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「なぜセックスの問題になると、みんな急に生真面目になるのか?」巨匠ヴァーホーヴェンが“禁断の愛”を描いた『ベネデッタ』を赤裸々に語る

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ライター:#佐藤久理子
「なぜセックスの問題になると、みんな急に生真面目になるのか?」巨匠ヴァーホーヴェンが“禁断の愛”を描いた『ベネデッタ』を赤裸々に語る
『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA

本来2019年のカンヌ国際映画祭でのお披露目が予定されていた『ベネデッタ』は、ポール・ヴァーホーヴェンの腰の手術によって仕上げが遅れ、2020年のカンヌに延期されるも、今度はパンデミックの影響で映画祭自体が中止の憂き目に遭う。ならばもう1年待つ、という製作陣の判断で、ようやくワールドプレミアを迎えたのが2021年のカンヌだった。日本公開はさらに2年後となったわけだが、本作はそれだけ待つ甲斐があったと思える、ヴァーホーヴェン節健在の快作&怪作だ。

『ベネデッタ』©︎2020 SBS PRODUCTIONS – PATHE FILMS – FRANCE 2 CINEMA – FRANCE 3 CINEMA

17世紀の修道院を舞台に、ジーザスのお告げがあったと語る信心深い修道女ベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)が、同性愛によって有罪になる顛末を、官能とヴァイオレンスたっぷりに描く。だが、この物語が実話をもとにしていると聞けば、さらに驚くにちがいない。

果たしてどこまでが実話で、ヴァーホーヴェンはそれをどう料理したのか、相変わらずの率直な物言いで語ってもらった。

ポール・ヴァーホーヴェン監督 ©Lex de Meester

「セックスの問題になると、皆どうして急に生真面目になるのか」

―紛れもないポール・ヴァーホーヴェン映画と言えると思いますが、まず、これが実話だったということに驚きました。どのようにこの物語を発見したのでしょうか。

前作『エル ELLE』(2016年)の脚本を担当したデヴィッド・バークがこの原作(ジュディス・C・ブラウン「ルネサンス修道女物語-聖と性のミクロストリア」)のことを教えてくれたんだ。読んでみたら、とても面白かった。当時の裁判の記録があって、本にはとても詳細に紹介されていた。

僕自身ショックを受けたし、こんな話はこれまで語られたことがないから、ぜひ映画にしたいと思った。とくに同性愛のふたりの女性の立場に惹かれた。たとえ民衆に受け入れられたとしても当時の法では有罪だ。同性愛者は16世紀までは火あぶりにされるのが常だった。ベネデッタは火あぶりにならなかったが、生涯監禁され、他の修道女に会うことを許されなかったんだ。

『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

―ふたりのラブシーンは大胆ですが、とくにマリア像を用いた場面では、カンヌの上映会場では笑いが起こっていました。あれも事実なのですか?

いや、あれは僕が創造した(笑)。実際は何かオブジェを使ったという記録はない。映画のなかで、ベネデッタが火刑を宣告されるようにしたのと同様、何かスパイスが欲しいと思ったんだ。

それに人間の身体は神聖なものではない、ということも強調したかった。僕にとっては逆に、セックスの問題になるとどうして急にみんなが生真面目になるのかがわからない。人間にとってセクシュアリティは、生きる上での本質的なことだ。僕らはみんなアニマルだし、セックスもすれば子供も作る。基本的なことなのに、なぜそれを隠そうとしたり、認めたがらないのかがわからない。

『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

―とてもピューリタン的な思考とでも言えるでしょうか。あなたはまた、大胆にカトリックを揶揄してもいますね。

僕はもちろん宗教的な人間ではないが、とくに中世のカトリック教会は、極悪なことをたくさんやっていたと思う。十字軍は出会ったユダヤ人を片っ端から虐殺したし、異端審問や魔女狩りなどもその例だろう。彼らは権力のもとに何世紀もやりたい放題だった。それは事実だ。

『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

「きっとヴィルジニーならベネデッタ役を引き受けてくれると思った」

―あなたは『エル ELLE』のときに、当初アメリカを舞台に考えていたものの、ハリウッド女優たちが誰も演じたがらなかったので、フランスを舞台にイザベル・ユペールで撮影することになったと語っていました。ベネデッタ役も同様の問題がありましたか?

アメリカの女優を探そうとしたら、そうなっただろう。とくに今回はセクシュアリティと宗教という二大テーマが、ことさらネックになるのは明らかだった。

ヴィルジニー(・エフィラ)に頼もうと思ったのは、彼女が『エル ELLE』で演じた役がヒントになったからだ。あの作品で彼女は、ヒロインをレイプする男の妻を演じた。妻はとても信心深い一方で、夫の秘密を黙認している。あの役のヴィルジニーが印象的で、きっと彼女ならベネデッタ役を引き受けてくれると思ったんだ。オーディションはしていない。ただ脚本を送って、やってもらえないかと尋ねた。

引き受けてもらった後は、シーンの詳細なストーリーボードも見せてディスカッションを重ねたが、ヌード・シーンに関して彼女から特別なリクエストや質問が来るようなことはなかった。これは相手役のダフネ・パタキアも同じだったよ。

『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

―かつてシャロン・ストーンが自身の伝記で(『氷の微笑』について)書いているようなことはなかったと。

あれは自分の記憶とはまったく異なるとしか言えないな。

―彼女は今日では、あの映画を誇りに思っていると語っています。

そうだね。当時としては、ちょっと裏切られた気持ちがしたけれど。

『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

「自分の映画はヴァイオレントでもセクシュアルでも、同時に軽快さを含んでいる」

―あなたの作品はヴァイオレントと評されがちですが、ユーモアも重要だと思います。先ほどのマリア像のシーンでの笑いもそうですが、大胆さのなかにユーモアも備えているのは意図されていることですよね?

それはその通りだね。生真面目に描くよりもユーモラスにしたかった。それに昔も今も、世界中で多くの女性が男同様、マスターベーションをしていることは確かだろう。

さらに言うなら、僕にとってユーモアと同様にある種の軽さも大事なものだ。『ロボコップ』はもちろんヴァイオレントだけど、軽さがある。『トータルリコール』もファニーな面がある。実際自分の映画は、多くの場合、ヴァイオレントでもセクシュアルでも、同時に軽快さを含んでいると思う。

ヴィルジニー・エフィラ ポール・ヴァーホーヴェン監督 『ベネデッタ』©2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – FRANCE 3 CINÉMA

文:佐藤久理子

『ベネデッタ』は2023年2月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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『ベネデッタ』

17世紀イタリア。幼い頃から聖母マリアと対話し奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは6歳で修道院に入る。純粋無垢なまま成人したベネデッタは、ある日修道院に逃げ込んできた若い女性を助ける。様々な心情が絡み合い2人は秘密の関係を深めるが、同時期にベネデッタが聖痕を受け、イエスに娶られたとみなされ新しい修道院長に就任したことで周囲に波紋が広がる。民衆には聖女と崇められ権力を手にしたベネデッタだったが、彼女に疑惑と嫉妬の目を向けた修道女の身に耐えがたい悲劇が起こる。そして、ペスト流行にベネデッタを糾弾する教皇大使の来訪が重なり、町全体に更なる混乱と騒動が降りかかろうとしていた…。

監督:ポール・ヴァーホーヴェン
脚本:デヴィッド・バーク ポール・ヴァーホーヴェン
原案:ジュディス・C・ブラウン「ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア」(ミネルヴァ書房刊)

出演:ヴィルジニー・エフィラ ダフネ・パタキア
   シャーロット・ランプリング ランベール・ウィルソン

制作年: 2021