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「日本のスーパーヒーローや怪獣が大好き!」ニチアサ愛あふれる着ぐるみホラーの快作『キラーカブトガニ』監督インタビュー

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「日本のスーパーヒーローや怪獣が大好き!」ニチアサ愛あふれる着ぐるみホラーの快作『キラーカブトガニ』監督インタビュー
『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

「ああ、はいはい。いつものショボいCGクリーチャーホラーでしょ?」と思った方も多いのではないだろうか?

しかし!『キラーカブトガニ』は全然ショボくない! それどころか「え、これホラー? こんなに夢にあふれた作品が!?」と思うほどのデキで、日曜の朝のヒーロー番組――いわゆるニチアサ――のように、いわゆる子供たちにも見せたくなるほどカッコよく、それでいて感動的な作品なのである!

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

狂暴化・巨大化したカブトガニが人々を襲う

放射線により狂暴化したカブトガニと残酷シーンがフィーチャーされている本作だが、主人公ほかキャラクター立ちがすさまじい。

足が不自由な少年フィルは科学オタクだ。彼は通販で怪しげなパーツを取り寄せては奇妙な実験にいそしんでいた。今回取り寄せたのはガレージの壁もブチ抜く光線を発する強力バッテリー! これを使って、パワフルな義足を作りハンディキャップを克服しようというわけだ。

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

一方、彼の住む町の海岸では、原発からダダ洩れた放射線で狂暴化したカブトガニが大量に上陸。ビーチでいちゃつくカップルを食い散らかし、街へと進軍。折しも今夜はプロム。義足も完成したフィルは幼馴染のアナ、友人の知的障がいを持つラドゥとともに楽しい夜を過ごすはずだった。しかし、当然そこに狂暴化したカブトガニが現れ、さらには巨大化。学校はもちろん街は地獄絵図に。しかし、フィルは負けじと科学オタク力を発揮してカブトガニの群れに立ち向かっていく!

ピアース・ベロルゼイマー監督インタビュー

ホラー映画では茶化されがちな障がい者を主人公に据え、ハンディをモノともすることなく戦う。誤解を恐れず言えば、めちゃくちゃワクワクするしカッコいい。もちろんメインディッシュは狂暴化したカブトガニなのだが、主人公の成長の物語でもあり、最終的にはニチアサを彷彿とさせる、ヒーローバトル映画へと変貌していく。

加えて『キラーカブトガニ』は物理的に表現できない場合を除いて、CGを使わずプラクティカル――CGではなくボディスーツやハリボテ――テクニックを用いているのだ。これがショボいか? というと、めちゃくちゃ手の込んだボディスーツで、おふざけ感は一切ないからすごい。人体損壊についても安易なCGではなく、ちゃんとモゲた足や手、飛び出した目玉など非常に細かい。

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

タイトルに反し、志が高すぎて感動すら覚える。残酷であることは確かだが、後半、着ぐるみ相手にガチバトルを繰り広げる映像は子供たちにも大ウケでないだろうか? しかしエンディングまでしっかりと身が詰まったカブトガニ映画、残念なことにR15+指定。幼稚園児や小学生に見てほしいなあ。

さて、この志の高さは、一体どこからやってくるのか。監督のピアース・ベロルゼイマーにメールインタビューを試みたので、お読みいただきたい。

ピアース・ベロルゼイマー監督

「筋ジストロフィーで他界した叔父が主人公のモデルなんだ」

―最初にチープなワンアイディア・モンスター映画だと思い、ナメて挑んだことを謝罪すると共に、ホラー愛に溢れる作品を創作してくれたことに感謝致します。なぜ“カブトガニ”を主題に選んだのでしょうか?

ありがとう、楽しんでくれたみたいで私も嬉しいよ。子供のころから夏になるとビーチにカブトガニがやってきていて、それを見て育ったんだけど、なぜ誰もカブトガニをホラー映画の題材にしないのか、ずっと不思議だった。見た目は他の生き物と全然違うし、初めて見た人は恐ろしい外見だと思うはずなのにね。アニマルパニック映画が大好きで、そこに登場するユニークで新しいモンスターとして、カブトガニ以外は考えられなかったんだ。

―カブトガニの血液がしっかりと青いことに感激しました。カブトガニについて研究されたのでしょうか? それとも単にカブトガニ好きとか?

昔からカブトガニを魅力的な生き物だと思っていたんだ。子供の頃によく浜辺で見つけては、最高にクールだと思っていた。古代生物らしい見た目をしているし、エイリアンのようにも見える。映画を作る前にカブトガニの生態について何冊か本を読み、事実に基づいた部分を映画に盛り込むようにしたよ。日本にはカブトガニの博物館があると聞いているから、いつか行ってみたいね。

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

―本作は“スペシャル”なキャラクターが活躍する物語となっていました。この点、非常にセンシティブかと思います。フィルとラドゥのようなキャラを中心に据えた理由を教えてください。

人生の大半を車椅子で過ごし、私が生まれる前に筋ジストロフィーで他界した叔父がフィルのモデルなんだ。彼は子供の頃に巨大ロボットの怪獣バトルをノートに描いていたらしくて、この映画はそんな彼に捧げる作品になっている。

ラドゥについては、どこの出身でもなく、何かを代表するわけでもないキャラクターを作りたかった。だから彼の母国語はすべてでっち上げの意味不明な言葉で、地球上のどの言語とも同じに聞こえないようにしているんだ。ラドゥは映画の冒頭では滑稽な役割を担うことになるけれど、カブトガニが人々を襲い、他の登場人物たちが巨大なメカを作り始めると、彼は理性の代弁者になる。この手の映画では、仲間外れにされたキャラはストーリーの早い段階で死んでしまうのが普通だけれど、私はそのやり方が好きじゃない。だからラドゥを映画の幕引きを飾るキャラにしたいと思ったんだ。

