当していたのだという(菅田は落ちてしまったそうだ)。ちなみに、菅田・神木・仲野のがっつり共演は『コントが始まる』が初。そうした役者間の関係性という点でも、楽しめる企画になっている。

また、菅田と有村が共演した『花束みたいな恋をした』が興行収入40億円に迫る大ヒットを記録中で、仲野はドラマ『この恋あたためますか』(2020年)や『泣く子はいねぇが』、『すばらしき世界』(2020年)『あの頃。』(2020年)等々が一気に公開・放送され、大きく知名度を上げたタイミングでの本作出演(CM出演も急増中)。古川は1年越しの公開となった映画『街の上で』(2019年)が話題を集めており、神木はYouTubeに進出して新たなファンを獲得するなど、まさにいまが絶好機といえる。

仲野や有村に取材した際も、作品選びのこだわりや、自分たち世代が果たすべき役割についてしっかりと想いを表明する姿が印象的だった。このような部分から見ても、ある種“役者自身が仕掛けに行った”側面もあるのかもしれない。その結果、ここまでのブームを呼び起こしているわけだから、大成功といえるだろう(人気絶頂の中村倫也や、芳根京子まで投入する豪華ぶり!)。

ちなみに、『コントが始まる』の福井雄太プロデューサーは、菅田主演のドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(2019年)も担当した人物。脚本は『俺の話は長い』(2019年)の金子茂樹が務め、あえて「結末は決めずに作っている」という。とはいえ、公式サイトに記載されているように、本作は非常にテクニカルな「設定や構造を練りに練った」タイプの物語。旬の俳優が勢ぞろいした「この作品でしか観られないレア感」に「深掘りしたくなる凝った設計」が加わることで、見せ場重視の役者ファン×物語重視のドラマファンの双方を満足させられる仕様になっている。

この完成度……『コントが始まる』は完全無欠のドラマか!?

では『コントが始まる』の構造面の面白さとは? そのひとつは、“型”の構築といえるだろう。公式サイトの「INTRODUCTION」ページにて解説されているように、「このドラマは毎話、一本の『ショートコント』から幕を開ける」「しかし実はそのコント、後に起きる53分の物語の〇〇〇だった!!」(〇〇〇に入る言葉は“前フリ”といえそうだ)という仕掛けが施してあり、お笑いトリオ「マクベス」のコントは全て彼らに起こった出来事が元ネタとなっている。

第3話「奇跡の水」であればマルチ商法に引っかかった春斗(菅田)の兄の実話、第1話「水のトラブル」は春斗と里穂子(有村)の間に起こった出来事、第2話「屋上」は春斗と瞬太(神木)の思い出……。こうした構造を事前に視聴者に開示することで、ある種の謎解きドラマに似た「視聴者が能動的に物語に参加する」状態を創り出すのだ。第1話のセリフでもあった「伏線回収」がTwitterでトレンド入りを果たしたように、至る所に各エピソードのテーマへのリンクが隠されており、それが冒頭のショートコントに集約していく。

プラス「実体験」であることから、各キャラクターの掘り下げも同時に処理している点も秀逸。コントの元ネタが明かされる「過去編」と、今現在の物語を並行で走らせているのだ。たとえば「奇跡の水」では、マルチ商法にハマってしまった俊春(毎熊克哉)と春斗の“過去”がコントを通して描かれ、引きこもりとなった兄と弟の関係がどうなっていくのか、を現在パートで展開。

さらに、仕事のストレスで廃人状態になってしまった里穂子とつむぎ(古川)の姉妹の過去と現在をオーバーラップさせ、複数のキャラクターの掘り下げを同時に行う二重構造にしているばかりか、マクベスとファンの関係性から「作り手の事情」「観客の事情」にまで拡張させていく。「夢追い人はつらいよ」という単一方向の話だけに終わっていないのだ。

役者たちの“得意分野”を伸ばすようなキャラクター演出

また、それぞれの役者の“得意分野”を伸ばすような味付けにしている点も、極めて上手い。たとえば菅田は、演技の反射神経が抜群に上手い役者だ。そのため、「他者を咎める/諭す/振り回される」といったトリオのリーダー的ポジションが非常にハマっている。中でも、低温な態度→激怒して吠える、という「一瞬にして豹変する」彼の必殺技がしっかりと押さえられており、「相手の態度に反応して、感情が引き出される」プロセスを見事に見せきっている。

