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第94回アカデミー賞アニメ部門を予想! ピクサー・Netflix・ディズニーの三つどもえ&大穴『FLEE フリー』

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ライター:#増田弘道
第94回アカデミー賞アニメ部門を予想! ピクサー・Netflix・ディズニーの三つどもえ&大穴『FLEE フリー』
『あの夏のルカ』©2021 Disney/Pixar. All Rights Reserved. / Netflix『ミッチェル家とマシンの反乱』配信中 ©2021 SPAI. All Rights Reserved / 『ミラベルと魔法だらけの家』© 2021 Disney. All Rights Reserved.

第94回アカデミー賞 長編アニメ映画賞

今年もこの季節がやってきた。世界で一番気になる映画祭、アカデミー賞である。第94回となる2022年は均衡した有力作品が多く、現状ではピクサー『あの夏のルカ』、Netflix『ミッチェル家とマシンの反乱』、ディズニー『ミラベルと魔法だらけの家』の三つどもえ状態にあると言えるであろう。このような状況で受賞作の予想を語るのは難しいが、日本人としてちょっと残念だったのは細田守監督の『竜とそばかすの姫』がノミネートされなかったことである。

過去、日本からアカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた7作の内、6作はジブリ作品(『千と千尋~』、『ハウル~』、『風立ちぬ』、『かぐや姫~』、『思い出のマーニー』、『レッドタートル』)で、残る一作が『未来のミライ』だったので有力だと思っていたのだが(他にも、明石家さんまプロデュース『漁港の肉子ちゃん』、西野亮廣製作総指揮・原作・脚本の『えんとつ町のプペル』、田辺聖子の青春恋愛小説原作『ジョゼと虎と魚たち』、杉谷庄のコミック原作『映画大好きポンポさん』なども共にエントリーされた)。

ピクサーマジック『あの夏のルカ』

筆者の受賞予測の筆頭は、ピクサーの『あの夏のルカ』である。舞台は北イタリアの港町ポルトロッソ。そこの住民に怖れられている「シー・モンスター」である少年ルカが海を抜け出して人間と暮らすことになる、ひと夏の出来事を描いた作品。アクションあり、笑いあり、涙ありの王道中の王道を行くアニメーションである。それだけ聞くとありがちな作品と思われるかもしれないが、そこはピクサーマジック。前回の第93回アカデミー賞で勝利した『ソウルフルワールド』で見せた「The Great Beyond(あの世)」の卓越した表現力は、もはやマジックそのものだ。

『あの夏のルカ』©2021 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

監督のエンリコ・カサローザは、イタリアからニューヨークの美術大学に留学、そのままハリウッドでストーリーアーティストとして働き、2006年の『カーズ』からピクサーに合流。50歳でようやく監督デビューするのだが、初監督でこのクオリティの作品を作れるのがピクサーの実力なのである。現在、ピクサーには監督を務められる人材が10名以上いる。さらに、そういった才能が「シニアクリエイティブチーム」というチームを組んで互いの作品をブラッシュアップするという、完璧なシステムを持っている。1995年の『トイ・ストーリー』以来、全ての作品を成功させているピクサーの優位はアカデミー賞においても揺るがない。

強すぎるのが弱点

しかし、そんなピクサーも今年は危ういかもしれない。その最大の要因はピクサーがアカデミー賞に強すぎるという点にある。過去20回、長編アニメ映画賞でピクサーが受賞したのは実に半分以上の11回。だが、受賞3回のディズニー作品もピクサー経営陣のエドウィン・キャトムルとジョン・ラセターがディズニー・アニメーションを指揮して成果が出はじめた2010年以降のものなので、実質的には全20回の内、何と14回、75%がピクサーマジックによるものである。

