「大統領でも逮捕される国」「過去には拉致監禁も?」社会派“実録”映画で学ぶ激動の近代史
韓国で今、なにが?
第20代大統領・尹錫悦(ユン・ソンニョル)のクーデター未遂に伴い韓国が大変な騒ぎになっている。その暴走行為は阻止されたが、あまりにも怒涛の展開に理解が追いつかなった日本人は少なくないだろう。その戒厳令騒動については各種報道を参照いただくとして、ここでは韓国の社会派映画について振り返っておきたい。
『キングメーカー 大統領を作った男』© 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & SEE AT FILM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
1987年に民主化を果たした韓国だが、長らく軍事政権による独裁が敷かれていたことはご存知だろう。そして世界史の授業中に欠伸をしていた私たちに今、韓国近代史を教えてくれているのは他ならぬ韓国発の実録社会派映画である。
韓流ブームの始まった2000年代から日本公開数はぐんと増えた。社会派映画は主に日本統治時代~軍事独裁政権時代を舞台にし、またホラーからロマンスドラマまで朝鮮王朝時代を舞台にした作品も多数ある。
2024年には、第11~12代大統領・全斗煥(チョン・ドファン/在任:1980~1988年)によるクーデターの舞台裏を描いた『ソウルの春』が大ヒット。ファン・ジョンミン演じる憎らしくもヴィラン的な魅力の炸裂したドファン像は大きな話題を呼んだが、その前後史を描いた過去の映画作品のおかげで、私たち観客の時代・人物相関への理解度が強化されていたことも国外ヒットの大きな理由の一つだろう。
映画で学ぶ激動の韓国史
ある日いきなり朴正煕(パク・チョンヒ:第5~9代/1963~1979年)のお抱えの床屋になってしまった男をソン・ガンホが好演した『大統領の理髪師』(2004年)。この作品と時代的に繋がるのが、朴正煕暗殺の舞台裏を描いた『KCIA 南山の部長たち』(2021年)で、疑心暗鬼に陥った大統領を裏切る情報機関の幹部をイ・ビョンホンが熱演した。
そして、民主化運動を武力弾圧した「光州事件」(1980年)を多くの日本人が知るきっかけとなったのが『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2017年)と『1987、ある闘いの真実』(2018年)だろう。前者は再びソン・ガンホ主演で、さらに彼は『弁護人』(2013年)でも後の大統領(盧武鉉/第16代)をモデルにした主人公を演じている。
『1987~』の時代背景は、前述の通り初の民主的直接選挙によって盧泰愚(第13代)が大統領となる直前。政治サスペンスだけでなく70~80年代が舞台であれば青春映画や恋愛映画でも必然的に軍事政権時代の描写が発生するため、史実のスルーは不可避だ。つまり背景として度々登場する歴史的事件を軸に、あらゆる作品が『ソウルの春』の前後につながるという、まさに“韓国社会派映画ユニバース”な様相(?)なのである。