• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 「観るLSD」は実現し得るのか?『ホドロフスキーのDUNE』と錚々たる監督候補、『DUNE/デューン 砂の惑星』が成し遂げた異様な偉業

「観るLSD」は実現し得るのか?『ホドロフスキーのDUNE』と錚々たる監督候補、『DUNE/デューン 砂の惑星』が成し遂げた異様な偉業

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#市川夕太郎
「観るLSD」は実現し得るのか?『ホドロフスキーのDUNE』と錚々たる監督候補、『DUNE/デューン 砂の惑星』が成し遂げた異様な偉業
『ホドロフスキーのDUNE』
価格:Blu-ray 5,184円(税込) / DVD 4,104円(税込)
発売元:アップリンク
販売元:TCエンタテインメント
© 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED
『DUNE/デューン 砂の惑星』© 2021 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
1 2 3

ヴィルヌーヴ版は原作をどう改変したのか

ドゥニ・ヴィルヌーヴ版の『DUNE/デューン 砂の惑星』(2020年)は、これまでの映像化企画のどれとも異なるものだ。ヴィルヌーヴはインタビューで「リンチ版は好きだけど、何かが違う」「ホドロフスキーが考えていた要素を私が取り入れるなんておこがましいこと」と答えていて、『メッセージ』(2016年)、『ブレードランナー2049』(2017年)と立て続けにSF作品を手掛けながら、あくまで自分が13歳の時に読んだ原作の興奮を映画で再現することを目指しつつ、自分なりの「デューン 砂の惑星」を模索していった。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

そこで、ポールの成長物語を主軸にしつつも、女性たちの視点から家父長制の権力構造を描くことを優先事項に据えて脚本を執筆したという。そのため、原作以上に女性キャラクターの役割が増え、物語の鍵を握る生態学者リエト・カインズ博士の役は女性に変更している。これはヴィルヌーヴの育った環境によるところが大きく、フェミニストの母親に育てられたヴィルヌーヴはそのフィルモグラフィーのほとんどで、本人の言葉をそのまま借りると「女性性と権力の関係、社会における女性の位置」を描き続けてきたのだ。

『DUNE/デューン 砂の惑星』では、女性だけの秘密結社ベネ・ゲセリットのメンバーであるレディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)が規則を破って、男性身体として生まれたポール(ティモシー・シャラメ)にベネ・ゲセリット流の訓練をしてきたことが強調して描かれる。このあたりはヴィルヌーヴの子供時代に重ねているところがあるのかもしれない。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

原作の精神は引き継がれた? 鍵は『アラビアのロレンス』にあり

また、ヴィルヌーヴは『DUNE/デューン 砂の惑星』を撮る上で最もインスピレーションを受けている作品として『アラビアのロレンス』を挙げている。というのも、ヴィルヌーヴにとっての『アラビアのロレンス』は、10代の終わりに70ミリ上映を観てから「人生を変えた」ほどの映画だった。「デューン 砂の惑星」に影響を与えた『アラビアのロレンス』、それに影響を受けたヴィルヌーヴ。ヴィルヌーヴが「デューン 砂の惑星」の映画化を熱望した理由は、まさにこれだったのだ。

アラビアのロレンス (字幕版)

© 1962, renewed 1990, © 1988 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

くわえて、長編映画を撮るまでにいくつかのドキュメンタリー作品を撮っていた経験から、できるかぎり作り物ではない自然なショットを撮ることを心がけており、とくに広大な砂漠の景色は圧巻。これは通常、背景合成で使われるブルーバックを改良した砂色の背景「サンドスクリーン」を視覚効果チームが開発して成し得たもので、これによって俳優たちを照らすぎらついた砂漠の照り返しなど、ヴィルヌーヴが望んだ自然光も多分にキャッチすることが可能となった。さすがに肝心要のサンドワームはCGIだが、できる限り現実的に描写するための手間暇をかけたアナログ手法は、他にも多く見ることができる。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ステラン・スカルスガルド演じるハルコンネン男爵は7時間かけて超肥満体型の特殊メイクを施しているし、トンボ型の羽ばたき飛行機・オーニソプターは、実際に11トンもの実機を2つも作っている。神は細部に宿る。観客を没入させる術はフランク・ハーバートからの教えであり、2部作のうちのパート1だけでも、じゅうぶん原作の持つ精神が正しく引き継がれた映画化ということがわかるだろう。

ヴィルヌーヴは『アラビアのロレンス』を「建築におけるピラミッドのようなもの」「映画史に残るランドマーク」と評しているが、『DUNE/デューン 砂の惑星』はヴィルヌーヴなりの『アラビアのロレンス』なのだろう。いまや当たり前となった配信での視聴環境に背を向け、IMAX方式での上映を大前提にした超巨大映画を作り上げたヴィルヌーヴ。続編となる『デューン 砂の惑星PART2』にも期待したい。

文:市川夕太郎

『ホドロフスキーのDUNE』『DUNE/デューン 砂の惑星』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:3ヶ月連続!SF映画~未体験惑星~」で2023年6~7月放送

1 2 3
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook