“文章を書く”ことで自分の心に向き合う『ユー・ガット・メール』と『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

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ライター:藤津亮太
“文章を書く”ことで自分の心に向き合う『ユー・ガット・メール』と『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
『ユー・ガット・メール』© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

誰かと言葉を交わすことで“もつれた糸の塊”を解きほぐす
【アッチ(実写)もコッチ(アニメ)も】

『ユー・ガット・メール』(1998年)はロマンチック・コメディの傑作だ。洗練された語り口、メグ・ライアンとトム・ハンクスの軽妙な演技。「これぞロマンチック・コメディ」といえる要素が散りばめられている。

『ユー・ガット・メール』
価格:Blu-ray ¥2,619(税込)/DVD特別版¥1,572(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ニューヨークの一角にある、母から受け継いだ小さな書店を経営するキャスリーン。そのすぐ側に進出してくることになった、大型書店チェーンの御曹司ジョー。二人はあるパーティーで顔を合わせて、当然ながら反目することになる。

『ユー・ガット・メール』© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

キャスリーンには「shopgirl」というハンドル名で、メールをやりとりしている相手がいた。相手のハンドルネームは「NY152」。実はこの「NY152」こそライバルのジョーだった。だが2人はそれを知らず、メールを通じて悩みを語り、相手を励ます。そして次第に相手が自分に欠かせない相手だと気づいていく。

『ユー・ガット・メール』© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

1998年の作品なので、映画はダイヤルアップ接続をする時のモデムの音(ピーヒョロヒョロというあの音だ)とともに始まる。またこの頃のAmazonは、3年前の1995年に通販を開始したばかりで、まだリアルの書店を脅かすような存在ではなかった。当時はまだ小規模の小売店と大型店チェーンの対立のほうがホットな社会問題だったのだ。本作はその対立を、スクリューボール・コメディに欠かせない“階級差”のバリエーションとして作中に取り込んでいる。

『ユー・ガット・メール』© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

そんな立場の異なる2人を繋ぐツールが“メール”である。気が強いキャスリーンと皮肉屋のジョーだが、そこでは立場を離れて素直に言葉を交わすことができる。

『ユー・ガット・メール』© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

文章を書くということは、自分の心に向き合うことだ。言葉にすることを通じて、自分の心の中にある“もつれた糸の塊”を解きほぐして、文章という一本の“糸”に戻していくのである。これは一種のセルフカウンセリングといえる。

手紙を書くこととカウンセリングが近いということは、劇場版も大ヒットを記録したアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を見てもよくわかる。

誰かを想ってメール(手紙)を書く行為が“心の中にあるもの”に形を与える

『ヴァイオレット・エヴァ-ガーデン』(2018年~)の舞台となるのは民間の郵便会社、C.H郵便社。同社では手紙の代筆サービスを行っているという設定で、タイトルロールであるヴァイオレットは「自動書記人形」と呼ばれる代筆を生業とする仕事についている。さまざまな人間が、大切な人に伝えたい思いを形にするために、ヴァイオレットのもとを訪れるのだ。

公式サイトより

自動書記人形は、相手の語った言葉をそのままタイプすることも多い。だが、相手がうまく言葉にできず、言いよどんだり困ったりしている時は「こういう言い回しはどうか」「こういうことがいいたいのではないだろうか」と、しばしば相手に問いかける。依頼人は自動書記人形を相手にすることで、自分がどんな思いを抱えていたかをはっきりと自覚することになる。だから手紙が出来上がるということは、依頼人の心の中の問題が片付くことでもある。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のおもしろいところは、この過程が実はヴァイオレット自身のカウンセリングにもなっているところだ。

ヴァイオレットは孤児に生まれ、隣国との戦争の中で兵士として生きてきた。しかも戦いの中で、自分に名前を与えてくれた上官・ギルベルト少佐が生死不明となり、彼女自身も両腕を失い、機械式の義手をつけることになった。

戦うことしか知らず、大切なものを失ったヴァイオレットだが、さまざまな人の想いを綴っていくことで、自分の中に欠けていた「人を愛する心」というものを学んでいく。人を癒やしながら、彼女もまた癒やされていくのである。

メール(手紙)は、相手を想って書くものだ。でもその時、私たちは自分の心の中を探って、そこにあるものに形を与えているのである。そして形にすることで、私たちは安らかになることができる。それが「怒り」にせよ「悲しみに」せよ「愛」にせよ。

文:藤津亮太

『ユー・ガット・メール』はAmazon Prime Videoほか配信中
劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は2020年9月18日(金)より公開中

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