過去、ピクサー/ディズニー以外に受賞したスタジオは『千と千尋の神隠し』(2001年)のジブリを含めて6社あるが、2013年からはピクサー/ディズニーが受賞を独占する状態の中で、唯一2018年だけはソニーピクチャーズの『スパイダーマン:スパイダーバース』が受賞した。それに対し、ガンダムの生みの親である富野由悠季氏が「この作品はアメリカの映画人にとって、初めて一般の小屋で“子供向けじゃない”ということで上映したアニメじゃないか」と看破したように、ソニーは大人を意識した作品で賞を勝ち取ったのである。北米におけるアニメ興収記録を更新したピクサーの『インクレディブル・ファミリー』(2018年)の1/3の興行収入であったのにもかかわらず、多くの映画祭で『スパイダーマン:スパイダーバース』が圧勝したのは、おそらくピクサー/ディズニー作品に多少食傷気味だったという点も多分にあったように思える。

『ミッチェル家とマシンの反乱』が持つ意味

そして今回、ピクサー/ディズニーの独占状態に楔を打ったソニーピクチャーズが送り出したのが『ミッチェル家とマシンの反乱』である。Netflix配信がメインだったのであまり知名度はないが、この作品が『~ルカ』の対抗馬になる。

Netflix『ミッチェル家とマシンの反乱』配信中 ©2021 SPAI. All Rights Reserved

家族をテーマとしたハートウォーミングな作品ではあるものの、インターネットやロボット、AIといった今や不可欠となったテクノロジーネタが満載の大人(オタク)もニヤッとできる作品である。この『スパイダーバース』での成功を意識したソニーの作品づくりは、ファミリーアニメの王者ピクサー/ディズニーとは一線を画す大人ジャンルを形成しつつあるように見える。

Netflix『ミッチェル家とマシンの反乱』配信中 ©2021 SPAI. All Rights Reserved

ディズニーが総力を挙げた『ミラベルと魔法だらけの家』

アカデミー賞に先行するアメリカ国内の映画祭では『ミッチェル家~』と『~ルカ』、そして『ミラベルと魔法だらけの家』が激しく争っている。その中でもゴールデングローブ賞と米美術監督組合(ADG)のアニメーション部門という権威ある賞を獲得した『ミラベルと魔法だらけの家』はディズニー長編アニメーションとして60作品目となる記念作品で、音楽にトミー賞をはじめアメリカの演劇賞を総なめにしたリン=マニュエル・ミランダを起用したディズニーの推しの一作である。

『ミラベルと魔法だらけの家』© 2021 Disney. All Rights Reserved.

日本では2021年11月に公開されたものの、コロナ禍に加えディズニープラス配信もあったこと、また日本人が考えるディズニー作品とイメージが違っていたこともあってか興行収入7億円と寂しい結果に終わってしまった。しかし、ラテン系の人口が急速に伸びているアメリカでは上々な評価を受けており、アカデミー賞受賞の可能性も十分あると言えるだろう。

© 2021 Disney. All Rights Reserved.

アニメーションによるドキュメンタリー『FLEE フリー』

以上の三作がアカデミー賞の有力候補だが、実は大穴作品として現時点で日本未公開(筆者も未見)の『FLEE フリー』がある(※2022年6月に日本公開決定)。この作品、日本ではまだほとんど知られていないが、2021年から今年にかけて世界中の映画祭で圧勝しているのだ。国際的な認知度が高いアヌシー国際アニメーション映画祭総合部門や、インデペンデントの映画祭として知られているサンダンス映画祭のドキュメンタリー部門でグランプリ、トロント国際映画祭でも4部門で賞を獲得しており、合計で40以上のメダルを獲得している。

『FLEE フリー』©Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

この作品はアフガニスタン難民のゲイ男性の体験をアニメーションによるドキュメンタリードラマとして描いたもので、現在のハリウッドでも評価を受けそうな気配がある。アカデミー賞では2007年にイラン革命下における政治状況を描いた『ペルセポリス』がノミネートされて以来、2017年の『ブレッドウィナー(生きのびるために)』、2020年の『失くした体』といったように、政治・人種問題などをテーマとした作品が少しずつではあるが増えつつあるので、『FLEE フリー』が評判どおり力のある作品であれば、ひょっとしたらひょっとするという可能性もなくはない。

文:増田弘道

第94回アカデミー賞は2022年3月28日(※日本時間)開催

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