ドキュメンタリー『Black Zombie』の衝撃
ジャンル映画やドラマにおいて、いまや欠かせない存在となった「ゾンビ」。しかし、近年の小説や漫画、ゲームにおいてゾンビは、ただ肉を貪り食うだけの意思なきモンスターや主人公にサクッと倒されるモブ敵など、大雑把かつ都合よく描かれがちだ。
そこに登場したのが、マヤ・アニック・ベドワード監督によるドキュメンタリー映画『Black Zombie(原題)』。本作は、そういった娯楽消費の裏に隠されたゾンビの真の起源と、不都合な歴史を掘り起こす作品として海外の映画メディアやホラー専門誌で大きな話題を呼んでいる。
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奴隷制とブラック・スピリチュアルの歪曲
本作が告発するのは、ゾンビという存在が元来モンスターではなく、「植民地支配と奴隷制によって主体性を奪われた人間の象徴(=究極の被害者)」であったという事実だ。
ゾンビのルーツは植民地時代のハイチや、アフリカ系の人々に受け継がれてきた精神伝統(ヴォドゥンなど ※ブードゥー教の正確な呼称)にある。過酷な強制労働のなかで「魂を奪われ、死後も働かされ続ける恐怖」や抵抗の象徴だったわけだが、その存在はハリウッド映画等によって「恐怖すべき人喰い鬼」へと書き換えられ、もともとの精神文化や信仰は歪曲・抹消されていった。
映画史の名作を人類学的に再検証
作中では、史上初の長編ゾンビ映画とされる『恐怖城』(原題『White Zombie』:1932年)から、モダン・ゾンビの概念を決定づけたジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)、ハイチのドキュメンタリー的アプローチを試みたウェス・クレイヴン監督の『ゾンビ伝説』(1988年)に至るまで、象徴的なホラー映画の進化と変質を辿っていく。
ゾンビはいかにしてハイチからハリウッドへと“輸出”されたのか。この歴史的な変遷をここまで集中的かつ包括的に掘り下げたドキュメンタリー作品はきわめて珍しく、ゾンビ好きでなくとも映画史や文化史を振り返るうえで極めて重要な視点といえるだろう。
トム・サヴィーニも登場! 豪華な出演陣と表現手法
アーカイヴ映像やヴェリテ(密着・リアリティ)描写に加え、ホラーの映像表現を再解釈する「ホラー・リミックス」の手法を採用している本作。インタビューには、文化史家で聖職者のイヴ=グレゴリー・フランソワや、ルイジアナ州南部生まれの脚本家・監督ザンダシェ・ブラウン、ヴォドゥン女性神官(マンボ)のラベル・デエスのほか、大のホラーファンとして知られるスラッシュ(ガンズ・アンド・ローゼズほか)や、特殊メイクの巨匠トム・サヴィーニなど、多彩なジャンル・レジェンドも登場する。
奴隷制、信仰、抵抗という切実な歴史から生まれた不可視の痛みが、いかにしてポップカルチャーで“最も稼げる”モンスターへと変貌させられたのか。『Black Zombie』は、単なる映画史の検証にとどまらず、現代のカルチャー消費に対する鋭い問いを投げかける必見のドキュメンタリーだ(※日本公開・配信未定)。