対する神木は、「隠す」演技のエキスパート。和を重んじるばかりに本音を言えない瞬太のキャラクターは、「自分の気持ちに蓋をする」=「素直な感情の演技に見せかけの表情を足して『自然に振舞っているように見せる』」という真逆のベクトルの演技を合わせなければならないが、神木の繊細な演技が説得力をもたらしている。第4話では、危篤状態の母親に会いに行くように春斗と潤平(仲野)に迫られ、「お前らとつまんない話したくないんだよ!」と本音を爆発させるシーンも。ここが観客の心を揺さぶるのも、「隠す」演技が機能していればこそだ。

「仕掛ける」演技に定評がある仲野は、作品全体を支える屋台骨として大車輪の活躍を見せている。コントパートでは突飛なキャラクターをくるくると変わる表情と演技で魅せ、それ以外はノリの良い潤平を時にハイテンションに、時に真面目に好演。ただ、彼が「ボケ担当」としてだけに終わっていない点に注目したい。『ゆとりですがなにか』(2016年)のような笑いを引き出す演技は確かに彼の専売特許であろうが、『すばらしき世界』や『泣く子はいねぇが』で見せたような、愚かで未熟で、だが懸命にもがく人間臭さこそ、仲野の演技の真骨頂。潤平が時折見せる苦悩や葛藤は、第5話以降により深く描かれていくことだろう。となれば、仲野の演技の懐の深さがさらに効いてくる展開になることは必定。

有村は『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)や『有村架純の撮休』(2020年)、『花束みたいな恋をした』等で、「本音をはっきり言う」あるいは「納得していないが無難な姿を“演じる”」キャラクターを演じてきた。これらは彼女ならではのゾーンといえるが、『コントが始まる』の“プロファン”のキャラクターで、より深化した印象だ。里穂子はマクベスの熱狂的なファンだが、面倒くさい人物に思われないように節度ある態度をとろうと心掛けている。しかし「好き」が暴走してしまい……という愛すべきキャラクター。有村が追求してきた「本音と虚飾」の進化系といえるだろう。

古川は2018年から芸能活動を始めた新鋭だが、物語性をまとった役者だ。自分のことはあまり語らず、それでいて何かしらのドラマを常に感じさせるキャラクターが非常に映える彼女は、『街の上で』のミステリアスな古書店員や、『十二人の死にたい子どもたち』(2018年)のゴスロリファッションに身を包んだ自殺志願者を立体化してきた。『コントが始まる』では人生の目標を見つけられず、スナックで働く女性・つむぎに扮しているが、第4話で「面倒見がよいあまり、自分よりも人の幸福を優先してしまう」という部分が描かれた。このキャラクター性は、古川が演じることでより哀愁が増しており、「つむぎを誰が救うのか?」は、第5話以降のカギといえそうだ。

このように、役者自身の話題性に秀逸な脚本や演出が重なり、さらに潜在力が引き出されたのが『コントが始まる』の強み。そして、第3話までは「解散を決めたお笑いトリオが、様々な人々から『続けてほしい』と言われる」という多幸感あふれる展開だったのに対し、第4話での恩師・真壁(鈴木浩介)の「続けないほうがいいんじゃないか」というセリフを境に、解散すべきか、続けるべきか混とんとしていく展開をも見せ始めた。後半戦に入っていく第5話以降、視聴者に根付かせた“型”をスクラップ&ビルドする可能性もあり、ますます目が離せない。やはりこのドラマ、徹頭徹尾冴えまくっている。

文:SYO

『コントが始まる』はHuluにて配信中、毎週土曜夜22時より日本テレビ系で放送中

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『コントが始まる』

それはある売れないトリオによる、取り留めのないショートコント……。
しかし実はそのコント、後に起きる53分の物語の◯◯◯だった!!

本日、夢を諦め解散を決意した『コント師』の3人の男たち。数年勤めた一流会社をドロップアウトし、抜け殻のようになった姉。その姉の世話を言い訳に目標もなく夜の街で働く妹。20代後半。誰もが指さす『大敗』のド渦中にいる男女5人。

――だがそれは煌めく未来への大いなる『前フリ』なのかもしれない!?

制作年: 2021
出演: