『レズビアン・スペース・プリンセス』監督インタビュー
オーストラリア発のクィアなSFアドベンチャー『レズビアン・スペース・プリンセス』が、ついに10月2日(金)より日本公開を迎える。ベルリンやアヌシーなど世界中の映画賞を席巻し、その曲解しようがないストレートなタイトルでかねてから話題を呼んでいたアニメーション映画だ。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
カートゥーン的にデフォルメされたキャラクターデザインで邪な興味の介入を拒みつつ、ちょっとしたセリフから無意識の先入観にも気付かされる本作。オーストラリア作品ということで、いわゆる欧米のお約束から絶妙に逸脱しているところも大きな魅力だ。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
監督・脚本を務めるのは、クィアな物語と文化的多様性をユーモラスに描いてきたリーラ・ヴァーギースと、プロダクションデザイナー/アニメーターのエマ・ハフ・ホブス。今回は『トーク・トゥ・ミー』などA24のヒット作にも参加経験を持つエマが、笑いを交えつつ丁寧に質問に答えてくれた。
『レズビアン・スペース・プリンセス』エマ・ハフ・ホブス
「私たちは、とことん笑えるコメディを作りたかったんです」
――『レズビアン・スペース・プリンセス』が原題のまま日本公開されることを嬉しく思っています。本作の大きな魅力は、「クィア視点のアニメ」という先入観の有無にかかわらず、ポップなアニメ作品として純粋に楽しめるところだと思います。異性愛規範が存在しない、クィアであることを前提としたアニメは2026年現在でも新鮮です。メンタルヘルスの問題にも向き合い、そのうえで陽気なバイブスが徹底されているところに感銘を受けましたが、そうしたポジティブな方向性は制作のどの時点から意識されていましたか?
ありがとうございます! 最初から、楽しく、笑えて、喜びに満ちた作品にしたいと思っていました。クィアであることにまつわる苦悩や葛藤など、深刻な側面を扱うことが多いと思います。それも重要なことです。でも、私たち自身の経験では、クィアであることは素晴らしく、喜びに満ちています。LGBTQIA+の経験のそうした側面、つまり「クィア・ジョイ」を映し出す作品も、成長期の若者たちにとって同じくらい意味のあるものになり得ます。すべてが暗く悲観的なことばかりではなく、私たちだって笑い、楽しんでいるのだと知ってもらえるからです。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
――プリンセスでありながら“求められる使命”を果たせないサイラの苦悩など、物語自体はややヘビーなテーマを扱いながらも、ちょっとしたセリフの中に(ストレートな下ネタを含む)ジョークが盛り込まれ、背景にも細かい言葉遊びが詰まっています。ほかにも、失恋をすぐに歌詞にしてしまうテイラー・スウィフトのようなウィローのオリジナルソングなどなど、観客の笑いが追いつかないほどのジョークの連続というアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
もちろん、この映画には、しっかりとした感情の核がありますが、結局のところ、私たちはとことん笑えるコメディを作りたかったんです。(共同監督の)リーラはスタンダップ・コメディアンですし、私たちは二人ともテンポよくジョークが飛び交うコメディ番組が大好きなので、1分あたりのジョーク数はとても重要でした。
映画には、さまざまなタイプのユーモアも盛り込まれています。編集のベン(・フェルナンデス)にとっても、ひとつのジョークをいつまでも引っ張らないことが大切でした。あるジョークが好みでなくても、そのときにはもう次のジョークに移っています(笑)。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
「『少女革命ウテナ』を見終えたその日に、脚本の最初の1ページを書き始めました」
――日本社会もミソジニーが根深く、差別的な言葉にあふれたSNSなどは地獄のようです。本作に登場する「ストレート・ホワイト・メイリエンズ」はインセル男性を赤面させるような存在ですし、サイラが乗る「訳アリの宇宙船」もオールドスクールなミソジニー発言を連発します。しかし本作では、そんな彼らが感情豊かなギャグ要員として機能していて、致命的な対立として煽ることもしていません。彼らの言動の多くをバカバカしい笑いに変換しているところが爽やかですが、実際にそういった狙いはありましたか?
そうですね。この映画のメッセージの一部は、私たちがそれぞれ自分のバブルの中に閉じこもっていることに関係していると思います。私たちのような左派のベジタリアン・レズビアンも、マノスフィア(※反フェミニズム/男性至上主義的なオンラインコミュニティ)にいるインセルも同じです。ただ、その安全なバブルを出て、まったく異なる考え方を持つ人々と関わらなければならなくなると、少し居心地の悪い思いをすることもあります。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
「訳アリの宇宙船」の場合、以前の操縦者たちから有害な情報をAIに与えられ続ける悪循環にはまり込んでいましたが、サイラと出会います。映画を通じた二人のやりとりの中で、宇宙船はサイラの影響によって少しずつ態度を和らげ、大きく成長していきます。互いに関わろうとしなければ、私たちの分断は深まっていくだけです。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
――『リック・アンド・モーティ』や『アドベンチャー・タイム』、『フューチュラマ』、『スティーブン・ユニバース』、そして『Codependent Lesbian Space Alien Seeks Same』(原題/2011年)については過去に質問されたかもしれませんが、日本の“魔法少女”アニメの世界観を感じるシーンもありました。実際に影響を受けたアニメや映画、もしくはオールタイムベスト的な作品はありますか?
