お盆が過ぎ、夕暮れの風にほんの少しだけ秋の匂いが混じり始める8月下旬。楽しかった夏休みや休暇の終わりを感じて、理由もなく心がキュッと切なくなることはありませんか?
今回は、観るだけで「あの頃の夏」の空気や匂い、二度と戻らない眩しい記憶を呼び覚ます「サマー・ノスタルジー邦画」5作品を厳選しました。
さらに今回は特別枠として、日本人の郷愁を強烈に誘う台湾映画の名作も「+1」として紹介します。過ぎゆく夏を惜しみながら、スクリーンの向こうにある愛おしい夏の思い出に浸ってみませんか。
遠くて近い、あの夏
ひぐらしの声と井上陽水の歌声。昭和の夏と少年たちの複雑な絆
『少年時代』(1990年)
監督:篠田正浩
出演:藤田哲也、堀岡裕二、山崎勝久 ほか
【あらすじ】
太平洋戦争末期の昭和19年。東京から富山の田舎町へ疎開してきた小学5年生の進二。都会育ちで気弱な進二は周囲から「よそ者」扱いを受けますが、地元のガキ大将・武(たけし)だけは彼に近づいてきます。二人きりの時は心を通わせるものの、学校では仲間たちの前で威厳を保つために進二へ冷たく当たる武。時代に翻弄されながら、二人の少年は不器用で繊細な友情と葛藤を深めていきますが……。
【おすすめポイント】
日本の夏のノスタルジーを代表する金字塔。井上陽水さんが本作のために書き下ろした名曲「少年時代」が流れるなか、澄み切った青空や田園風景、そして少年期特有の複雑な人間関係が鮮烈に描かれます。子供時代の「残酷さと優しさ」が入り交じる情景は、世代を超えて胸の奥深くを締め付けます。
おじいさんと小学生3人組。あの夏、僕たちは死と生を知った
『夏の庭 The Friends』(1994年)
監督:相米慎二
出演:三國連太郎、坂田直樹、王泰貴 ほか
【あらすじ】
サッカー仲間の小学6年生3人組は、「人が死んだらどうなるのか」という好奇心から、近所に住む一人暮らしの変わり者の老人を観察し始めます。「もうすぐ死ぬかもしれない」と踏んで張り込みを続ける子供たちに勘づいた老人は最初のうちは邪険に追い払いますが、いつしか庭の手入れや家事を手伝わせるように。次第に互いの心は打ち解け、少年たちと老人との間に、世代を超えたかけがえのない絆が芽生えていきますが……。
【おすすめポイント】
相米慎二監督が描く、少年たちのひと夏の成長劇。名優・三國連太郎さん演じる頑固でお茶目なおじいさんと、生意気盛りの子供たちのやり取りがとにかく愛おしいです。荒れ果てた庭が手入れされて美しい緑を取り戻していく過程と重なるように、生命の輝きと死の匂いを体感していく夏休み。観終わった後、爽やかな温もりが心に残ります。
母を探す少年と、破天荒な中年男。久石譲のメロディが彩る旅路
『菊次郎の夏』(1999年)
監督:北野武
出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子 ほか
【あらすじ】
祖母と暮らす小学3年生の正男は、夏休み、写真でしか見たことのない母親に会いに行くことを決意します。それを見かねた近所のおばさんは、働かずにブラブラしている夫・菊次郎を付き添いとして同行させることに。しかし、嫌々同行したり競輪で旅費をスッたりと、菊次郎の行いに右往左往。破天荒な大人と大人しい少年の、奇妙で愛おしいふたり旅が始まり……。
【おすすめポイント】
北野武監督が暴力描写を封印し、圧倒的な抒情性で描き上げたロードムービーの傑作。久石譲さんの名曲「Summer」の旋律に乗せて広がる、ひまわり畑、バス停での雨宿り、ヘンテコな大人たちとの夏の遊び……。「誰もが記憶の中に持っている日本の夏の原風景」が凝縮されており、クスッと笑えて最後にホロリと泣かされる至高の一作です。
