ジブリの後継者はアイルランドにいた!『ウルフウォーカー』 アカデミー賞を巡ってピクサーと一騎打ち!?

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ライター:増田弘道
ジブリの後継者はアイルランドにいた!『ウルフウォーカー』 アカデミー賞を巡ってピクサーと一騎打ち!?
『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020

あの細田守監督も激賞する注目作!

第93回アカデミー賞長編アニメーション部門の最有力候補『ウルフウォーカー』が、2020年10月30日(金)から公開されることとなった。

『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020

実はこの映画、公開翌日のハロウィンとも大いに関係があるのだが、作品を制作したカートゥーン・サルーンは過去三作しか長編をつくっていない上に、日本では公開規模が小さかったためほとんど知られていない。

しかし、海外では知る人ぞ知る実力スタジオであり、ジブリ以外の日本人で唯一アカデミー賞にノミネートされた細田守監督も、『ウルフウォーカー』公開記念オンライントークで興奮気味に同作について語っている。

ハロウィンのルーツ“ケルト文化”を描く三部作の最終章!

『ウルフウォーカー』は、世界で最も美しい福音書である「ケルズの書」を描いた『ブレンダンとケルズの秘密』(2009年)、日本の人魚伝説にも繋がる『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014年)に続くケルト三部作にして最終章となる作品であり、ケルト文化特有のファンタジー性や冒険要素が最も高い作品となっている。

ウルフウォーカーは「オオカミと共に移動する人々」と呼ばれている。アイルランドの森を開拓しようとケルキニーにやって来たイングランド人にとって、オオカミは単なる害獣でしかないが、町の人々にとっては侵略者から土地を守る聖なる存在だ。だから、オオカミ退治のハンターである父とこの地を訪れたイングランド人の女の子ロビンにとってもオオカミは敵でしかなかったのだが、ある事件がもとでウルフウォーカーのメーブと知り合い、それがきっかけとなり、寝ているときに肉体から霊体が離れ大地を駆け抜けるという神秘体験をする。そして、ロビンもオオカミという存在を深く知ることとなるのだった。

足の裏で“地球”を感じる作品

キリスト教が中部ヨーロッパに伝わる以前、そこはケルト文化の世界であった。霊魂の不滅や輪廻転生、神と人間と妖精が交流する神秘的なケルト神話の世界観は日本の「縄文」文化にも通じる古代文化であり、その後の支配的になるキリスト教文化とは一線を引きながらも大きな影響を与えてきた。そんなケルト文化の名残りは先祖の霊が家族を訪ねてくるハロウィンや指輪物語、ハリー・ポッターなど魔法の世界に見られるが、『ウルフウォーカー』は人間と精霊、自然が一体となったケルトの世界を遺憾なく表現した、まさに「足の裏で地球を感じる」作品である。

アイルランドから世界へ旅だったカートゥーン・サルーン

カートゥーン・サルーンは1991年にトム・ムーア(本作監督)、ポール・ヤング、ノラ・トゥーミーの3人によって設立されたアイルランドのアニメーションスタジオ。ケルト文化が色濃く残るアイルランドを舞台としたファンタジー作品を創り続けているが、CGアニメーションが主流となりつつあるアニメーション映画界において、手描きを基調とするスタイリッシュな制作手法を特徴としており、三部作の集大成となった本作では、より緻密な描写、表現が見られるようになった。そして、そのカートゥーン・サルーンは『ウルフウォーカー』でアイルランドから旅立とうとしているのである。ちょうどスタジオジブリが『千と千尋の神隠し』(2001年)で世界デビューを果たしたように。

そしてカートゥーン・サルーンはジブリの後継者となった

2004年、ディズニーがそれまでの手描き(セル)アニメーションでの制作を止めたことで、世界のトレンドは完全にCGアニメーションに移行した。そうした状況下、日本のアニメスタジオが中心となって手描きの表現を守り抜いてきたが、その頂点であったジブリがその歴史的役割を終えようとしている。ところが、問題はジブリが持つ高い志を継ごうとするスタジオが見当たらないということだ。

高畑勲監督の言葉に代表されるように、例えファンタジーであろうがコメディであろうが、人物や空間に存在感を与え、かつ内面性と社会性を持ったアニメーションをつくろうという志は、言葉では簡単だが実現させるのは非常に難しい。だからこそ、それを完遂できたジブリがアニメーション表現の頂点に達することができたのである。

ところが、意外にもその後継者はアイルランドに現れたようだ。それが、世界最高峰のセルアニメーションスタジオを目指すカートゥーン・サルーンなのである。フロンティア精神の塊であったウォルト・ディズニーの志を受け継いだのは、世界初のCGアニメーションをつくったピクサーであり、東洋のディズニーを目指す意気込みでスタートした東映動画(東映アニメーション)の志はジブリに「転生」した。志は時間と場所を越えて受け継がれる。だからジブリのスピリットがアイルランドに「転生」してもおかしくはないのだ。

『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020

驚異のアカデミー賞ノミネート率100%!

『ウルフウォーカー』は現時点で一番アカデミー賞に近い作品である。コロナ禍にあって公開される作品も少ないという状況もあるが、何よりもカートゥーン・サルーンの実績がそれを予感させるのである。なぜなら、彼らが過去制作した3つの長編と1つの短編全てがアカデミー長編アニメーション賞候補となっているから。つまり、ノミネート率100%ということだ。かのディズニーでいえば、長編アニメーション賞の対象にノミネートされたのは18作品中12回(ノミネート率66.6%、受賞3回)、ピクサーが21作品中13作品(同61.9%、受賞10回)、ジブリが11作品中6回(同54.5%、受賞1回)となっているから、そのすごさが分かるだろう。

『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020

アカデミー賞はピクサーとの一騎打ち!?

公開本数が少なかった今年こそ、カートゥーン・サルーンの『ウルフウォーカー』がアカデミー賞を獲得する確率は非常に高くなったが、その前に立ちはだかるのはピクサーの『ソウルフルワールド』(2020年11月全米公開予定)である。

ところが、その後、ディズニーはコロナ禍の影響を考慮して、200億円をかけたと言われる超大作『ムーラン』(2020年)と同じく、『ソウルフルワールド』も配信での公開にシフトさせた。劇場公開が前提のアカデミー賞だが、去年からアニメーション部門は配信作品もOKとなっており、『ソウルフルワールド』がノミネートされても全く問題はない。そして、その対抗馬となる有力作品は『ウルフウォーカー』だけなのである。

『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020

昨年、いきなり2つもノミネートされたNetflixにもめぼしいアニメーション作品はない。アカデミー賞受賞率52.6%のピクサー『ソウルフルワールド』が最有力なのは間違いないが、最近ピクサー・ディズニー作品が常連となっており(両方合わせると受賞率なんと68.4%!)、選ぶ方も多少食傷気味である。ノミネート率100%であっても、まだ受賞未経験のカートゥーン・サルーンの『ウルフウォーカー』は、おそらく審査員にも新鮮に映るだろう。やはり来年のアカデミー賞はこの2つの映画の一騎打ちである。

文:増田弘道

『ウルフウォーカー』は2020年10月30日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか公開

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『ウルフウォーカー』

1650年、アイルランドの町キルケニー。イングランドからオオカミ退治の為にやってきたハンターを父に持つ少女ロビン。ある日、森で偶然友だちになったのは、人間とオオカミがひとつの体に共存し、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある“ウルフウォーカー”のメーヴだった。

メーヴは彼女の母がオオカミの姿で森を出ていったきり、戻らず心配でたまらないことをロビンにうちあける。母親のいない寂しさをよく知るロビンは、母親探しを手伝うことを約束する。翌日、森に行くことを禁じられ、父に連れていかれた調理場で、掃除の手伝いをしていたロビンは、メーヴの母らしきオオカミが檻に囚われていることを知る。

森は日々小さくなり、オオカミたちに残された時間はわずかだ。ロビンはなんとしてもメーヴの母を救い出し、オオカミ退治を止めなければならない。それはハンターである父ビルとの対立を意味していた。それでもロビンは自分の信じることをやり遂げようと決心する。そしてオオカミと人間との闘いが始まろうとしていた。

制作年: 2020
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