もちろんです。実は私とリーラは、『少女革命ウテナ』を見終えたその日に、『レズビアン・スペース・プリンセス』の脚本の最初の1ページを書き始めました。私はたくさんのアニメを観て育ち、今も観ています。昨年のお気に入りは『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』でした。
私たちの映画作りへのアプローチは、アニメやカートゥーン、そしてリーラの得意分野であるロマンティック・コメディから大きな影響を受けています。『インベーダー・ジム』も、私たちにとって非常に大きなインスピレーションでした。
おそらく『新世紀エヴァンゲリオン』は、映画、アニメ、テレビ番組など、私がこれまで観てきたあらゆるものの中で一番好きな作品です。緒方恵美さんが演じるシンジは、成長することに苦しんでいる人なら誰にとっても、ものすごく共感できる存在です。あのようなキャラクターは賛否を呼ぶこともありますし、サイラも、泣き虫だということで同じように批判されることがあります。でも、彼らの力強さは、もがき、泣きながらも、それでも前へ進み続けるところにあります。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
「この映画を日本の観客の皆さんに届けられることが、とにかく本当にうれしい」
――作品全体が非常にシンプルな絵柄で構成されていながら、その絵柄で表現できるであろう限界を超えて物語やメッセージが膨張していき、最後には感動すら覚えます。それでいて、サイラが感情的になるシーンなどでもサバサバとした描写を徹底し、共感と笑いを誘います。そういったバランス感覚は、かなり意識されましたか?
才能豊かなアニメーターたちと仕事ができたのは、本当に幸運でした。アニメーターはアリス(・ラム)とシャイアン(・マヘル)の二人です。シャイアンは、より感情的なシーンを描くこと、そしてシンプルなキャラクターデザインから豊かな表情を引き出すことに、とりわけ優れていました。一方、アリス自身がとても愉快で歯切れのいい人なので、キャラクターたちの身体的な動きや表現を見事に仕上げてくれました。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
――本作はタイトルだけで強烈に興味を引かれますが、日本では「レズビアン」と冠した作品名のまま公開されることすら珍しく、そういった意味でも観客の期待値がかなり高まっています。良くも悪くもアニメがあらゆるところに浸透している日本という国で劇場公開されることについて、どんな期待や不安がありますか?
この映画を日本の観客の皆さんに届けられることが、とにかく本当にうれしいです。この5年ほどの間だけでも、アニメにおけるレズビアン表象は大きく変わったと感じます。以前よりずっと一般的になり、よりリアルに感じられるようにもなりました。ですから、日本で公開され、しかもタイトルをそのまま残せるのは本当に素晴らしいことです。たくさんの駄洒落や言葉遊びを訳さなければならない翻訳者の皆さんには、申し訳なく思っています(笑)。
『レズビアン・スペース・プリンセス』
『レズビアン・スペース・プリンセス』は10月2日(金)より全国公開
『レズビアン・スペース・プリンセス』
惑星クリトポリス――そこはレズビアンが治める星。
数千年にわたり、伝説の武器〈ラブリュス〉を呼び出す力を持つ“クリトピアン”の一族が統治してきた。しかし、内気なプリンセス・サイラだけは、どうしてもその力を使うことができない。
23歳の誕生日。賞金稼ぎのガールフレンド・キキから、「愛が重すぎる」と突然フラれてしまう。必死に説得を試みるも、キキは新たな冒険の旅へ出てしまう。
ショックのあまり部屋に閉じこもり、泣きじゃくるサイラ。ある日突然、かつて宇宙最強を誇った“ストレート・ホワイト・メイリエンズ”から脅迫の電話が。
キキを救いたければ、宇宙一危険な惑星まで〈ラブリュス〉を持って来い――。
元カノを救うため、残された時間は24時間。
サイラはネット掲示板の怪しげな情報を頼りに、自分の内に眠る〈ラブリュス〉を解放するため、パリピの惑星 “Sクラブ17”を目指すことに。
壊れかけの宇宙船、そして道中で出会ったミュージシャン志望のウィローとともに、
いざ、銀河を巡る大冒険へ――!
監督・脚本: リーラ・ヴァーギース エマ・ハフ・ホブス
プロデューサー:トム・フィリップス
声の出演:シャバナ・アゼース バーニー・バン・ティエル ジェマ・チュア=トラン アンティ・ドナ リチャード・ロクスバーグ ジョーダン・ラスコポロス マデリーン・サミ クウィーン・コング
| 制作年: | 2025 |
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2026年10月2日(金)より全国公開