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苛烈なアメリカ獄中人間セッションが創り上げた到達点!『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】

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ライター:#関根忠郎
苛烈なアメリカ獄中人間セッションが創り上げた到達点!『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】
『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』
アメリカの獄中でメキシコギャング“チカーノ”と出会い、家族として迎えられた日本のヤクザがいた! まさに“事実は小説より奇なり”を地で行く男、KEIの出所後7年間を追った衝撃のドキュメンタリー『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』に、惹句師・関根忠郎氏が唸る。

アメリカの刑務所で服役10年 ―「HOMIE KEI」って何者?

『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』

どこからお話してよいものか、とにかくホントにどえらい男と出会ってしまって面食らっている。今、何気に「出会って……」と言ってしまったが、直接フェイス・トゥ・フェイスで会ったのではなく、映画館のスクリーンを介して、実在のこの男=HOMIE KEI(ホーミー・ケイ)に出会ったのだ。

ある日のこと、映画配給会社エムエフピクチャーズから、『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』というドキュメンタリー作品を見て欲しいという電話があった。「えッ、チカ―ノ? ナニそれ、チカ―ノって……」と問うと、担当者は「アメリカの刑務所で10年間も服役して、メキシコ系アメリカ人のギャンググループ、チカーノと仲良くなった日本人ヤクザを、その出所後7年間に亘って追いかけたドキュメンタリー映画です」と言う。

わたしは「ヘー、スゴ~イ!」とひとまず無責任に反応して、「もうちょっと詳しく」と頼んでみると、電話口では「いやァ、とにかく凄いんです。この男、見て貰えば分かります」との一点張り。「じゃァ資料送って下さいよ、一応」と電話を切った。ケイとは一体どんな輩(やから)なんだ!?

わたしにこんな依頼が来るのは、多分、東映ヤクザ映画の宣伝コピーを20年もの長きに亘って書いてきたからだと思う。自分で言うのも気が引けるが、ヤクザ関連の映画や犯罪物作品といえば、もう何年もの長い間、何かしらの連絡を受け続けてきた。ま、きっと一風変わったヤクザ・ドキュメンタリーの新作か何かだろうと多寡を括っていると、翌日早速プレスシートが届いた。読んでみるとちょっと様子が違う。「チカ―ノになった日本人」というサブタイトルからして実にバタ臭く、宣材類もアクの強いアウトロー映画の空気感に溢れていて興味津々、早速試写を見に行った。

ホーミー・ケイという奇妙な呼び名の日本人男性は、80年代にヤクザとして暴れまわり、バブル経済の真っ只中、新宿歌舞伎町で順風満帆に成功を収めた若者だった。しかしハワイに進出しようとしたことが裏目に出た。FBIの囮捜査で罠に落ちて取っ捕まって、アメリカの刑務所で10年間服役。獄中、天性の度胸と機知でメキシコ系アメリカ人のギャンググループ「チカ―ノ」と肝胆相照らす仲となった。

出所後は日本に帰国。持ち前の商才でアパレル・ブランドを立ち上げたり、ボランティア団体「グッド・ファミリー」を設立して、引き籠りなどの問題を抱えた青少年の育成に打ち込んでいるという変わり種だ。「HOMIE」とは「仲間」という意味があるらしいが、まァ何という驚くべき経歴であることか。

百聞は一見に如かず! KEI(ケイ)の男っぷりに感嘆

『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』

ドキュメンタリー映画『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』は、上映時間わずか73分の小品だが、HOMIE KEIの魅力に引き込まれ、思わずそのハンパじゃない強烈な存在感にシビレた。これまで経験してきた裏社会での激烈な人生航路を内に秘めて、男の品位さを漂わせる、クールな佇まいが素晴らしい。インタビューに沿って、かつての出来事を語る口調、鮮やかな知性すら感じさせる言葉を的確に駆使して、無駄なアンサーを一切しない。常にクールで自慢げな口調もなく、シャイで自然な節度が備わっている。暴力と死の危機の極限を生きてきた証左と言えば褒め過ぎか。興味本位に受け取られまいとするセンスもあり、当の本人に直に会ってみたいと思うくらいだ。

