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宮崎、庵野、細田、新海に続くアニメ監督!?『アイの歌声を聴かせて』吉浦康裕は先人たちの作家性と商業性を引き継げるか

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ライター:#増田弘道
宮崎、庵野、細田、新海に続くアニメ監督!?『アイの歌声を聴かせて』吉浦康裕は先人たちの作家性と商業性を引き継げるか
『アイの歌声を聴かせて』©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

期せずして一致した意見

約5年前に新海誠監督の『君の名は。』(2016年)が日本映画興行収入2位となる250億円という超ヒットとなった時(なにせ前作『言の葉の庭』[2013年]が推定興行収入1億5千万円だったので)、日本の作家性(オリジナル性)と商業性を持ち合わせた劇場アニメ監督の伝統は、これ以降も引き継がれるのではないかと思った。そこで知り合いのライターと、もし新海誠の次に来る監督がいるとしたら誰? という話をしたことがある。

宮崎、庵野、細田と来て新海誠の大ブレイク、その先に続く若手は誰か。その時に二人の口から期せずして同じ名前が出たのが、本作『アイの歌声を聴かせて』吉浦康裕であった。2005年に『ペイル・コクーン』でデビューし、2008年の『イヴの時間』で注目を集め、2013年の『サカサマのパテマ』で本格的に才能を開花させた。その吉浦監督が新作劇場作品を発表するとあっては、期待せざるを得ない。一体どんな作品になったのだろうか。

『アイの歌声を聴かせて』©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

『アイの歌声を聴かせて』に見る先進性

重力が逆さまに働くという斬新な発想のSFファンタジー『サカサマのパテマ』はアニメファンを唸らせた。それまで近未来をシリアスに描いた『ペイル・コクーン』『イヴの時間』といったシリアスなテーマが続いたあと、壮大なスケールのファンタジーの到来には初期宮崎アニメを思わせるものがあり、監督に対する期待値が一気に高まった。ところがその後、どういう事情か分からぬままに8年が過ぎてしまった。まあ、それはそれでいいとして、ようやく満を持して吉浦監督が放ったのが『アイの歌声を聴かせて』であった。

『イヴの時間』にある人間とアンドロイドのコミュニケーションから、今回はその対象がAIとなったが、そのストーリーはかつてのシリアスなものではなく、ポジティブな色調に彩られた学園ドラマとなっている。

『アイの歌声を聴かせて』©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

主人公サトミの高校に転校してきた謎の美少女シオン。全く影のない明るい性格、唐突に歌い出すキャラクターは謎だらけだが、それもそのはず、シオンはサトミの母親が開発中のプロトタイプとも言うべき、完璧にはほど遠いややポンコツ気味のAIだった。事情を知っているサトミは当然のことだが、当初は戸惑いを隠せないクラスメイトたちも、次第にその純粋さに惹かれていく。のびのびと学園生活を謳歌するシオンだが、時として予測のつかない行動のためか、それを危険視する製造メーカーサイドの圧力がかかりはじめる。そして、ストーリーは意外な方向へ導かれはじめる。

アンドロイドよりも先に現実的になりそうな人間とAIの関係性にいち早く目を付け、それをエンターテインメントなストーリーに昇華させた吉浦監督の先進性はさすがである。

『アイの歌声を聴かせて』©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

西欧のロボットの原点はフランケンシュタイン

日本のマンガ/アニメにしばしば登場する高性能・高知能のロボット(これからはAIもテーマになるであろうが)には、それらに好意的な日本の土壌が垣間見える。非常に肯定的に描かれているのは、鉄腕アトムからはじまるロボットマンガ/アニメの伝統があるからだろう。キリスト教圏におけるロボット=人が生命を創るという行為は、造物主である神をも恐れぬ不埒な仕業という考え方も根強くあるため、ロボットに対するイメージをより悪くしている。

実は、キリスト教圏で忌避されるロボットのイメージの原点にあるのは、あの人造人間フランケンシュタインなのである。それを引き継いでいるのが、1926年にドイツで製作されたフリッツ・ラング監督『メトロポリス』に登場するロボット(映画ではクローン的な人造人間となっている)であり、『ターミネーター』(1984年)なのである。

それに対し、「万物に霊が宿る」「神(仏)になれる」という日本人の宗教的土壌は、ロボットに対する愛着を生むことになった。ロボットに対する肯定的な評価は、そのような土壌から生まれた日本のマンガ/アニメが決定づけたとも言えよう。

作家性と商業性を持ち合わせた日本のアニメ監督がブレイクしたとき

日本の伝統となりつつある作家性(オリジナル性)と、商業性を持ち合わせた劇場アニメ監督の存在。彼らがブレイクを果たしたのは、いつだったのか。

1941年生まれの宮崎駿が初めて監督を務めたのが『未来少年コナン』(1978年)で37歳、初の劇場アニメ監督作品『カリオストロの城』(1979年)が翌年で38歳、『となりのトトロ』(1988年)で47歳、そして邦画興行収入トップを獲得した『魔女の宅急便』(1989年)の時には48歳。遅咲きとも言えるブレイクであった。

1960年生まれの庵野秀明はどうか。OVA『トップをねらえ!』(1988年)で監督デビューを果たしたのが28歳、初のテレビアニメ『ふしぎの海のナディア』(1990~1991年)で30歳、そして『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~1996年)で大ブレイクを果たしたのは35歳の時。

1967年生まれの細田守がデビューしたのが『デジモンアドベンチャー』(1999年)の32歳、独立して手がけた『時をかける少女』(2006年)が39歳、そして映画監督としてその名を印象づけた『サマーウォーズ』(2009年)は42歳。

1973年生まれの新海誠が会社を辞めて自主作品として作った短編『ほしのこえ』(2002年)は29歳、長編アニメ監督の『星を追う子ども』(2011年)が38歳、そして空前のヒットとなった『君の名は。』の時には43歳。

1980年生まれの吉浦康裕が『ペイル・コクーン』を作ったとき、まだ23歳という若さであった。『イヴの時間』の発表時は28歳、『サカサマのパテマ』の時でもまだ33歳、そして8年間のブランクはあったものの、『アイの歌声を聴かせて』は41歳となった吉浦康裕の勝負作である。スタジオ育ちではなく、インディーズ出身、デジタルスタジアムや東京国際アニメフェアで賞を獲得しプロとなった経緯も新海誠と似ている。果たして彼が日本のアニメ監督が持つ作家性と商業性を引き継げるか、その意味でも『アイの歌声を聴かせて』は間違いなく注目作品なのである。

『アイの歌声を聴かせて』©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

文:増田弘道

『アイの歌声を聴かせて』は2021年10月29日(金)より全国公開

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『アイの歌声を聴かせて』

景部高等学校に転入してきた謎の美少女、シオンは抜群の運動神経と天真爛漫な性格で学校の人気者になるが…実は試験中の【AI】だった。シオンはクラスでいつもひとりぼっちのサトミの前で突然歌い出し、思いもよらない方法でサトミの“幸せ”を叶えようとする。 彼女がAIであることを知ってしまったサトミと、幼馴染で機械マニアのトウマ、人気NO.1イケメンのゴッちゃん、気の強いアヤ、柔道部員のサンダーたちは、シオンに振り回されながらも、ひたむきな姿とその歌声に心動かされていく。 しかしシオンがサトミのためにとったある行動をきっかけに、大騒動に巻き込まれてしまう――。

制作年: 2021
監督:
声の出演: