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ディズニーに「気持ち悪いからダメ」と断られたクレイアニメ界の偉人を偲ぶ追悼上映「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」

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ライター:#中山治美
ディズニーに「気持ち悪いからダメ」と断られたクレイアニメ界の偉人を偲ぶ追悼上映「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」
『モンスター・ロード』

1970年代にミュージシャンのフランク・ザッパとのコラボレーションで知られ、2019年4月28日に72歳でこの世を去ったクレイ・アニメーション作家、ブルース・ビックフォードの追悼上映「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」が2020年2月1日(土)から、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開される。それに先駆けた1月28日、生前のビックフォードと対談経験のある映像作家・辻川幸一郎のトーク付き試写会が同劇場で開催された。

「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」

ディズニーに「気持ち悪いからダメ」と断られた偉人ビックフォード

ビックフォードの追悼上映は2019年の末に、ビックフォード作品をバックに菊池成孔や「水曜日のカンパネラ」のコムアイなど日本のミュージシャンがライブ演奏を行った2016年の記録映像「チャネリング・ウィズ・ミスター・ビッグフォード」を東京・池袋の新文芸坐で実施している。

追悼上映第2弾となる今回は、2つのプログラムを用意。プログラムAは、ビックフォードの初期作品や代表作の『プロメテウスの庭』(1988年)、さらにビックフォードのガレージに眠っていた未撮影の線画アニメーションの一部を、アニメーション研究・評論家の土居伸彰が日本に持ち帰り4Kスキャンした『アッティラ』(2016年)などを上映する傑作選。

『プロメテウスの庭』

『アッティラ』

プログラムBは、「ブルース・ビックフォードと宇宙」と題し、鬼才と称されるビックフォードの創作活動の源流を探る長編ドキュメンタリー映画『モンスター・ロード』(2004年)を上映する。上映後、辻川は開口一番に「『モンスター・ロード』を日本語字幕付きで見たのは今回が初めてなのですが、非常に衝撃を受けています」と漏らした。

映像作家・辻川幸一郎

ビックフォードは独学でクレイ・アニメーション制作をはじめ、ザッパとのコラボレーション後はシアトル郊外にある自宅ガレージで孤独に、貪欲に創作を行っていた。人やモンスターといった様々なキャラクターが悲惨な目にあってはメタモルフォーゼしていくという、奇妙で残酷だが、実に緻密で独創的な映像世界を構築した唯一無二の存在だ。一方で個性的過ぎて、ディズニーに売り込むも「気持ち悪いからダメ」と断られたという逸話を持つ。

クレイアニメ界の隠れた偉人に迫った貴重映像が満載『モンスター・ロード』

『モンスター・ロード』は、そんな彼の拠点にカメラが入った貴重な映像記録で、自身の生い立ちから作品解説、さらにはアルツハイマーを患っていた父ジョージも登場する。そこから見えてきたのは父親との根深き確執であり、兄弟たちの不幸な最期といった、彼の人生に常につきまとっていた暗い影だ。

『モンスター・ロード』

辻川は「とても過酷な人生。こんなにも家族の死に見舞われる人生は想像がつかない。ブルース・ビックフォードの作品の主要なモチーフに地獄絵図のように繰り広げられる様々な“死”があるのですが、実際の彼の人生も兄弟や母の死にとりつかれている。特に自身のサディズムと亡くなった弟の逸話は壮絶。しかしそういった事を、実に静かに淡々と客観的に語るんですね。まるで本来の感情の全てを、あの尋常じゃない数の人形たちと、ありえない作業量のクレイアニメやラインアニメに移し換えてしまったかのようだと思いました。」と感想を語った。

『モンスター・ロード』

司会も務めた土居も「この作品を見れば、ビックフォードの作品はある種(彼自身の)ドキュメンタリー性があることに気付いてもらえると思います。ドキュメンタリーの中には、父親が核戦争を恐れて作っていたというシェルターや、第二次世界大戦中に日本からの攻撃を恐れて外観を偽装していたという父親が勤務していたボーイング社のエピソードが出てきますが、ビックフォードが作ってきた美術セットも、実は彼の周りに当たり前のようにあった光景であることが分かってきた」と語り、ビックフォード作品をより深く理解できるヒントが散りばめられていることを示唆した。

司会も務めたアニメーション研究・評論家の土居伸彰(左)、辻川幸一郎(右)

クエンティン・タランティーノ監督にグラフィック・ノベルを持ち込む構想も!?

そんな鬼才の死は、自宅そばで犬に襲われたことがきっかけだったという。2015年に世界四大アニメーション映画祭の一つであるオタワ国際アニメーション映画祭(カナダ)で特集上映が組まれ、同年12月には高松メディアアート祭参加のために初来日を果たすなど、再評価されつつある矢先での急逝だった。土居によると、長編アニメーションの制作や、グラフィック・ノベルをクエンティン・タランティーノ監督に持ち込む構想も語っていたそうだ。

ブルース・ビックフォード監督

辻川が「彼のアニメーションの画面では同時多発的にいろんなことが起こって、ストーリーも着地点がはっきりしない。そこが彼の作品に一番惹かれる点。頭の中に湧き続けるイメージをテレパシーか何かでそのまま受け取るような感覚になる。僕は変化し続ける状態を表現できるところにアニメーションの原理的な魅力を感じるのですが、それを最も純粋な形で体現しているのががビックフォードだと思う。映画では彼が職探しの電話をするシーンがありましたが、アウトサイダー・アートとしても規格外の彼の仕事を例えば美術関係者などが救い上げようとしてこなかったのが不思議」と疑問を呈せば、土居も「いろんな文脈から溢れてしまう、捕まえきれない得体の知れなさがあったのでは」と分析した。

父親も亡くなり、天涯孤独だったビックフォードの膨大なアート作品は、晩年の彼をサポートしていた人たちが遺産管財人となって管理しており、映画芸術アカデミーに寄贈された作品もあるという。知られざるビックフォードの世界が解明されるのは、まだまだこれからのようだ。

ブルース・ビックフォード監督

文:中山治美

「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」は2020年2月1日(土)よりシアター・イメージフォーラム、2月14日(金)より出町座ほか全国公開

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「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」

■プログラムA
<ブルース・ビックフォード傑作選>
ブルース・ビックフォードがその生涯に残した数々のアニメーションを、初期のダイナミックかつグロテスクな習作から、『プロメテウスの庭』『このマンガはお前の脳をダメにする』などの代表作、そして晩年にビックフォードのガレージから発掘された『アッティラ』まで、クレイ・線画をあわせて一挙に紹介。

■プログラムB
<ブルース・ビックフォードと宇宙>
「伝説の人」となっていたブルース・ビックフォードが再度注目を浴びることになった傑作ドキュメンタリー『モンスター・ロード』を上映。シアトル郊外で孤独に創作へと励むビックフォードの壮絶な人生、奇妙な食生活と芸術哲学、そして255歳まで生きる夢……カメラは、ビックフォードの創作の現場に密着する傍ら、アルツハイマー病を患った父ジョージが数々の不思議について語る――人の心、天国、宇宙はどうしてできたのだろうか? 本作で明かされる一家の物語は、ビックフォード作品が戦後アメリカが見た悪夢を咀嚼したものであること、そしてそれを超えて、宇宙の流転する真理と不可解な人間存在の闇について語るものであることを雄弁に語る。