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ステイサムが素人時代の盗品屋スキルを披露『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』ガイ・リッチー監督の紆余曲折キャリア(1/2)

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ライター:#ギンティ小林
ステイサムが素人時代の盗品屋スキルを披露『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』ガイ・リッチー監督の紆余曲折キャリア(1/2)
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ガイ・リッチー監督作『ジェントルメン』(2019年)と『キャッシュトラック』(2021年)が、CS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年2月に放送される。

ガイ・リッチーといえば、監督デビュー作の短編映画『The Hard Case』(1995年)から、多くの作品で物騒かつ魅力的な反社チックなキャラクターを描いてきた御方。彼の手にかかると、シャーロック・ホームズやアーサー王も不良性感度高めなキャラに変貌する。

そんなリッチー作品の魅力は、脚本も書いた長編監督デビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)の時点で、すでにパンパンに詰まっている。

反社ワールド群像劇の金字塔『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

ロンドンの下町を舞台に、ダーティーワークを生業とする方々が、組長クラスから末端のチンピラまで大勢登場する群像喜劇である本作。身勝手すぎる欲にかられた者、ケツに火のついた者、命令に忠実だが肝心の偏差値が残念すぎる者、ただひたすら凶悪な者など様々な反社ワールドの住人が、同時期に次々と別方向から、それぞれの犯罪成功というゴール目がけて突っ走った結果、本来出会うはずがなかった反社たちが次々と思わぬところで遭遇してトラブルを起こし、そのトラブルがさらなるトラブルを生み出してしまう。

ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ (字幕版)

まるで配達中のお蕎麦屋さんの自転車が転んだら、脚立の上で作業中のペンキ屋さんに激突して、落下したペンキ缶を走行中の自動車のフロントガラスにぶちまけられて、視界を奪われた自動車がガソリンスタンドに突っ込んで大爆発! という感じの奇跡的な偶然がピタゴラスイッチ級に重なってしまい、やがて下町の反社がほぼ全員参戦するバトルロワイアルのような一大暴力抗争が展開される。そんな緻密かつトリッキーな脚本を、リッチーは大胆な映像テクニックを駆使してスタイリッシュに描き、犯罪映画史的にも革新的な映画となった。

『ロック・ストック~』でリッチーが提示したキャラクター作りも面白かった。登場する反社キャラたちは一見、僕らが出会ったらプルプル震えあがってしまうようなアグレッシブなムードを漂わせている。しかし、その実態は飛びっきりの教育パパだったり、残念なくらい空気が読めなかったり、ドン引きするほどのバカだったり、人を撲殺する際に特大バイブを使用したりと従来のアウトロー像とは違い、どこか間が抜けている。

リッチーの固定概念にとらわれないキャラ作りセンスは、後の『シャーロック・ホームズ』(2009年)や『キング・アーサー』(2017年)などの古典再開発ムービーでも堪能できる。名探偵ホームズは冷静沈着な学者風、若き日のアーサー王は学級委員チックな熱血漢、なんてルールは完全無視。ホームズはカンフー使いの武闘術探偵に、アーサーはストリートギャングのリーダーにアップデートして、誰も見たことない新キャラクターとして楽しませてくれた。

かつて路上で盗品を売りさばいていたステイサムを主人公に抜擢

『ロック・ストック~』はキャスティングも魅力的だった。リッチーは、映画に登場する反社キャラはリアルかつアグレッシブな存在感のある人物に演じてもらいたい、と考えた。その結果、ロンドンの裏社会とも関わりのあった元ボクサーでクラブの用心棒をしていたレニー・マクリーンや、サッカー選手であり試合と実生活の両方で傷害事件を起こしているヴィニー・ジョーンズなどを起用している。

ちなみにヴィニー・ジョーンズは『ロック・ストック~』が映画デビュー作となったジェイソン・ステイサムとは幼なじみ。少年時代のステイサムは2歳年上のジョーンズの影響でサッカー・チームに入っていたという。その後、ステイサムは11歳の時に飛込競技に出会い、イギリスを代表する選手となる。しかし、飛込競技だけでは食べていけなかったので、父の手伝いで14歳からやっていた露天商で生計を立てていた。主に販売していたのは盗品や偽物のジュエリーや香水……。かなりダークな仕事だ。しかし、人生なにがあるかわからないもので、このダーティーワークが彼を映画界に導くことになる。

『ロック・ストック~』の脚本を執筆中だったリッチーは、当時モデル活動をしていたステイサムがストリートで盗品を売りさばいていた経歴のオーナーと知ると、彼に興味を示す。リッチーは『ロック・ストック~』の主人公のひとりを盗品専門の露天商にしようと考えていた。キャラクターをリアルに描きたい彼は、ステイサムに露天商の売り口上をレクチャーしてもらおうと考えたのだ。

リッチーと会ったステイサムは、すらすらと何パターンもの売り口上を披露。ステイサムの寅さん級の啖呵売に感動したリッチーは、彼が演技経験ゼロなのにも関わらず、主役のひとりにキャスティング。『ロック・ストック~』のオープニングは、ステイサムがマシンガントークで盗品を路上セールスしているシーンからはじまる。つまり、リッチーの記念すべき劇場映画デビュー作は、ステイサムがストリートで磨いた啖呵売スキルで幕を開けるのである。

『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』はバイオレンス映画界&犯罪映画界の新たなスタイルを提示し、後の作品に多大な影響を与えた。

マドンナと結婚後、低迷期を経て古典大作アップデートで手腕を発揮

リッチーが監督&脚本を手掛けた2作目『スナッチ』(2000年)でステイサムは、主役かつ映画の狂言回しに出世。ヴィニー・ジョーンズも前作でウケが良かったバイオレントかつ一匹狼なキャラクターを、さらにゴージャスにした賞金稼ぎを好演。緻密かつトリッキーなストーリーテリング、クイックなカット割りや、ハイスピードから超スローモーションまで効果的に使うアクション・シーン、効果的に使用されるモンタージュなどドライブ感満載の映像で描かれた本作で、リッチー流反社ムービーの魅力は、さらにスパーク。

『ロック・ストック~』と『スナッチ』の2作でリッチーは、犯罪映画の未来を背負って立つ映画監督と認知されるようになった。それなら、これからも粋な犯罪映画をどんどん作ってくださいよ! とファンたちはおおいに期待した。

しかし、そうはならなかった。新たなフェーズを目指したリッチーは、マドンナと結婚し、彼女を主演にした『流されて…』(1974年)のリメイク『スウェプト・アウェイ』(2002年)を監督。セレブのマダムと使用人が、無人島に流れ着いたことにより立場が逆転。やがて愛し合うようになる……という話だが、マドンナが鍛えぬいたマッスルボディを披露し続ける、という良くも悪くもリッチーの妻への愛情が過剰なまでに堪能できる作品となった。その結果、最低映画賞のラジー賞を5部門受賞。ちなみにリッチーが監督したマドンナのMV「What It Feels Like for a Girl」(2001年)は、マドンナが景気のいいカーバイオレンスを繰り広げる内容だった。映画もマドンナ主演の燃えるバイオレンス物にすれば良かったのに……。

犯罪映画へのリハビリ作?『リボルバー』&『ロックンローラ』

その後、リッチーは原点回帰を目指し、再びステイサムを主演に迎えた監督&脚本作の犯罪映画『リボルバー』(2005年)を発表。

リッチーが犯罪映画に帰ってきた! と期待して観たが、リッチーお得意のユーモアを極力排除したうえに、彼の犯罪映画史上最も緻密、というよりも複雑すぎる物語のせいで観てる間、何度も「で、なんの話でしたっけ……?」と睡魔に襲われた。主演がジェイソン・ステイサムなのに、なぜかトレードマークのハゲ頭を封印され、カツラ着用の不自然増毛キャラになっていたことも映画を複雑なものにしていた。たぶん。

当然、『リボルバー』は公開されると酷評された。が、それでも犯罪映画へのカムバックをあきらめないリッチーは、続けて『ロックンローラ』(2008年)を発表。今度はホームのロンドンを舞台に反社キャラが大勢登場する犯罪喜劇という初心に返った作品で、『ロック・ストック~』と『スナッチ』を超える面白さはないものの昔の勘を取り戻しつつあるリハビリ途中のような仕上がりであった。

この先、リッチーはどうなるんだろう……? と心配するファンをよそに、彼は『シャーロック・ホームズ』(2009年)、テレビドラマ『0011ナポレオン・ソロ』(1964~1968年)のリメイク映画『コードネーム U.N.C.L.E.』(2015年)、『キング・アーサー』(2017年)、『アラジン』(2019年)を監督。彼は、これらの古典的な題材を大胆にアレンジし、お得意のトリッキーな映像センスによってオシャレでドライブ感あふれる作品にアップデート。このスタイルによって彼は大成功を収めた。『キング・アーサー』はドン引きするほどコケたが……。でも、アーサー王の仲間にカンフー・ジョージ(トム・ウー)という、歴史的に大間違いだけど映画的には面白いからアリ! なカンフーの達人を登場させてくれているので個人的には愛すべき映画だ。

ガイ・リッチーがジェイソン・ステイサムを“サイコーな状態”で観客にお届けする『キャッシュトラック』&反社セレブの犯罪群像劇『ジェントルメン』(2/2)に続く

文:ギンティ小林

『ジェントルメン』『キャッシュトラック』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年2月放送

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