大人になるのが怖かった。苦くて甘酸っぱい、高校最後の夏休み
『大人ドロップ』(2013年)
監督:飯塚健
出演:池松壮亮、橋本愛、小林涼子 ほか
【あらすじ】
高校3年生の夏。周囲が少しずつ大人びていく中で、ひとり取り残されるような焦りを抱える浅井由(ゆう)。ある日、想いを寄せるクラスメイトの入江杏との仲を取り持つよう親友から頼まれた浅井は、女友達の助けを借りてWデートをセッティングします。しかし小細工がバレて入江を怒らせてしまい、仲直りもできないまま夏休みに突入。すると彼女が、誰にも行き先を告げずに引っ越してしまったことを知り……。
【おすすめポイント】
モヤモヤとした葛藤や、言葉にできない恋心を描いた甘酸っぱくもほろ苦い青春ドラマ。池松壮亮さんと橋本愛さんが魅せる、10代終わりの壊れそうで透明感のある存在感が圧倒的です。子供と大人の境界線で揺れ動く「あの頃の特別な夏の匂い」を思い出させてくれる名作青春映画です。
大好きなバンドに会いたい! 自転車で爆走する女子高生たちの衝動
『私たちのハァハァ』(2015年)
監督:松居大悟
出演:井上苑子、大関れいか、真山朔 ほか
【あらすじ】
福岡県北九州の片田舎に住む、ロックバンド「クリープハイプ」が大好きな仲良し女子高生4人組。ある日、福岡のライブ後の出待ちで「東京のライブにもおいでよ」とメンバーに言われた言葉を真に受けた彼女たち。勢いそのままに高校最後の夏休みを使って、東京まで1000kmの道のりをママチャリで走破するという無謀な旅に出発しますが……。
【おすすめポイント】
圧倒的な熱量と疾走感で描かれる、女子高生たちの「二度と戻らない一瞬」の輝き。スマホでの自撮り映像などを交えたリアルな映像の中に、汗、喧嘩、衝動、そして痛々しいほどの青春が弾けています。若さゆえの暴走と、旅の途中で気づかされる現実。大人になった今観ると、まぶしすぎて胸がキュッと締め付けられるリアルな夏休み映画です。
<+1>国境を越えて脳裏に蘇る、どこか懐かしい究極の夏休み
『冬冬の夏休み』(1984年)
監督:ホウ・シャオシェン
出演:ワン・チークアン、リー・シュジェン、グー・ジュン ほか
【あらすじ】
台北の小学校を卒業した少年トントンは、母親の入院に伴い、妹のティンティンと一緒に夏休みを田舎の祖父の家で過ごすことになります。風光明媚な銅鑼(トンロー)の街で、地元の子供たちと川で泳ぎ、カブトムシを捕まえ、木の上で秘密基地を作る豊かな日々。しかし、大人たちの複雑な事情や事件、淡い恋の気配などを間近で観察するうちに、トントンの心には少しずつ変化が訪れていき……。
【おすすめポイント】
台湾ニューウェーブの巨匠ホウ・シャオシェン監督が描く、映画史に残る珠玉のノスタルジー作。台湾の田舎町が舞台でありながら、冷たいスイカ、川遊び、木漏れ日、おじいちゃんの古い家など、なぜか「自分たちの幼少期の夏休み」そのものを見ているかのような不思議な感覚に包まれます。美しい映像とノスタルジックな風景に、鼻の奥がツーンと熱くなる至高のアジアン・クラシックです。
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少年時代の探検、夕暮れに聴いた音楽、甘酸っぱい初恋、そして二度と帰らないあの日の夏空――。
映画の中の夏休みは、いつだって色褪せることなく、私たちの胸の中で輝き続けています。今年の夏が終わりを迎える前に、ぜひこれらの作品で、あなた自身の「大切な夏の記憶」に会いに行ってみてください。