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

「日本のスーパーヒーローや怪獣が大好き」

―銃が登場しないことに好感が持てました。あえて銃を出さなかった理由があれば聞かせてください。

銃があれば、人間がカブトガニを倒すのは簡単だと思う。でもそれはフェアじゃない。それに、銃はアクション映画から創造性を奪ってしまうことが多いと思う。映画での銃撃戦は誰だって観たことがあるもの。でも『エイリアン』や『第9地区』のようなSF映画を作ろうとしない限り、私は自分の映画に銃を登場させることはないと思う。携帯電話も同様で、私は映画に携帯電話が出てくるのは好きじゃないんだ。

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

―CGとプラクティカルのバランスが絶妙でした。相当バランスを考えたのではないでしょうか? 苦労されたところなどを教えてください。

そうなんだよ! 最後の戦闘シーンだけでも4年かかっているんだ。プラクティカルな部分はもっと簡単だったけれど、CGは自分でも何をやっているのか分からなくて試行錯誤の連続だったね。CGの多くはベトナムで制作したんだけど、制作を頼んだ会社が新入社員の研修用にこの映画を使っていて、何度かやり直すハメにもなった。80種類以上のバージョンがあるショットもあるしね。

映画オタクのために説明すると、この映画は300fpsで撮影したんだけど、グリーンバックにトラッキングマーカーをきちんとつけていなかったんだ。だからVFXアーティストが300fpsの200ショットほどのクリーチャーをロトスコープ(※実写映像からトレース)して、手作業でトラッキングしなければならなくて、これは大変な作業だった。この映画が完成し、これほどの出来栄えになったのは、もはや小さな奇跡と言えると思う。

―ボディスーツにオブセッションを感じました。もしかして日本のヒーロー物に登場する怪物からインスピレーションを受けていますか?

日本のスーパーヒーローや怪獣が大好きなんだ。スーツを使った戦闘は怪獣バトルとして最高だと思う。CGを使った怪獣バトルも嫌いじゃないけど、ミニチュアのセットでスーツを着た人間2人の戦いに勝るものはないね。子供の頃には日本の『ゴジラ』シリーズをたくさん観たし、『パワーレンジャー』シリーズもかなり観た。最近では『シン・ゴジラ』がオール・タイム・ベスト5に入る映画だと思っているよ。

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

「サメ映画の時代を終わらせるものなんて存在しないと思う」

―監督のルーツとなった作品と、その理由をお聞かせください。

『ジュラシック・パーク』が、おそらく私のオール・タイム・ベスト。でも『キラーカブトガニ』を作るときに一番頭にあったのは『スパイダー パニック!』だね。子供の頃にドライブイン・シアターで見て、大好きになった作品なんだ。『ロストボーイ』や『グレムリン』も大好き。楽しいけどちょっと怖いような映画が好きだから、『キラーカブトガニ』もそうしようと思った。もし自分が15歳だったら一番好きな映画になっただろうな、という作品を作りたかったんだよ。

―日本では“サメ映画へのカウンター”として宣伝されています。サメ映画はお好きですか?

それは面白いね! サメ映画は憧れなんだ。サメの時代を終わらせるものなんて存在しないと思うけど、しばらくはカブトガニにスポットライトを当ててもらうと面白いかも。『キラーカブトガニ2』、『3』、そして『4』も作りたいからね。サメとカブトガニのバトルもアリだと思わない?

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

―フィルとラドゥのキャラが非常に気に入りました。この2人のスピンオフが観たいのですが……作る予定はあったりしませんか?

今はホラーとダークファンタジーの脚本を書いているけど、もし『キラーカブトガニ』がヒットしたら続編をたくさん作りたいね! 私がこれからも映画製作を続けられるかどうかが懸かっているから、この作品の行く末をじっと見守っているんだ。みんな気に入ってくれると良いな!

―最後に一言お願いします!

インタビューしてくれて本当にありがとう。日本での公開がとても楽しみだよ。ぜひ楽しんで欲しい。(日本語で)ありがとうございます!

『キラーカブトガニ』©️2021 RAVEN BANNER ENTERTAINMENT INC.

――思った通りの答えをいただいたというか、ここまで監督のルーツが見えてしまう映画もなかなかない。しかも300fps(秒間300フレーム? マジかよ!)などというクオリテイで制作していたとは、そのコダワリに眩暈すら覚える。また、ハンディキャップや銃への考え方がしっかりしていることから、かなり「デキる」監督と思われる。

続編も希望していることから、サメへの憧れついでに着ぐるみバトル映画職人として、ピアース監督には今後バリバリと活躍してほしい!

取材・文:氏家譲寿(ナマニク)

『キラーカブトガニ』は2023年1月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

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『キラーカブトガニ』

廃炉となった原発が爆破処理されたカリフォルニアのある海辺の町で、謎の行方不明事件が続発し、白骨と化した人間たちが発見される。保安官は当初、人喰いザメの出現を疑うが、被害者たちを食べたのはサメではなくカブトガニ、それも放射能の影響で凶暴化し、さらに巨大化したカブトガニの群れだった…。やがて一匹の殺人カブトガニがゴジラ級に巨大化し、町は壊滅の危機に陥るが…。

監督・脚本:ピアース・ベロルザイマー
出演:カート・カーリー ロバート・クレイグヘッド
   アリー・ジェニングズ ブライス・ダーフィー

制作年: 2021