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古典テルグ語映画は「声」が命? NTR Jr.主演のラージャマウリ監督作『ヤマドンガ』から“パディヤム”を学ぶ

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ライター:#安宅直子
古典テルグ語映画は「声」が命? NTR Jr.主演のラージャマウリ監督作『ヤマドンガ』から“パディヤム”を学ぶ
『ヤマドンガ』
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NTR Jr.の祖父はテルグ語映画史のスーパースター第1世代

本作は現代の都市ハイダラーバード、つまり人間界での主人公の活劇と、冥界での大立ち回りから構成されます。前者ではNTR Jr.の切れ味のいいアクションとスタイリッシュな超絶技巧ダンスが詰め込まれ、後者では冥界で選挙を行うという馬鹿馬鹿しいコメディが、過ぎ去ったテルグ語神話映画の黄金時代(1950〜60年代)へのノスタルジーと共に繰り広げられます。

『ヤマドンガ』

この1950〜60年代は、NTR Jr.の祖父である名優NTRシニア(1923–1996)をはじめとしたテルグ語映画史のスーパースター第1世代が活躍した時期です。ちなみにラーム・チャランの父チランジーヴィ(1955–)は1978年デビューで、スターとしては第3世代になります。

第1世代スターたちが活躍したのは、映画に先行して大衆娯楽の王座にあった巡回演劇(カンパニー・ドラマ)の影響を色濃く残していた時代です。俳優自身が舞台出身のケースも珍しくなく、また盛んに作られたヒンドゥー教の神話映画も巡回演劇のレパートリーから、そのまま引き継がれたものが多かったのです。

往年の「声」を重視する文化の残照

ここで注目したいのは、本作中盤の冥界シーンにおけるオーラルな表現、つまりセリフの重要性です。古い時代の演劇の世界で重んじられていたのは、演じ手の見た目よりも、まず同じ空間を共有する観客に向けられた「声」でした。もちろん舞台上の役者の身体性も重要なのですが、それと同等に、発声のプロとしての役者が、皆の母語であるテルグ語の練り込まれた名文をいかに見事に朗じるかが大切でした。

『ヤマドンガ』

この美意識は20世紀の映画の世界にも引き継がれ、たとえ顔の造作の美しさや肉体美などを備えていても、セリフをきちんと発声できない俳優はスターにはなれなかったのです。

例えば、モーハン・バーブが演じる閻魔大王がインドラ神の天上の宮廷に登場して大見得を切るシーン(45分あたり)、彼は自身を最大限の美麗美句で讃えながら名乗りを上げます。この部分はテルグ語でパディヤム(または複数形パディヤール)と呼ばれる浪曲のようなものです。これは舞台劇で多用されていた朗誦で、映画中では専門の歌手によって吹替えられます。ここでは吹替え歌手のマノーによって歌われ、「Srikarakarunda」のタイトルでサントラCDにも収録されています。

このようなパディヤムは1960年代末ごろまでの南インドの神話映画の中に頻繁に現れ、時には現代劇に採用されることもありました。筆者の観察の範囲内では、南インドの中ではテルグ語映画で最も長く残存していました。こうした節回しをつけて唸る仰々しい韻文にうっとりと聞き入るという鑑賞スタイルが、かつては観客の間で一般的だったのです。

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『ヤマドンガ』

泥棒のラジャは任務の途中、悪漢に追われる女性マヒを助ける。彼女は12年前にラジャが命を救った少女で、幼い頃に両親を亡くし、財産を狙う親族から虐げられていた。一方、ひょんなことから閻魔大王を怒らせてしまったラジャは、地獄に呼び寄せられてしまう。

監督:S.S.ラージャマウリ
出演:NTR Jr.
   モーハン・バーブ
   プリヤーマニ

制作年: 2007