不遇な少年時代に親戚をたらい回しにされ、やがて暴走族からヤクザに転身し、新宿歌舞伎町一帯でワルを働き、何度も暴力の嵐を潜り抜け、いつ殺されるか分からない数々の修羅場を全身で突き抜けてきた。そのハードな過去が言わず語らずの内にも、現在のケイ本人のさりげない風情から滲み出すのは、何というワンダーな魅力だろうか。特異な環境が知恵を授け、苦境を切り抜ける言語を身に着けたのであろう。その容貌もまた、安藤昇の言う「男の顔は履歴書」を存分に感じさせる。

流石と思わせるのは日々の服装だ。現在のケイはアパレル・ブランドのオーナーでもあり、さりげないオシャレ感がカッコいい。チカ―ノ・ファッションも魅力的で、何れにしても“絵”になっている。画面の中のケイとその存在感に思わず惚れ込んだ。無論わたしは彼の過去の非行悪業が如何なるものであったのか知る由もないが、この際それは棚上げしておこう。

73分のドキュメンタリー映像には、当然、アメリカの刑務所内部の実写はない。なぜなら本作は、出所後のケイを7年間に亘って追いかけた回想記となる映画だからだ。もしケイの服役中の物語を描きたいなら、完璧忠実なフィクション作品として再現するしかない。過去、海外の作品には映画史的にもいわゆる「刑務所もの」の系譜があり、幾多のハードな名篇傑作がある。アメリカの刑務所に投げ込まれた日本人ヤクザが、誇りをかけて獄中のメキシコ系狂暴組織チカーノと闘争し、やがて彼らとの間に男と男の友情が生まれ、強い絆さえ結び合うまでのダイナミックな波乱万丈男性劇が作れるだろう。いずれにせよ方向性を見失って難問山積で息苦しい限りの現今日本の社会に一石を投じるシャープで刺激的な作品になるんじゃないだろうか。

恐るべき、そして静かなる実在の男を追って

『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』

ケイの帰国後7年。彼を追ってドキュメンタリーカメラは廻り続けた。その日常、アパレル・ブランドの仕事、昔の仲間との再会。ボランティア活動、母親との確執、現在の妻子との生活等々、興味尽きない展開。しかしクールなケイのテンションが最も上がったのは、昔のヤクザ仲間たちとの再会だ。ヤバイ昔話に花が咲き、かつての悪行と暴力の日々が、あっけらかんと開陳する。しかし過去の悪事は悪事。決して許されるものではないとの自覚は爽やかだ。現在も熱心に続けているボランティアも、過去の免罪符を求めてやっているのではないと言う。

それともう一つ、作品のハイライトであるケイのアメリカ再上陸。出所後、直ちに日本へ強制送還され、入国を禁じられた身だったケイが、欠損した左手の小指を人工指でカバーしたりして何とか入国。アメリカでの撮影は本作のクライマックス。チカーノの旧友メキシカンたちとの再会シーンはグッとくること請け合い。その詳細は書かずにおくが、ぜひ観客としてこの男たちの友情パーティをとくと楽しんで欲しい。仰天驚異の感動溢れる光景を堪能することができる。

ケイは確かに“チカーノ”と呼ばれる荒くれ男たちとの、獄中人間セッションで現在の自己を創り上げた。人間ケイの現在の到達点は、多くの人々の心に極めて爽快な後味すら附与していくことだろう。ああ、こんな男もいるんだねえ。

文:関根忠郎

『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』は2019年5月16日(木)までヒューマントラストシネマ渋谷にて上映、シネ・リーブル梅田ほか全国公開中

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『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』

米刑務所・拘置所を合わせ10年以上投獄されたKEI。刑務所内でチカーノと呼ばれるメキシコ系アメリカ人との出会いによって人生の価値観が大きく変わることになる。
KEIの人生を通して仲間とは何か? 家族とは何か? 人とのつながりとは何か? その意味を問いかけるドキュメンタリー映画だ。

制作年: 2018
監督:
出演: