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「観るLSD」は実現し得るのか?『ホドロフスキーのDUNE』と錚々たる監督候補、『DUNE/デューン 砂の惑星』が成し遂げた異様な偉業

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ライター:#市川夕太郎
「観るLSD」は実現し得るのか?『ホドロフスキーのDUNE』と錚々たる監督候補、『DUNE/デューン 砂の惑星』が成し遂げた異様な偉業
『ホドロフスキーのDUNE』
価格:Blu-ray 5,184円(税込) / DVD 4,104円(税込)
発売元:アップリンク
販売元:TCエンタテインメント
© 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED
『DUNE/デューン 砂の惑星』© 2021 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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ホドロフスキーが集めた天才スタッフ・奇人キャスト

1975年、ホドロフスキーはSF超大作『デューン』の製作に着手する。かのジョン・レノンとオノ・ヨーコも制作資金を援助した『ホーリー・マウンテン』が公開された後だったので、世界中の映画界ではすでに「とんでもない映画を撮る男」として有名人だった。

原作小説をもとに書かれた脚本は、ホドロフスキー味を盛大にトッピングしたもので、「LSDと同じ幻覚を、トリップせずに見ることができ、人間の心の在り方を根本から変える映画」を目指し、上映時間はなんと14時間を予定。しかし映画は1年間の準備期間の後、配給元が決まらず中止に追い込まれてしまう。『ホドロフスキーのDUNE』は、そんなホドロフスキー版『デューン』の製作過程を、ホドロフスキーをはじめとした関係者インタビューを中心に追ってゆく。

『ホドロフスキーのDUNE』© 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

まず、ホドロフスキー言うところの「魂の戦士」ことスタッフ、キャストを集めるところからとんでもなく、大友克洋や宮崎駿にも影響を与えたバンド・デシネ作家のジャン・ジローことメビウスをキャラクターデザイナーとしてスカウト。ふたりで制作の支柱となる詳細な絵コンテを制作していて、『ホドロフスキーのDUNE』ではこれをもとに作られたアニメーションが挿入される。

『ホドロフスキーのDUNE』© 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

特殊効果にはジョン・カーペンターの同級生で、のちに『エイリアン』(1979年)の原案・脚本・ビジュアルデザインを担当したダン・オバノン、悪役であるハルコンネン男爵城のデザインには、これまたのちに『エイリアン』のデザイナーとなるH・R・ギーガー、宇宙船などメカデザインにSF本の表紙を多く手掛けていたクリス・フォスと、大天才たちが贅沢にアッセンブル。出演者も、サルバドール・ダリミック・ジャガーオーソン・ウェルズなど歴史に名を残す一級の奇人ばかりが集められ、音楽はピンク・フロイドにフランスのプログレバンド、マグマという完璧すぎる布陣。ホドロフスキーが語る彼らのスカウトエピソードと、集められた側から語られる当時のホドロフスキーという二視点が交差したとき、完成しなかったはずの幻の映画が立ち上がってくる。

『ホドロフスキーのDUNE』© 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

ちなみに、ホドロフスキーが目指した「観るLSDとしての『デューン』」というコンセプトはトンデモでもなんでもなく、そもそも原作者のフランク・ハーバートもマジックマッシュルームの一種シロシビンの愛好家であり、「デューン 砂の惑星」は自身のサイケデリック体験からインスピレーションを得ていた。「デューン 砂の惑星」の鍵となる“スパイス”は、フランク・ハーバート的には「貴重な資源」でもあり、サイケデリックマッシュルームのことでもある。このことはフランク・ハーバートと実際に会って話をした菌類学の第一人者ポール・スタメッツが、2005年の著書「Mycelium Running: How Mushrooms Can Help Save the World」(キノコはいかにして世界を救う?)で記している。

『ホドロフスキーのDUNE』© 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

こんなにいた! 新・映画「デューン 砂の惑星」監督候補

ホドロフスキー版企画の頓挫の後には、ホドロフスキー版『デューン』で集結したダン・オバノン、H・Rギーガーと共に『エイリアン』を作り上げたリドリー・スコットが監督として就任する新企画も、ディノ・デ・ラウレンティスがプロデュースのもとに発足。これには原作者フランク・ハーバートも脚本家として参加したが、撮影されることなく頓挫してしまう。

そしてディノ・デ・ラウレンティスの娘、ラファエラ・デ・ラウレンティスがプロデューサーとして、1984年にデヴィッド・リンチ監督版『デューン/砂の惑星』、2000年にはジョン・ハリソン監督のテレビドラマ版ミニシリーズが作られた。リンチ版は、ホドロフスキーもリンチ自身もはっきり「失敗作だった」と言うほど汚点扱いされているが、ドラマ版に関しては原作に沿った手堅い作りがファンからは概ね支持されてはいる。でもスペクタクルは若干薄め。どちらの作品にしても「良いところも悪いところもある。やっぱり『デューン 砂の惑星』の映画化って難しいよね……」というところなのだった。

デューン (字幕版)

© 1984 DINO DE LAURENTIIS COMMUNICATIONS. ALL RIGHTS RESERVED.

2008年になると、のちに『ハンコック』(2008年)や『バトルシップ』(2012年)を撮ることになるピーター・バーグが監督に就任して新企画が始動。「監督に就任するまで読んだことがなかった」とぶっこいたピーター・バーグは、これまでとは打って変わって父親の死により人生が一変した若者のハードな復讐譚として、R指定の筋肉アクション路線を志向。……それ、わざわざ「デューン 砂の惑星」でやらなくてよくない? というもので、いつの間にか企画は立ち消えに……。

その後はモキュメンタリーSFの傑作『第9地区』(2009年)のニール・ブロムカンプ監督、洞窟ホラー『ディセント』(2005年)のニール・マーシャル監督、リーアム・ニーソンの大ヒットアクション『96時間』(2008年)のピエール・モレル監督など何人もの監督候補が挙がるが本格始動する気配はなく、流れ流れて2011年。<レジェンダリー・エンターテインメント>が映画化権を獲得し、「『デューン 砂の惑星』の映画化は長年の夢」と語るドゥニ・ヴィルヌーヴが監督として立候補したことでプロジェクトは一気に動き出したのだった。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

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