トム・クルーズが怪演、世界中で物議を醸す『DIGGER/ディガー』 鬼才イニャリトゥ監督の見るべき映画3選
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トム・クルーズ主演、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の新作『DIGGER/ディガー』が、現在劇場公開中だ。トム・クルーズが演じるのは、石油採掘会社のCEO、大金持ちで傲慢な権力者・ディガー。彼の利益にしか目がない欲深い行動がきっかけで、地球滅亡の大ピンチに。ディガーは大統領からその尻ぬぐいを命じられ、世界を救うべく立ち上がる。リズ・アーメッド、ジョン・グッドマン、ザンドラ・ヒュラー、ジェシー・プレモンスらが共演し、全編をビスタビジョンで撮影したイニャリトゥのオリジナル作品だ。
撮影には、『バードマン』『レヴェナント』のエマニュエル・ルベツキが参加。『バードマン』の共同脚本家アレクサンダー・ディネラリスとニコラス・ヒアコボーネも脚本に名を連ねる。
その新作に合わせて押さえておきたいのが、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント:蘇えりし者』『21グラム』の3作品だ。舞台裏の狂騒、極寒の荒野での生存、事故で結びつく人生。それぞれ異なる世界を描きながら、追い詰められた人間の姿を間近で捉えている。
『DIGGER/ディガー』© 2026 WBEI and Legendary
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)。かつてスーパーヒーロー映画で人気を集めた俳優リーガン・トムソンが、ブロードウェイの舞台で再起を図る物語だ。主演は、『バットマン』で一世を風靡したマイケル・キートン。役柄と本人の経歴が重なることで、「かつての成功から抜け出し、俳優として認められたい」というリーガンの焦りが、ひときわ生々しく迫ってくる。
見どころは、全編がワンカットショットに見える映像だ。ルベツキのカメラは、劇場の狭い廊下や階段、楽屋、街路を縫うように移動し、俳優たちの衝突を追いかける。アントニオ・サンチェスのドラムがその動きに拍車をかけ、舞台初日へ向かう切迫感を生む。技術の大胆さが、主人公の落ち着かない心と直結している。
過去の栄光にすがる気持ちと、それを否定したい気持ち。芸術への情熱と、人から認められたい欲望。リーガンの中では、それらが入り混じっている。映画界や演劇界への皮肉を笑いに変えながら、マイケル・キートンは、その裏側にある傷つきやすさもさらけ出す。本作は第87回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞の4部門を受賞した。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『バードマン』の息苦しい舞台裏から一転、広大な自然の中に観客を放り込むのが、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015)だ。レオナルド・ディカプリオ演じる毛皮ハンターのヒュー・グラスは、熊に襲われて重傷を負い、仲間に置き去りにされる。それでも生き延び、自分を裏切った男を追う。実在の人物に着想を得た物語を、イニャリトゥは容赦のないサバイバル映画として描いた。
ここで圧倒されるのは、ディカプリオの身体を通して伝わる生への執念だ。傷つき、凍え、思うように動かない身体で、それでも前へ進もうとする。台詞で心情を説明する場面が限られるからこそ、呼吸や視線、わずかな動きがものをいう。肉体の苦痛を見せるだけでなく、身体が壊れても意志は折れないと信じさせる演技が、物語を支えている。
『バードマン』に続いて撮影を担ったルベツキは、自然の光や色を生かし、荒野の美しさと恐ろしさを同じ画面に収める。風景に目を奪われた直後、その場所が人間の命を奪う環境でもあることを思い知らされる。復讐へ向かう物語と、自然の中で生き延びる過程が重なり、観客にも消耗を感じさせる。本作でディカプリオはアカデミー賞主演男優賞を初受賞。イニャリトゥの監督賞、ルベツキの撮影賞と合わせて3部門を獲得した。
『レヴェナント:蘇えりし者』© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
そして、イニャリトゥが人間の喪失や罪悪感をどう描いてきたかを知るなら、『21グラム』(2003)は外せない。心臓移植を待つポール、家族と暮らすクリスティーナ、信仰を支えに人生を立て直そうとするジャック。ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロが演じる3人の人生は、ある交通事故をきっかけに結びついていく。
物語は時系列に沿って進まず、事故の前後にある出来事が断片的に差し出される。初めはつながりの見えない場面も、後から別の場面と結びつき、その表情や行動の意味が変わっていく。出来事の順序を追うのと同時に、登場人物が抱えている痛みを少しずつ知る構成だ。
その複雑な構成を支えるのが、3人の演技である。ショーン・ペンは死の近さと生きたいという欲望を、ナオミ・ワッツは家族を失った悲しみと怒りを、デル・トロは取り返しのつかない行為を背負う苦しみを体現する。特にナオミ・ワッツの演技は、喪失によって生活も感情も崩れていく姿をむき出しにする。愛、復讐、罪の意識が切り離せなくなった人間関係を、俳優たちの切実な表情から追える作品だ。
『21グラム』©MMIII FOCUS FEATURES,L .L .C. ALL RIGHTS RESERVED.