これからの人生、どうしよう!?『泣く子はいねぇが』は生き方に迷う男の“ジタバタ”を描いた人間ドラマ

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ライター:大倉眞一郎
これからの人生、どうしよう!?『泣く子はいねぇが』は生き方に迷う男の“ジタバタ”を描いた人間ドラマ
『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

大人になれない私

定まらぬ、定まらぬ。私の人生、一向に定まらない。――40歳で会社を辞めたが、妻あり、娘はまだ2歳。次の勤め先のあてがなくなってしまったが、8年も海外で過ごしていたので、新たに就職するにしてもどうすればいいんだか。ハローワークでは当時は結構なお手当をいただけたので、これでいいじゃん、という生活。そのうちなんとかなるだろう。約1年半無職で過ごして、ラジオで話し始めたが、それも長くは続かず、無職に戻ってしまった。無職の間はアジアをうろついていたんだから、「天下の無責任男」と額に札を貼り付けられて当たり前。よく妻が許してくれていたものである。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

現在63歳になり、ようやく落ち着いたかといえば、その兆しゼロ。人生に目的を求めるなんぞ、笑止千万。生まれて、死ぬまで、知りたい、見たい、聞きたい、それに尽きる。少しでも人の役に立てることがあればと頭を巡らすが、こんなことがありましたと話したり書いたりするのが関の山。

そんな私がこの「泣く子はいねぇが」を観て、もしかして、これは俺のことかも考え込んでしまった。

ちゃんとしろよ

『泣く子はいねぇが』で仲野太賀が演じる主人公、たすくは娘が生まれて幸せだが、吉岡里帆が演じる妻、ことねは何がやりたいんだかさっぱりわからず、ふらふらした生活を送っている夫に苛立ちしか覚えない。たすくは「大人になりきれていない」のである。しかし、大人になるってどういうことよ。そんなに大人は大人か?「泣く子はいねぇが~」とナマハゲとなって、幼い子供を泣かしてまわり、伝統を粛々と受け継いでいけば一人前とみなされるのか。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

たすくは、ナマハゲ参加者が少ないため亡くなった父の友人に強く参加を頼まれ、仕方なく出かける。妻はたすくが酒を飲むと何かをやらかすことを知っているので、「酒を飲んではならぬ」とクギを刺すが、やはりビール一杯から始まった宴会で泥酔したたすくは、テレビのライブ中継で素っ裸になって全国デビューという晴れ姿、いや、醜態を晒してしまう。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

とりあえず東京に逃げたたすくだが、その生活は変わらない。変わらないのに2年経ったのだから、みんな許してくれるかも、と根拠なく妻子のいる故郷に戻ってはみたが、「あんたバカじゃないの」と唯一の友人以外からは相手にされない。

ふー、たすくよ、どうする。私もこれからの人生、どうしよう。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

控えめな役者

仲野太賀は私が若手で一番好きな役者。本人のことは全く知らないが、きっとたすくとは真反対の生き方をしている、まっすぐで、繊細で、大人と認めるにふさわしい人なんだろうと思う。どんな役でも求められているところを感じ取り、髪の毛でさえ必要であれば自然に逆立ててしまいそうな、そんな感じ。監督は仲野太賀をイメージして脚本を書いたらしい。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

吉岡里帆はイライラ怒ってばかりだが、そうだよな、怒るよな、わかるよ、と前後のストーリーが描かれていなくても、納得させてくれる。柳葉敏郎、余貴美子、山中崇、高橋周平、猪俣俊彦がわずかなシーンでも控えめながら登場し、強い印象を残していく。つまり隙がない。ともすればメリハリのないものになりかねない、ほんのわずかな気付き、成長をテーマにしている作品を骨太にしている。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

どんな役割だったのかわからないが、是枝監督も「企画」というよくわからないクレジットで加わっている。脚本は、長編は今回が初めての佐藤快磨監督によるものなので、精神的応援ということなのだろうか。ともあれ、それでこの作品を観る人が増えるのであれば、いいことなのだろう。第68回サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞したことも喜ばしい。試写を観たときには、正式出品のニュースだけだったので、いいタイミングで上映となった。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

さて、大人になりきれていない63歳のおじいちゃんの私であるが、私は20代のたすくと同じ。歳をとった分だけ、人からばかにされなくなっているようだが(と私だけが思っている可能性大)、何も変わっていない。ときどき「大人になってください」と私が顧問をやっていた会社で若い経営者に説教を垂れていたが、チョー赤面ものである。この場を借りてお詫び申し上げます。しかし、そんな私ではあったが、娘は立派な大人に育ってくれた。一緒にいてくれてありがとう、と妻と娘に心から感謝をしたい。

『泣く子はいねぇが』©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

そんな気持ちにさせてくれる作品ですよ。いい大人も多分、私と同様のことを感じるんじゃなかろうか。

文:大倉眞一郎

『泣く子はいねぇが』は2020年11月20日(金)より全国公開

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『泣く子はいねぇが』

たすくは、娘が生まれ喜びの中にいた。一方、妻・ことねは、子供じみて、父になる覚悟が見えないたすくに苛立っていた。大晦日の夜、たすくはことねに「酒を飲まずに早く帰る」と約束を交わし、地元の伝統行事「ナマハゲ」に例年通り参加する。しかし結果、酒を断ることができずに泥酔したたすくは、溜め込んだ鬱憤を晴らすように「ナマハゲ」の面をつけたまま全裸で男鹿の街へ走り出す。そしてその姿をテレビで全国放送されてしまうのだった――。

それから2年の月日が流れ、たすくは東京にいた。ことねには愛想をつかされ、地元にも到底いられず、逃げるように上京したものの、そこにも居場所は見つからず、くすぶった生活を送っていた。そんな矢先、親友の志波からことねの近況を聞く。ことねと娘への強い想いを再認識したたすくは、ようやく自らの愚行と向き合い、地元に戻る決意をする。だが、現実はそう容易いものではなかった……。

制作年: 2020
監督:
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